新たな試み
改めて魔法について説明すると、魔法は『道具を作るところから』始まる。
火魔法を扱える魔法使いが、いつもタイマツを持っている訳が無い。
というより、持っていたところで起動が楽なだけでそこまで実用性があるわけではないから誰もしないのだ。
だから火を起こすところから毎回始めなければならず、それがタイムラグや処理能力を圧迫する。
そして魔法は起動して終わりではなく、効果が必要なので威力や利便性を求められ、一定時間の維持もしなくてはいけない。
起動や維持に処理能力を取られるがために、魔法士は近接戦闘が出来ないというのが一般論だ。
理熾が手軽に起動した《結界》もそれと同じで、起動や維持に処理能力や魔力が掛かる。
目的は相手の殺傷なのだから、相手を傷つけるに耐えるだけの強度を備えた《結界》が必要となる。
しかしそれだけの効果を持たせてなおかつ維持するとなると難易度がかなり上がる。
加えて近接戦闘などどう考えても個人の処理限界を超えてしまう。
しかも件の結界武器の優位性は『瞬時に形を変えること』である。
『形態変化が戦闘中に変化出来るのか?』という疑問には考えるまでも無く否だ。
それだけの処理能力を武器に注ぎ込めば微動だに出来ない。
であれば。
これらは発想として評価されてもただの大道芸でしかなく、フィリカの目を輝かせることは出来ても実戦では使えない。
「リオ君は本当に良く頭が回るな。
そんな面白いものを見せられては作りたくなるじゃないか」
「ふふふ…それが狙いですよ?
でも、実際はこの武器は作れないと思うよ。
多分僕とリコなら実現出来るけど、使える硬度にすると魔力を使いすぎて現実的じゃない」
「あぁ…そうか。
《結界》を維持するのに魔力が足りないのか。
武器として実用段階にないと意味が無いからな」
「そういうこと。
形だけ似せるなら簡単だよ。
脅しには使えるかなーって思ってさ」
とパパッと形を変えていく。
これらは全く強度を考えておらず、理熾自身も動かずに処理能力を《結界》に全振りで使えているから出来る芸当なのだ。
いくら刻印魔法と言っても簡単ではないのだ。
「ご主人様って…凄いですね…」
「スミレ今頃気付いたの?」
と含み笑いをする。
発想の観点から言えば本当に『誰も考えない』もしくは、『考えても実行しない』というものばかり。
しかもそれらをどうにかして使った結果が劇的だ。
理熾の投剣はCランクの魔物にも通用するし、【空間魔法】を利用した戦闘方法は500の敵を相手取る。
何よりそんなことを実行するのがスミレよりも小さな子供なのだから凄さが際立つ。
「いえ、最初から思ってましたが…」
「それはそれでどうなんだろう…?」
と理熾は首を傾げる。
答えは出ないが、特に気にするほどでもない。
少なくとも侮られているわけでは無いのだから。
現状で理熾と奴隷五人は『侮り』という名の油断からはとても遠い。
一番侮られるような容姿をしている理熾が最も危険度が高いのだから。
大概のことは『理熾が居るしな』と頭を過ぎれば誰が相手でも油断などしないだろう。
「そうそう、フィリカさん。
スミレ用にも投剣お願いします」
「血魔石仕様で?」
「うん、そっちのが便利だろうし。
僕と同じ仕様で5本、お願いします。
それとノーマルの投剣を僕とスミレに10本ずつ。
大きさは少し小さめで、5cmくらい…形は杭型で良いからお願いします」
「構わんが小さい方は何に使うんだ?」
「威嚇用。
投剣の《結界》使うと手の内ばれちゃうでしょ?
それなら僕もスミレも容量に困らないし、威嚇用持った方が賢いと思って」
「なるほどな。
リオ君はともかく、スミレは確かに危ないだろうしな」
そう言いながらちらりとスミレを眺める。
ネーブル達が言ったように、認識力と判断力が足りない。
年齢的には全く問題ないのだが、連れ合いが理熾達では心許ない。
ある程度の戦力を揃えておくのは当然の話である。
「それと更に追加。
僕とスミレの血魔石を人数分プラス5つ…10個ずつお願いします。
単なる目印だから、そんなに大きいのは要らないかな」
「何だかバカスカ追加注文してるが大丈夫か?」
「うん、大丈夫。
コボルトキングの件でスポンサーが付いてるから」
と良い笑顔で語る。
完全に言葉と表情が噛み合っていない。
強請る気満々である。
「そういえば試作品って出来たかな?」
「後一歩だな。
やはり術式の大きさがネックになるな。
とはいえ魔石使えるから今日にでも仕上がるだろう」
「おぉ!
んじゃそれは使い心地試してから人数分だね」
「そんなに作るのか?」
「コンセプトは『自分の予備タンク』だからね。
それぞれ持たないと役に立たないと思って…数お願いするから安くしてね?」
「くく…ホントに金遣いが荒いな?」
驚くと共にフィリカは笑ってしまう。
実際、資産はそこら辺の討伐者の数十倍は持つだろう。
奴隷五人を持ち、それぞれの装備をこれだけ揃えている(しかもフィリカ製)のだから当然の結果ではある。
初見で理熾に「どうせ稼げる」とは確かに言ったフィリカではあるが、ここまでとは思っていなかったのだ。
戦闘経験が未だに乏しいくせに、倒す敵全てが高額。
そんなちぐはぐさにすら笑いがこみ上げる。
「あっと、もう一個。
矢も良いのが欲しい」
「矢?」
「うん。
僕が持ってるのが、緊急依頼の時に貰った支給品。
けどこれじゃ通らない敵が出てきてるからね。
岩石兵も矢が爆散しちゃったし…だから頑丈な矢が欲しいなぁと」
「なるほどな。
特別製の矢というなら面白そうだ。
弓に見合うものを作ろうじゃないか」
一日にして信じられないほどの依頼だ。
それがたった一人から請け負うのだから、フィリカも類を見ない。
何より興が乗る相手という最高のスパイスが掛かっているのだから楽しくて仕方が無い。
「そんじゃスミレ借りていくけど良いかな?」
「あぁ、盾の仕様は朝の内に聞いてあるからな」
とりあえずありがたいことに用無しらしい。
後は寝て待てば出来上がるということだ。
「何処へ行くんでしょうか?」
「昨日投石とかやってたよね。
だったら他のことも出来ると思うんだよ」
「他のこと?」
「うん、とりあえず今は僕の矢を保管する事とか」
「絶対無理です」
きっぱりと言い切る。
絶対にという言葉に力を入れつつ。
しかしやっている理熾は良く分からない。
「魔法が物理の速度に追い付くのは不可能です」
「え、そうなの?」
という理熾の疑問に答えられるのはスミレだけ。
フィリカは既に引っ込んでしまっているのだ。
説明が出来ると思えないが仕方ない、とスミレは頭を働かせる。
「魔法を使うには構築式が必要です。
この構築式はご主人様もご存知の通り、ややこしくて時間が掛かります。
なので落ち着いて準備が出来る遠距離から使用します。
また、回復などであれば対象が動かないので至近距離でも行えます」
「つまり動く相手にリアルタイムで照準するのが難しい?」
「その通りです。
罠のように追い込んでの攻撃や、移動範囲全てをなぎ払う範囲攻撃。
逆に自分達を守るための防御術式なども、本来であれば個別に出来るものではありません。
魔法の照準が大雑把になるのは各人の認識能力と予測能力の差です」
「準備中に動かれたらやりなおしってことだよね」
「はい。
高速で動くものをピンポイントで迎撃するのは不可能です。
単純に魔法に対する構築、処理、展開速度が物理よりも劣るからです。
だからこそ、範囲を守るための《結界》や《障壁》が必要となるのですから」
「なるほど…。
『この辺を守るよ!』ってことでその中に入るってことか…。
僕の使い方ってやっぱり変なんだねぇ」
「全くですよ。
近接戦闘中に割り込みを掛けるなんて誰も出来ません。
そんなことすれば普通は処理能力が足りずに暴発か不発するんですよ?
そもそも動きながらそんなこと用意できる人とか居ないんですけどね」
「おぉ…そうなのかぁ。
ライムが僕の攻撃に合わせて《結界》敷いてたから出来るもんだと…」
「あの人達を『普通』だと思われると一般のギルド員は泣くでしょうね…」
スミレは遠い目をするしかない。
ネーブル達ほど『自分の役割』を理解している者達は居ない。
たった一つの方法しか持たないにも関わらず、それだけで戦況を変えられる彼らは総じてプロフェッショナルだ。
何よりもシミルという大国でも名が知られるほどの一握りの実力者なのだから、比較するのは可哀相だ。
「んー…誘導効果を魔法には乗せられない?」
「そういう術式はあるにはあります。
しかしそんなものを付け足すくらいなら範囲か、威力を上げます。
なので全く使えるレベルにありません。
基本的には命中率を上げるための補正でしかなく、きっちりと追いかけてくれるようなものは無いんです」
「なるほど…」
と割と色々と絶望的だった。
やはり魔法は遠距離からズドンか、広域殲滅が基本スタンスらしい。
単体へ火球を飛ばすというものもあるが、アレは射出速度に補正を掛けて『狙い撃つ』だけ。
下準備を終えた上で一方的に攻撃が出来る環境下だからこそ相手の動きに合わせて狙えるのだ。
準備するだけの時間的猶予も無く、狙いも定められない迎撃など確実に無理という結論に至る。
しかし理熾は諦めない。
「ねぇ、スミレ。
《亜空間》を僕の指示する場所に、指示するタイミングで展開は出来る?」
「それはまぁ…」
「だったらそこを僕が射抜けば良いんじゃない?」
魔法が間に合わないのならば、物理が合わせれば良い。
理熾の発想は至極当然だった。
「ついでに【連携】で繋ぐから、成功率は格段に上がると思う」
『魔法のための技術を物理が提供する』という発想力にはやはりスフィア人は追いつけないのだろう。
スミレはぽかんとしたまま固まる。
悪戯を思いついた子供のように「やってみる?」と聞く。
魔法は魔法、物理は物理。
これがスフィア人は根っから染み付いている。
だから魔法の素質が無いなら武器を手にし、逆ならば魔法を極める。
半端な技術では、熟練者には勝てない。
であれば自分も『熟練者にならなくてはいけない』という常識を強固に持つのは仕方ない。
それらは全て『スキル』という目に見える恩恵を追い求める弊害だ。
「やります」
スミレはきっぱりと宣言した。
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