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神様のおねがい  作者: もやしいため
第八章:使用方法
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《転移門》

理熾が次に目を覚ました時には日は翳っていた。

キングと戦ったのは夕方に差し掛かった辺りだったので1時間ほど寝ていたらしいと理熾は気付く。

あれだけの戦闘を終えた後の休憩にしては短かったが、街ではないのでかなり危ない状況だった。


「おはようございます、ご主人様(マスター)


と頭上から優しく声を掛けられる。

どうやらスミレは膝を貸してくれていたようだ。

恥ずかしいのを押し殺して跳ね起き、周囲を確認する。

目を開けた時にスミレと、葉っぱが見えたからまだ森の中のはずである。

こんな『危険地域ど真ん中』で戦闘要員が寝ている場合ではない。

寝起き早々ゾクリとする危機感と冷や汗が流れる。

しかし。


「うん、おはよう。

 …で、この状況は何?」

「えっと…。

 リコが全部やりました」


とスミレが「犯人はこいつです」とリコを指差す。

周囲がどうなっているかというと、そこかしこに魔物が死屍累々なのだ。

しかも全ての魔物の脳天に矢が突き立っている。

その状況を作り出した犯人(リコ)はというと。

「褒めろ!」とでも言いたげな感じでふよふよご機嫌で揺らいでいた。


理熾は即座に周囲を見渡し、共通点を見つけて理由に見当をつけた。

恐らく真相はこうだろう。

理熾が持つ【空間魔法】をストックし(借り受け)、理熾の持つ《亜空間》を開いて矢を放って仕留めていった。

確かに理熾の【空間魔法】なので、《亜空間》を開ければ理熾の持ち物を取り出せるだろう。

それにしたってキング戦で消費しているので矢の在庫は確か150本ほどしかなかったはずだ。

外せばそれだけ矢を消費するのだが、そんな素振りは無い。

周囲に転がる死体は20体ほどで、しかも矢の在庫は136本も残っている。

つまり一撃確殺と言えば良いのだろうか。


「そっか、リコありがとう。

 守ってくれたんだね」


そんな理熾の言葉にさらに機嫌が良くなったのかくるくる回っている。

踊っているようにも思えるのだが、光の玉にしか見えないので実際は良く分からない。

それにしたって魔物の数はともかく種類も様々だ。

流石に一撃確殺するのは難しい…となれば


「リコ、もしかして【重力魔法】と【空間魔法】を同時に使ったの?」


という結論に至るのだが、そんなことが出来るなら持ち主(理熾)よりもよっぽど使えることになってしまう。

主人として面目が立たないのだが、リコはあっさり上下に揺れる。

Yes、ということだ。


「動きを止めて矢を撃てばそりゃ一撃だよね…」


驚くほど有効な攻撃方法だった。

その辺は今日の理熾との戦闘経験を基にした戦い方だろう。

それにしたって【重力魔法】で重心を掻き回され、膝を付いたところで《亜空間》からズドンである。

このコンボを回避する術があるかどうかすら理熾には分からない。

それはともかく。


「スミレごめんね。

 長時間《障壁》張るの大変だったでしょ」


この場はスミレの《障壁》に覆われているのだ。

流石は<空間使い(ディメンショナー)>と言うべきかもしれない。

本当は高高度で《障壁》を足場代わりに張って安全圏での休憩が好ましかったのだが、スミレには理熾を担げるほど体力が無かったのだ。

だから妥協案というか苦肉の策で周囲に障壁を張り巡らせたのだ。


「これくらいなら大丈夫です。

 それよりもリコが全部倒してくれていたので助かりました」


それはそうだろう。

いくら《障壁》の強度が高かろうと、囲まれて殴られ続ければ割れる。

ちゃんと数を減らせたからこそ、今があるとも言える。

それにしてもリコが優秀すぎである。


と、寝起き一発目にそんなことがあったため忘れていたが、理熾は怪我をしていた。

念のために身体の動きをチェックしていく。

多少右肩に違和感が残るが、特に問題は無い。

結構な怪我だと理熾は思っていたのだが、大したことは無いようだ。

とはいえ、相当に気力・体力共に消耗していて疲労が凄いことになっている。

普段は【体術】がやりくりしてくれていて感じない分余計につらい。

体力回復なども含めて回復薬を改めて頭から被りながら、今後のことを考える。


その場から去る前にやるべきことがある。

ゴブリンとコボルトの討伐部位の回収だ。

それと群れについて報告をしておいた方が良いだろう。

先日もリコとゴブリンの集落(コロニー)を襲撃して100体程殲滅している。

その後でこの数はいくらなんでも多すぎる。

この森には魔物しか居ないのか、というレベルだ。


「それじゃスミレ、回収に行こうか。

 ゴブリンは耳だけ、コボルトは出来るだけ全部ってことで」

「あ、はい。

 えっと…コボルトはほぼ全部回収済みです」


理熾の指示を聞いたスミレがおずおずと答える。

だが理熾は信じられない。

コボルトだけだとしても相当数を倒している。

それをほとんど回収済みとは。


「…いつの間に?」

「ご主人様が戦ってる間にほとんどを。

 この場で残りを…ボスも回収済みですが拙かったですか?」


「い、いや…嬉しいよ?

 え…でも降りてきてなかったよね?」

「はい、上で待機していました。

 自分の《亜空間》の射程が半径30mくらいあるので」


「そんなに?!」

「……ご主人様の方が長いような気がしますが…?」


「いやぁ…3mくらいしか無かったけど…。

 あ、今やればすごい遠くまで出来るのかな?」


と思い立つ。

狙いはリコが仕留めたオーク。

いくら分厚い皮に覆われているオークとは言え、足止めした上で狙い済ませたリコの矢では一撃だったらしい。

とても綺麗な姿である。

【士魂の強弓】の矢を至近距離で止められる相手は相当限られていると思うが。

距離にして10m先に転がるオークを《亜空間》であっさりと拾い上げる。


「おぉ!」


理熾は思わず感動の声を上げる。

これならもしかするともっと遠くまで《亜空間》を扱えるかもしれない。

そもそも3mしか無理だった時点で限界だと考えていたのだから、ありがたい情報だ。


「そういえば前からそうなんだけどさ。

 射程内だと思うんだけど、《亜空間》が開けない時があるんだけど、何でだと思う?」

「それは単に誰かの魔力圏だからだと思います」


「魔力圏?」

「はい。

 何でも魔力を持っていて、その魔力は常に発散されています。

 発散された魔力は周囲を覆っていて、それを『魔力圏』と言います。

 これは無意識なものですが、意識的に制御することも可能です。

 また、発散されるモノによって範囲や密度が違います。


 この魔力圏は『個人の支配領域』みたいなものなんです。

 だからその魔力圏の中に、他人が魔法を使うことが出来ません」


「なるほど?」

「そうですね…。

 例えば自分の魔力圏が1m、ご主人様も1mの場合。

 2m以上の距離を開ければ、お互いに相手の1m圏内には魔法が使えません。

 逆に1mの距離しか無ければ、お互いの魔力圏が邪魔をして相殺してしまい、相手の50cm圏内では魔法が使えません」


「おぉ…距離によっても変わる?」

「はい、他にも強い魔力圏を持つ場合は相手の魔力圏を削れます。

 例えば自分が10m、相手が1mで、距離が1mの時は上手くいけば相手の魔力圏を無視できます。

 相対的な差なので、いつも同じという訳にはいきませんが、ご主人様の疑問は魔力圏の関係だと思います」


つまり身体の中は魔力圏の中でも特に密度が高いところ。

故に体内には《亜空間》はもとより、魔法の基点にすることはほぼ不可能という訳だ。

加えてハイオーク戦で至近距離から矢を放てなかったのはこの魔力圏が邪魔していたから。

何を言ってもあのハイオークは十分に強かったという結論になる。


ここで注意が必要なのは『魔法が発動できない』というだけであるということだ。

結局その魔力圏外からなら魔法を放つのは自由。

当然圏外からの魔法は効果を減じることなく、対象者へ到達する。

単に至近距離では『魔法が発動しない』という効果しかない。


ちなみにリザード戦では血魔石(ブラッディコア)が理熾の代わりとして体内に存在した。

つまりリザードの体内の魔力圏を、理熾の血魔石の魔力圏で相殺して《結界》を張る余地を作ったのだ。

そして《結界》を広げることは『魔法の発動後』の話なので、魔力圏では消されない。

《結界》内も理熾の魔力圏となるので、その中に限り《障壁》を自由に張れたというわけだ。

巨大な敵を相手にする場合に限るが、この方法は相当に有効であるが、理熾はまだ理解していなかった。


「なるほどね。

 その魔力圏が強ければ至近距離でも魔法使えるんだね」

「そう受け取るんですね…?」


「え?」

「いえ、何でもありません」


「そう?

 んじゃま、疑問は解決したし拾っていこうか」


まず行うのはスミレの《亜空間》の中身を理熾に移すことだった。

お互いに無詠唱が出来るのでこのやり取りは時間は掛からず、理熾は適当にコボルトを受け取った。

これで二人で回収が出来る。


それにしても倒した数もさることながら、回収するのも一苦労だ。

今後は倒した端から《亜空間》に放り込んでいくことも考えようと理熾は反省する。

ちゃんと回収させしておけばキングが改めて槍を拾って向かってくることも無かったのだし、『やりっぱなしはダメ』という訳である。


結局この回収は1時間以上の時間が掛かった上に全て持ち帰ることも出来ず、散々だった。

特にゴブリンは討伐部位を取るのが思いの他時間が掛かり半分もやらない内に途中で諦めたのだ。

コボルトが居るのだから脅威を伝える証拠として提出しなくとも良いことに暫くして気付いたのだ。

それによくよく考えてみればゴブリン程度の収入なら無視しても良かったと理熾は後悔する羽目になった。

やはり頭がしっかり回っているとはいえない状況なのだろう。


理熾もスミレも血みどろの状態なので、さっさと帰りたい。

しかし走って帰るとしても理熾は本調子では無いし、スミレも一人では無理。

ここにきてようやく当初の予定(建前)通り、【空間魔法】の訓練である。


「よーし、それじゃこっそりフィリカさんの店に置いてきた血魔石目指して《転移門》だ!」


と勝手にフィリカの店を拠点にしてしまっている。

毎日のように通っているのだから別に問題ないだろうが、許可など取っていない。

まず手始めに魔法薬を飲む。

これも不味いが、貴重品なのと一番効果が出るように頑張って飲む。


「うぇ…まっず…」


これだけで既にかなりやる気が削がれる。

口の中を水で洗い流しながら集中する。


 やり方は簡単なはず。

 一つ目を目の前、もう一つを血魔石で設定すれば良い。

 …アレ?

 順番的に二つ目を設定してからの方が簡単じゃ?


《転移門》の術式構築する際は出入口となる二つの門の設定が必要になる。

そして一つずつ作るのであれば、片方を作った後は維持する必要が出てくる。

維持した状態で二つ目を作るのだから、二つ目の方が処理能力を必要として難易度が高い。

となれば遠い方を先に作る方が楽なはずで、何故それを行わないかが不思議に思った。


「ねぇ、スミレ。

 何で《転移門》って目の前から先に作るの?」

「…?

 そういうものでは?

 単に作り易いとかだと思いましたが…?」


残念ながら知らないらしい。

もしかすると向こう側から作ると不具合があるかもしれないと気にしたが特にそういう訳でもないらしい。

理由があるとすれば教えた人がその工程でやっていた、くらいだろうか。


「んじゃ先に『向こう側』作ってからでも良いのかな?」

「特に問題無いと思います」


「んでは…」


と仕切り直し。

目を瞑って血魔石の場所を探る。

距離は20~30kmくらい。

周囲に敵は居ないから安心しろと言い聞かせて集中する。

森の木々が風に揺れて擦れる音が聞こえる。

集中を。

そばに居るスミレとリコの気配がする。

もっと集中を。

自分の心音が聞こえる。

さらに集中を。

自分と連なる、契約した魔石を探せ。


……

………


「あれ?」

「どうしました?」


「すっごい近くに反応が…って、そうか。

 ゴブリン戦で投剣飛ばしたんだっけ…危ない危ない。

 ちょっと取り寄せるよ」


そういう理熾にスミレは首を傾げる。

確かに投剣を見せた覚えが無いのだから仕方ないが、「さっき撃ったのになぁ」と理熾は思う。

また後で説明しようと心に決めて、《結界》と《障壁》、リコに【重力魔法】を使って貰って呼び寄せる。

距離は500m以上離れていたので取りに行くのが面倒だったのだ。


「ぁー…でもスミレ。

 ちょっと僕じゃ距離がありすぎるみたい」

「そうですか…でしたら自分が」


「うん、だから空から行こうか」

「え?」


「空から」


そうもう一度言って《障壁》を理熾とスミレで交互に階段を作る。

理熾だけでも掛け算で作る《障壁》ならいくらでも作れるのだが、今回は自重した。

理熾の疲労もあるし、何よりスミレが居るのだから楽をした方が良い。

ちなみにスミレは《障壁》を3枚までなら展開出来たりする。

意外とハイスペックなのだ。


トコトコと歩いて上り、木々を超えてアルスの方角を眺め見る。

平原を経由していないから視界は良好だ。


「スミレは《転移門》の射程は『目の届く範囲』って言ったよね。

 ここならアルスまで一直線に見渡せるし、認識限界(500km)よりも短いから大丈夫」


理熾の言い分は正しいが、そんな方法で《転移門》の距離を伸ばした者は居ない。

そもそも高い塔や建物もそれほど存在しないのだから当然なのだが。

そうして開かれる理熾の《転移門》は認識内であるアルス上空に展開された。

更に理熾はスミレに


「スミレ、そこ(・・)に《障壁》をお願い」


と伝える。

目の前に見える《転移門》の出口に足場を要求しているのだ。

空中に鎮座する《転移門》なのだから、足場が無ければ通った瞬間真っ逆さまだ。

『空中を歩く』という発想が無いのと、《転移門》と《障壁》を併用するという考えがない。

さっきまで投石するために併用していたのだが、それは『攻撃として使う』という発想だ。

だから突飛な発想でも受け入れられたが、これは日常使いが出来る画期的な方法だった。

スミレからすると驚きの連続だが、指示に従う。

理熾が作った向こう側の《転移門》を目を凝らして座標を特定し、《障壁》を張ろうとした瞬間に


「あ、そんな気合入れなくて良いよ。

 照準は目の前で大丈夫なはずだから。

 だって『ここ』と『そこ』は繋がってるんだからね」


とスミレがアルス上空の《転移門》の下に照準を合わせていたのを理熾が止めた。

目の前にある《転移門》越しに照準を合わせれば、誤差など絶対に無い。

何せ目の前なのだから。


「今日だけで一生分驚いた気がします」


そう言いながら展開する《障壁》は、スミレの処理能力をほとんど必要としなかった。

お読み下さりありがとうございました。

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