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神様のおねがい  作者: もやしいため
第八章:使用方法
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超えるべき速度

確かに自分は《亜空間》への矢を収納するのを了承しました。

しかしこんな理不尽なことはあるでしょうか。

現在自分は木に縛り付けられて、ご主人様(マスター)に狙われています。

何で狙われているか?

答えはご主人様の弓に狙われているのです。


白くて綺麗なんですが、あの威圧感バッリバリの弓は何ですか。

『今から殺るぞ』という気概に満ち満ちている感じが激しくします。

自分は今日死ぬ羽目になるんでしょうか?

いえ、そんなはずはありません。

先ほどご主人様も言ったように、《亜空間》への収納が午後の予定なのですから。


「そんじゃスミレ繋ぐよ」


そう声を掛けられて意識が繋がるのを感じます。

ご主人様は数多くのスキルを持ちます。

ということはそれらを全て『意図的に取った』と考えたほうが自然です。

一人が生まれながらに持つスキル数というのは多くて3つなのですから。

そんなことを思っていると不意に


「大丈夫だよスミレ。

 当てないから、動かないで」


ご主人様と【連携】で繋がったことを機に、自分の不安感が伝わったのかもしれません。

『当てない』というのと『動くな』というものに果てしなく疑問があります。

当てないのならば、わざわざ動く必要などありません。

けれど動くなと命令する以上は『当たるかも?』という疑問が浮上するのではありませんか?

相変わらずの遠回しな表現が気に掛かりますが、自分は信じると決めた身です。

何があろうとこの信頼という絆は…


ズドン!


頭の少し上をご主人様の矢が突き刺さりました。

…大丈夫です、まだ辛うじて絆は存在しています。

信じて良いんですよね?

ねぇ、ご主人様…?


「スミレ、集中しないと。

 【連携】で繋がってるんだから分かるよ?

 ちゃんとタイミング合わせないと危ないから、集中ね」

「…はい」


なるほど、そういうことですか。

自分が変に動くと矢を受けるので、縛り付けた。

そして《亜空間》で捕獲し易いように、自分の傍を狙っている。

ご主人様は必ず外す(・・・・)ので、安心して《亜空間》で受け止めろ、ってことですね。

分かりましたが、何故説明してくれないのでしょうか…。


…アレ?

いえ、ちゃんと説明されていました。

フィリカさんのお店でも、木に縛り付けられている時にも確かに。

あぁ…そういえばあの時も状況に付いていけずに気もそぞろだったから聞き逃していたのでしょう。

一応耳には入っていたので今思い出しました。

そう考えるとフィリカさんが仰った様に自分の切り替えの遅さは致命的かもしれまs


ズドン!


着弾点は先ほどよりも近いです。

距離にして5cm程…まさに微動で死ねる距離です。


「っち、近いですご主人様!!」

「えー大丈夫だよ。

 絶対に当てない(・・・・・・・)からさ」


「安心して?」という主人様の笑顔が、自分には恐怖でした。

どれだけ自分の腕に自信があるのだというのに加えて、この状況で笑えるのが自分には全く笑えません。

狙われてるんですよ?

あぁ…違うのですね。

自分から『どれだけ外すか』という狙い方をしているのでしょう。

恐ろしい限りです。

いくら落ち着いて射掛けられるといっても、そんなことをわざわざ行う理由が分かりません。

そもそも自分を狙う必要も…アレ?


「ご主人様!

 待ってください!」

「どうしたのスミレ」


「何で自分を狙ってるんですか?」

「だから《亜空間》に仕舞う練習だよ。

 というか保管さえ出来れば後はスミレの匙加減で使えるからね」


「そこは分かります。

 でも論点が違います!

 『自分を狙う必要性』を教えてください!」


そうなのです。

別に自分を狙わなくても良いはずです。

話の上ではタイミングを合わせてご主人様が自分の開く《亜空間》を射抜くはずです。

つまり自分が合わせる必要(・・・・・・)は無いのです。

それなのに木に縛り付けられてるのは何故なんでしょうか…?


「おぉ…意外と気付くのが早かった」

「な!

 織り込み済みですか!?」


「いやぁ…何だか周りがスミレの事を侮ってるみたいだからさー」


侮るも何も、実際自分の能力や判断力はご主人様含めて最下位です。

他を含めて…例えばガゼルさんやギルバートさん、セリナさん、フィリカさんを含めたところで同じく。

あの人達はご主人様への貢献度と言う点で自分よりも遥かに上位に君臨しているのですから。

自分でも役立たずを自覚しているので、どうしてもその辺りは気になりますが、ご主人様は別でしょう。

貢献度や能力の大小に関わらず、『出来ること』を求められるのですから。


そんなことを思っていると「ごめんごめん」とご主人様が続けます。

しかしどう見ても解いてくれそうにありません。

と言うより改めて弓を引き絞ってませんか?

無理だって言いましたよね?

自分の意見はフル無視ですか?!


「なので《亜空間》の練習を兼ねて物理速度に慣れる訓練(・・・・・・・・・・)をしてみようかと」

「無理ですよ?!」


「うん、でもそれは相手が突く隙にしかならない。

 逆にその速度についていければ、魔法士対策を徹底しているほどスミレに勝てない」

「理屈は分かります…でも無理ですよ?!」


再度言い募りますが、ご主人様の目は変わりません。

驚くべきことに自分がその速度に到達することを信じきっているように思います。

ちなみにライムさんですら物理速度に対抗できるほど魔法展開は早くありません。

あの人は予備動作を読み取り、タイミングを合わせて展開しているだけです。

足りない魔法の展開速度を、予測をもってして補っているという形です。

そんなことを一朝一夕に出来るのであれば『魔法士の近接戦闘』は実現しているはずです。


「大丈夫だって。

 どう見てもスミレの魔法技術は僕よりも上。

 【連携】を繋いでいるからタイミングも分かるはず。

 スミレが出来ない理由は無いよ?

 むしろ出来ないって言うなら、出来るように考えて(・・・)よ」


自分への評価が高いこと自体はとても嬉しいです。

こちらへ来てからというもの、誰もが『魔法は技術である』という言葉を口にします。

『だからこそお前がしっかりしろ』という続きもあるのですが、自分にとっては喉から手が出るほど欲しい言葉でした。

それらを惜しげもなく口に出してくれるのですからやる気も上がります。


しかしですよ。

多くの人が『無理だ』という結論に至った方法を、今この場で何とかしろと言われても無理ですって。

ご主人様なら出来るのかもしれませんが、【空間魔法】が取り柄なだけの自分には発想すらありません。


「高評価は嬉しいですg『ズドン!!』きゃぁ!

 近いです!

 近すぎますご主人様!!」


先程よりも1cm程自分に近くなっています。

これだけの精密な技術を扱えるのは素晴らしいことですが、最早風が吹けば刺さる誤差ではありませんか?

屋内ではないので、風の影響もあるはずですよね…?

これ以上近くを狙われたらその誤差で死ぬこともありえますよね?!


「大丈夫だよ。

 当てる気は無いからさ」


気負い無く言いますが、自分はそれどころではありません。

実際に矢の速度に目は付いていきませんし、着弾して初めて気付くレベルです。

そんなものを受け止めろと言われても困ります!


「そういう問題では!」

「んー…スミレってさ。

 僕の【連携】をちゃんと理解してるかな?」


「え?」

「出来ないのは仕方ない。

 けど『やらない』のは別じゃないかな?

 ちゃんと僕が言ったように【連携】を使ってタイミングを計ってる?」


言われて初めて気付きました。

頭の中では混乱しか無く、せっかく繋いでくれた【連携】は言葉としてだけしか聞いてませんでした。

実際に『全くタイミングが分からない』なんてありえません。

言葉にしなくとも繋がりを感じ、思考会話が無くともニュアンスは伝わります。

つまり自分が出来ないという言葉を使うには早すぎたはずなのです。


「すみません。

 少し時間をください…落ち着きます」

「うん、良いよ。

 集中力を途切れさせないで。

 スミレは、無詠唱まで出来る熟練者(エキスパート)なんだから矢を追うんじゃなく、着弾の座標をタイミングで掴むんだよ」


そう、ご主人様は最初から一貫して「タイミングだ」と仰っていました。

それを何を勘違いしたのか、自分は矢に追いつくことだけを考えていました。

全く意図が違うことに気付くのにこれほど掛かるとは、ご主人様の時間の浪費に他なりません。


集中。


何でも出来るご主人様に対して自分が扱えるのは【空間魔法】だけ。


集中。


であればそれを研ぎ澄ませればご主人様を越えられる。

…いえ、越えねばならない(・・・・・・・・)のです。


集中。


【空間魔法】に関して、ご主人様に劣るようではいけません。


集中。


自分が持つ武器が他者の紛い物に劣るなど、絶対にあってはなりません!


「スミレ、行くよ?」

「はい、ご主人様」


【連携】を通して、微かな反応を感じ取りました。

それこそがご主人様が言っていた攻撃の合図なのでしょう。

何故繋がっている状態でこれほど隠れているのかは不明ですが、集中しなければ到達できない深層です。

瞬間、矢が放たれる感覚を共有します。

着弾点は右頬の3cm先…先程よりも近くなっています。

頭がどうにかなるくらいの処理速度で魔法を起動し、間に合わせます。

使う魔法は【空間魔法】の代名詞、《亜空間》。

着弾座標にタイミングを完全に合わせて起動。

取り込みを試みましたが、余りの威力に《亜空間》を貫通してしまい右頬の3cm横に寸分違わず突き立ちました。

そこで初めて自分は周囲の音を把握します。


「おぉ、凄いねスミレ。

 まさか切り替えて一発目で出来るとは思わなかったよ?」

「いえ…ちゃんと捕まえられていません。

 まさか《亜空間》を突き破られるとは思いませんでした」


「そりゃ攻撃だからねぇ…。

 そこら辺の物を拾うのとはちょっと違うよね」


とご主人様は笑います。

それなのにそんなことを平気でやってるのですから、自信をなくしてしまいます。

一長一短という言葉ではなく、万能であるが故の低レベルを『使い方で補う天才』がご主人様です。

いえ、天才と変人は紙一重なのかもしれませんね。


「む…スミレなんか酷いこと考えてない?」

「いえ、まさか。

 やっぱりご主人様は凄いなぁって思ってただけですよ?」


「目が泳いでるけど…」


それにしても察しが良すぎて怖いです。

気を取り直して「んじゃもいっかい」と言うご主人様を見ながら意識を研ぎ澄ませます。

集中しないと取りこぼし、その分だけご主人様の時間が失われます。

訓練の結果が『無駄だった』なんて言わせないためにも必ずモノにして見せましょう。

自分はご主人様ではなく、『スミレ』なのですから。


「はい、お願いします」


と自分は告げます。

木に縛り付けられている?

今はそんなことはどうでも良いのです。

問題は出来るか否かです。


物理速度を越える魔法構築は行えない。

これは絶対の事実。

であればライムさんのにように物理速度に追いつく(・・・・)魔法構築を試せば良い。


後出しでは遅れる。

全ての集中を、ご主人様に照準しろ。

予備動作を見逃すな。

予兆を感じろ。

射線を見切れ。

掴む座標を確定を。

タイミングを計れ。

魔法構築の最適化を。

展開速度の追求を。

魔法強度を跳ね上げろ!


全ての集中力をご主人様に注ぎ、【連携】が擦り切れるほどに情報を引き出してタイミングを測ります。

次に放たれた矢は先程よりも遥かに遅く感じました。

極限の集中力を発揮したためなのかは分かりませんが、照準した座標への《亜空間》があっさりと間に合いました。

しかしこれで終わりではありません。

貫通されないように渾身の魔力、構築式をこれでもかと重ねて掴み取ります。

次に周囲の音が聞こえた時には矢が木を穿つ音はしませんでした。


軽い虚脱感と、思考を苛む頭痛が押し寄せてきます。

残念ながら集中しすぎ、処理能力を超えてしまったようです。

そう何度も出来ないことを悟りました。


ご主人様、自分はどうでしょうか?

役に立てるでしょうか?


【連携】が繋がったまま、思考会話とも言えない脆弱な自分の意識は希薄に消えていきました。

お読み下さりありがとうございます。

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