森の中の戦い5
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コボルトが現れた辺りでご主人様の雰囲気が一変しました。
ゴブリンの時とは打って変わって『本気を出す』と言っていたのは嘘じゃなかったようです。
さっきまではただ矢を放つだけだったのが、今では武技まで使っています。
自分は武技に詳しくありませんが、矢が増えたりするのは武技というものですよね?
それにしたって武技を使えたのに、ゴブリン戦では使わずにアレだったんですか…。
どれだけ余力を残して戦っているのでしょうか?
ご主人様が矢を番え、放つ度に10体以上が崩れ落ちます。
ゴブリンの比じゃない速度で倒していく様は圧巻という言葉しかありません。
二度の掃射を終えた時には相当数が減っていますが、距離が近くなりすぎて次の矢を放てそうにありません。
『あぶない!』…そう思った瞬間、接近していたコボルト達がつんのめりました。
転がるモノから、バランスを崩すモノ。
速度が出ている分結構な被害になっています。
それを見計らってご主人様は空に矢を放ちました。
高く上がるにつれて矢が増えているので、アレも武技なのでしょう。
少しずつ速度を減じて、今度は速度を上げて落下していきます。
ふと矢から目を戻せば、ご主人様は新たに十数ものコボルトを倒していました。
が、それすらも突っ切ったコボルトがご主人様に襲い掛かります。
今度こそ『危ない!』とそう叫びそうになるも、何とかこらえました。
目を瞑ることも出来ず、逆に見開いてしまうのは仕方ないと思います。
それぐらい衝撃的なことが起きましたから。
気が付けば剣を握って、振り回しています。
さっき《亜空間》から取り出したところは確かに見ましたが、いくらなんでも弓も剣も使えるって反則じゃないですか?
というよりそんな装備変更の方法知りません…。
と思っていると《亜空間》から矢まで放ってます。
なるほど、【空間魔法】って本当に便利な魔法なんですね…自分は全く使えていなかった訳ですか。
思わず黄昏ていると、さらに空から矢が降り注ぎます。
先程空に放った武技が時間差で落ちただけですが、コボルトにしてみれば悪夢でしょう。
気が付けば広場に動くものはなくなっていました。
あの数をものともせずに退けるのは、一人の戦力ではありませんよご主人様。
そんなことを思っているとそのまま森へと突っ走っていきます。
まさか休憩も入れずに続きを始めるなんて…。
(スミレ!
コボルトに集落は無いの?!)
急に頭に響いたご主人様の声に驚きました。
けれど役に立てる数少ない機会です。
すぐに知る情報を伝えると、安全圏に居る自分の心配をしてくれる始末です。
一番危険なのはご主人様なのに…。
足手纏いでしかない自分を不甲斐なく感じます。
そこで気付きました。
ご主人様は危険の排除を最優先に、素材になるであろう死体をほったらかしです。
自分も<空間使い>の端くれ。
そこら辺の他人よりも遥かに多くの許容量を持ちます。
いや、そもそも《亜空間》を持つ自分達と他を比べてはいけませんね。
こんなことでしか役に立てないことは残念ですが、出来ることを今はしましょう。
ご主人様に荷物持ちの提案をしてみると、「それよりも安全圏に」という返事が返ってきました。
やはり自分の安全が最優先と言ってくれるのは嬉しいものです。
しかしここは<空間使い>として役立ちましょう。
まずは《亜空間》から例の杖を取り出します。
これで少しは楽になるでしょう。
唐突ですが、自分の《亜空間》の有効射程は30m程あります。
これは他者の魔力圏が無い場合に限りますが、結構な距離だと自負します。
そして現在この場は他者の魔力圏はありません。
何せご主人様が全て排除していますから。
なので自分は悠々と安全圏から遺体を《亜空間》へと放り込んでいきます。
確かゴブリンは討伐対象でしかなく、使える素材はほとんど無いはず。
だから素材のランクで言えばゴブリンよりもコボルトでしょう。
毛皮や牙は防寒具や包丁にも使えますからね。
そう思って広場に転がるコボルト達を取り込んでいきます。
取り込めないものも少数居ましたが、それらは生きている証拠です。
午前中にご主人様に見せてもらった投石を真似て《亜空間》で石を拾い、開いた《転移門》に石を落として加速させます。
後は《亜空間》で落下する石を捕まえて、狙って落とすだけです。
<空間使い>が用いる攻撃方法として考えれば、異常な火力だと言えます。
だってお手軽な上に材料がそこら辺に転がるただの石ですし。
《転移門》にしてみても、この近距離であれば開くのは簡単ですし、維持費も軽い。
《障壁》、《亜空間》、《転移門》を並列処理したところで余裕があるのですから、何と合理的な方法かと目を見張ります。
勢いの付いた投石群を生き残りのコボルト上空に配置して止めを刺していきます。
命を刈り取るという行為をしているのにそれほど心が動かないのは何故でしょうか。
目の前でご主人様が繰り広げた凶行に引き摺られているのでしょうか。
いえ、単に命の危機だからでしょうね。
そんな風にご主人様の取りこぼしを倒し、《亜空間》に仕舞う作業をしつつ上空を歩きます。
ご主人様は順調にコボルトの群れを殲滅して行っています。
自分はその後ろをトコトコと追いかけていっているだけなのに、追いつける気配がありません。
気が付けば結構な時間が過ぎ去っていて、コボルトも残すところ後一集団というくらいになりました。
空っぽだった自分の《亜空間》もそろそろ一杯です。
いくらなんでもコボルト296体は多すぎだと思うんですが、それを倒しているんですよね…ご主人様は。
急にご主人様が攻撃している集団が分かれ、普通のコボルトよりも強そうなのが出てきました。
確かアレはコボルトリーダーと呼ばれる魔物だったはず。
ランクはD前後。
盾と槍で武装していて数は10体…いくらご主人様が強くても、アレは危険では…?
と心配したのも束の間でした。
飛ぶように後退するご主人様の後をリーダーが追いかけます。
しかしすぐに半分ぐらいが転んだり木にぶつかったりして付いていけていません。
それを見計らったのかご主人様はまたも空中を蹴って転進しました。
なるほど…《障壁》をまさに壁代わりにしたんですかね?
『地面として使う』という発想だけでなく、そこから発展して使用しているとは流石です。
急接近された強そうなやつは盾を突き出した瞬間に倒れました。
頭に矢が刺さっているので、《亜空間》を使ったのでしょう。
そのまま2体目、3体目、と瞬時に討伐していきます。
これだけ離れているからこそ理解が追い付きますが、近付かれてたら何が起きているのかさっぱりじゃないでしょうか。
今更ですが、前に出てきた中に一際大きなのが居たのに気付きました。
アレがこの群れのボスなのでしょうか?
リーダーの首を刎ねた瞬間にさらに強大になった気がします。
あんなのにご主人様は対抗するのですか…?
そこから先のやり取りは自分の目で理解出来るものではありませんでした。
ご主人様から仕掛けたのにも関わらず、盾で弾き飛ばされたくらいしか分かりません。
今度は逆にご主人様が盾諸共ボスを吹き飛ばしていますが、何故か持っている武器は斧でした。
気が付けば矢を断続的に放ってボスの動きを固め、《障壁》を檻のように囲っています。
ご主人様の《障壁》のバリエーションはどれだけあるのでしょうか…。
たった一つの技術でしかないのに、『駆使する』とはこれのことを言うんですね。
「スミレ!!」
ご主人様とボスの戦闘を観戦していると急に呼ばれました。
思わず『ビクッ!』と全身が強張りました。
驚いてご主人様に意識を向け直すと、《障壁》が解かれ自由になったボスが左腕を振りかぶっています。
「ご主人様!!!」
自分が叫び声を上げたのはいつ以来でしょうか。
余りの出来事に頭は冷え切っています。
辛うじてご主人様は右腕を盾にしたようですが、紙屑のように吹き飛ばされて木に激突しぶら下がっています。
ボスとの距離が開いたのを機に、自分は《亜空間》から石を飛ばしました。
ダメージは見込めないと思いますが、目晦まし…時間稼ぎにはなるはずです。
降り落ちる石を鬱陶しそうに弾かれます。
自分達が感じる雨粒と同じなのでしょうか?
『邪魔ではあるが、痛くは無い』…そんな風にしか見えません。
自分が稼いだのはほんの数秒。
用意している石なんてそんなに多くはありません。
コボルトを投げつけるのも手だなと思いましたが、さらに怒らせれば逃げることも出来なさそうです。
そんなことを思っている内にご主人様が目を覚ましました。
あぁ…凄い怪我です。
肩口が酷く抉れています。
やはり爪で攻撃されたのが響いているのでしょう。
「それ以上は何もしないで逃げましょう」と、言いたい。
けれどそんなことを許さない好戦的な目を、ご主人様に見ました。
ぞんざいに回復薬を肩に掛け、さらに身体に掛けて綺麗に降り立ちボスに笑顔を向けて話しかけています。
「困ったもんだ。
やっぱり僕は余り強くないみたいだよ」
いえ、十分に強いと思います。
けれどこの言葉は届かない。
ご主人様の心には響かない。
「それじゃ、続きをはじめようか」
ご主人様は楽しいのでしょうか?
それとも嬉しいのでしょうか?
怖い。
自分はそう思ってしまいました。
怪我の状態は酷く、出血量を思えば動けているのが不思議で仕方ない状態で、笑って言えるご主人様が怖かった。
ご主人様の感情の内訳は分かりません。
けれどもここに来て、ようやく本気になったように思います。
いえ…単に『死力を尽くす』と言うべきでしょうか。
そこから先は、ご主人様の一方的な攻撃でした。
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あの時と同じだった。
ハイオークと対峙した時だ。
動ける状態ではなかったように思う。
それでも身体を動かした。
今回はその時よりも随分とマシだ。
身体の一部が動かないだけで、その他はほとんど支障が無い。
これなら存分に戦える。
武器を取り出す?
いや、そんな無粋なものはいらない。
相手は槍しか持ってないんだから。
理熾が本気で武器を使えばすぐに終わるだろう。
違うんだ。
今は、この瞬間が長ければそれでいい。
だからリコも手出ししない。
『簡単に倒れてやるもんか』、『簡単に倒してなんかやるもんか』と、無意識に心の奥底が囁く。
理熾には届かなくても、身体が応える。
合理性など必要ない。
今はただ、殺し合おう。
理熾は前に駆ける。
戦い方はさらにシンプルに、殴り合いで勝てば良い。
『武器を使わない』…自身の選択肢を削ることによって最速の答えを導き出す。
右腕は動かない。
だったらそれ以外を使えば良い。
槍の刺突を左の手甲で下へと逸らし、靴に渾身の魔力を投じて《蹴撃》まで発動させて踏み抜く。
残念ながら折れはしなかったが、少し曲がったし、地面にもめり込んだ。
槍を手放さなかった手には相当な負担が掛かったから少しは痛めているだろう。
槍を足場に更に踏み込み、その際にもう一度同じく槍を《蹴撃》で踏み潰す。
今度は流石に手から離れたので、理熾は滞空中に《亜空間》へ槍を仕舞い込む。
着地まで待てない理熾は《障壁》で足場を作ってさらに踏み込む。
《亜空間》から回復薬を空中に放り出して、動かない右腕を身体の回転に巻き込み無理矢理振って縦回転させて《拳打》で殴り割る。
腕から肩に掛けて回復薬を浴びながら、キングの顔面を狙い打つ。
狙いは四つ。
肩の回復と、目晦まし、それに『腕は動く』という意識付けに攻撃だ。
キングは全力で後退して回避する。
当たらなくても構わない。
空中に置く《障壁》を利用すれば理熾の攻撃は途中でいくらでも変化させられる。
腕はまだまともに動かないが、伸ばし切っていれば支えくらいにはなる。
今も振るった腕を《障壁》に突き立て、跳び箱を片手で逆立ちする要領で飛び越え前進する。
空中を駆けてくる理熾にキングはギョッとするが、その間すらも隙である。
理熾は空転しながらの右足での踵落としに《蹴撃》を乗せて顔面向けて追撃する。
これを辛くも頭を右に振って避けはしたが、反撃の無いただの回避では追撃の的だ。
残った左足でも踵落としで連撃を繋ぎ、今度は直撃させるも、残念ながら武技も魔力も間に合わなかった。
それでも高速で繰り出される連撃の威力は低くなく、一瞬だけキングが怯んだ。
瞬間。
理熾はバレーのレシーブのように両手を組んでハンマーの如く思い切り振り下ろす。
空中で前転する勢いに加え、全力の魔力を込めた《拳打》の上位武技、《爆拳》をキングの脳天に叩き込み、ふらつかせる。
勢い全てを攻撃力に転化したため、回転が止まったのを機に《障壁》を展開して空中に着地し、膝蹴りを入れる。
場所は同じく顔面だ。
キングの狼の顔の鼻先がへしゃげ、牙が折れ飛ぶ。
怯んだ拍子にどうやら若干軟らかくなったらしい。
【魔闘技】も気が緩めば密度が下がるから、恐らくそれと同じだろう。
キングの目線の高さを駆け抜け背後に回り、新たな回復薬を取り出してまたも右腕で殴り割る。
多少キングに掛かって回復しても構わない。
回復分多く殴れるのだから。
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告)【sy…
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『五月蝿い!』と無意識下でシャットアウトする。
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告)【g…
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『後にしろ!』と完全に無視を決め込む。
今の理熾の思考は戦闘のみに特化している。
それ以外の情報の入る余地など無い。
次の狙いは背骨。
反動の大きい《爆拳》は壊れた右腕では流石に無理なので《拳打》で我慢する。
狙い違わず背中を強打し、前方に吹き飛んでいくのを追いかける。
木にぶつかり止まったキングに《蹴撃》の二連撃、《連脚》を両足で交互に合計四連撃入れるとキングを支えていた木がへし折れた。
気にせず理熾はようやく握力の戻ってきた右腕で回復薬を殴り割ってさらにキングを殴り飛ばして次の木に張り付ける。
前後が入れ替わってキングの正面がこちらを向く。
反撃をしようと腕力に任せて腕を伸ばすも、理熾は左の《拳打》で迎撃。
お互いに反動を受けるが、キングの背後は大木。
衝撃を逃がせず、木に打ち付けられ呻く。
理熾の背後は何も無く、受けた反動を回転にすり替えて右腕の裏拳を繰り出す。
軌道上には《亜空間》から取り出された回復薬、そして磔のようになっているキングを轢くように。
ノーガードで胸の辺りに攻撃を受けたキングは呻くしか出来ない。
回転力を全て威力に乗せた理熾は正面で止まり、《拳打》の連撃、《乱打》を放ってキングを木に縫い付け、へし折る。
そんなことをもう2度程繰り返した辺りで右腕は苦も無く動くようになり、ようやく本気で殴れると理熾は喜ぶ。
併用するパッシブスキルも【限界突破】の恩恵を受けて活性化している。
理熾は【魔闘技】を過剰な魔力で起動し、【空間魔法】の《障壁》で右腕を覆い、全力で空間に繋ぎ止める。
これで発射台は完成した。
キングは木を背に理熾を睨んでいた。
ぼんやりとしか見えていないだろうに、眼光だけは鋭く光っていた。
意識はある、殺意もある。
しかし痛めつけられたキングの身体は動かない。
ヤツはこれが『最後の攻撃』だと感じ取っているだろうか。
そんな思いを理熾は抱く。
そして「これで終わりか」とも。
ギチギチと身体中の威力を集中し決壊する直前に《障壁》を解いてキングの胴を殴りつける。
【士魂の強弓】の矢ですら刺さるだけだった強靭なキングの胴に穴を開け、背後の木諸共吹き飛んでいく。
この攻撃に名前は無い。
【空間魔法】を駆使して放つような武技は無いからだ。
理熾は荒い息をしながら、周囲を【索敵】で探る。
周りで観戦していた残りのコボルトも気付けば居なくなっていた。
ボスが倒されたので逃げたのだろうか。
だとすればありがたい。
いくら回復薬やらで体力やダメージを回復しても限界はある。
そして理熾の限界は割りともう目の前だ。
「スミレ、ごめん。
ちょっと休むから後お願い…」
最後に一瞬だけ【連携】を繋げられたのは幸運かもしれない。
音声と共に思考会話が成り立ち、スミレが反応できたのだから。
そして完全に力を使い切った理熾はそのままパタリと倒れこんだ。
お読み下さりありがとうございます。




