森の中の戦い4
信じられないという思いで一杯だ。
相手に【隠蔽】が無ければあのLvとスキル群は本物という訳だ。
というより隠していたのなら、今更見せる必要など無いのだから本物のはずである。
最初に見た時は『見学者』ということで見分けが付いた。
逆に言えば他とほとんど変わらなかったのだ。
それが今では他のコボルトの倍ほどの大きさ。
毛皮は艶が増し、強靭さを感じさせる。
更には両腕(前足)が異常に発達している。
一体…20分くらいで何があったの?
理熾がそう思うのも仕方が無い。
どう考えてもありえない成長速度なのだ。
パワーレベリングをしたリコですら半日掛けて10程度しか上がっていない。
しかも低Lvだからこその速度なのだ。
それがこれではやってられない。
けどこれが現実。
仕方ない…倒そう、うん。
理熾はそう腹を括る。
この場から逃げても構わないだろう。
これだけの群れをほとんど殲滅したのだから、誰も文句は言わないし、言えない。
こんなもの個人でどうにかするレベルを遥かに超えた事態なのだから。
理熾が対処できた唯一の理由は数は多くともFランクの魔物だったから、ところくらいだったろうか。
さて…って、え?!
気合を入れなおそうとした瞬間、キングがリーダーの首を刎ねた。
素手なので爪を強化したのだろうか。
頭はあっさり地面に落ちた。
その瞬間、キングがまたも変化した。
ギチギチと全身の筋肉が脈動し、さらに一回り大きく育つ。
今や約3mクラスの巨大な狼にまで育っている。
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種族:コボルトキング
Lv :52
スキル
パッシブ
嗅覚Lv6
集団戦闘Lv6
経験集約Lv5
身体強化Lv3
堅牢Lv2
強靭Lv2
守護者Lv3
アクティブ
部位強化Lv7
凶暴化Lv3
凶刃Lv2
ユニーク
戴冠者Lv5
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理熾は瞬時に理解した。
キングはこうやって…味方を倒し、味方を糧に、自分を強化したのだ、と。
群れを生かすため、個を犠牲にする。
分かる話ではあるが、これは余りにも直接的すぎる。
理熾には嫌悪感しかないが、それもこれも脅かす者が居るからだ。
でなければ500にもなる群れに育つはずが無い。
キングが強化にばかり勤しんでいれば、これほどの数に膨れ上がるはずが無いのだ。
なのにそれが実行されたのは完全に理熾のせいである。
こんな手段を取らせたのは理熾が居たからなのだ。
だが理熾としても言い分はある。
狩りの場に出くわし、狩られそうになったのだ。
死なないために抵抗したらこの惨状なのだ。
生存競争の果てなのでお互いに仕方ない。
これを倒せば、とりあえず終わりか。
残るは背後に居るコボルト40体ほど。
静観を決め込む辺り、これが最終決戦なのだろう。
集団戦闘が得意だとしても、理熾を相手に集団で攻めたところで意味が無いのは自明の理だ。
連携の合間を縫って確実に数を減らされるのだ。
それに攻撃は《障壁》や服に阻まれ傷を負わせられず、体力も回復してしまうので徒労でしかない。
消耗戦すら成り立たないのであれば犠牲しか増えず、それなら強力な個体が対応するしかない。
それが、目の前に立つコボルトキングなのだろう。
キングは落ちた盾と槍を拾い、具合を確かめる。
キングが持つ個々のスキルを詳しくは知らないが、盾や槍に関するものは無かったはず。
しかしあっさりと振り回す辺りどうやら扱えるようだ。
先手、必勝!
足元に《障壁》でスタート台を構築し、リコの【重力魔法】で重量を緩和してスタートダッシュを決める。
彼我の距離は20mほど。
今の理熾なら瞬時に詰められる距離である。
接近しながら剣を振るう。
圧倒的な速度と、黒鎖鋼の【切断】に加え、乗せる武技は《切り払い》。
普通に受ければ周りに聳える生木の大木ですらも両断する。
が、受ければ相当な衝撃を受けたであろう攻撃をキングはあっさりと盾をカチ上げていなす。
剣身が盾を滑り、キングの頭上を越えていく。
理熾の体勢もそれに付いていくように姿勢を崩すが、空中に《障壁》の足場を作ってさらに加速する。
盾を単なる障害物に見立てながら、盾の正面に陣取って身体を隠しつつ矢を放つ。
理熾の放つ矢は《亜空間》を経由するのでありえない場所からの発射が可能で、油断していると足を掬われる。
それでもキングは危なげなく躱した上で盾をさらにカチ上げて理熾を弾き飛ばす。
浮いた理熾を槍で貫くべく突き込むが、そこには既に理熾が作った《障壁》が鎮座する。
しかも正面ではなく角度を付けてあるので、貫くことなく槍は理熾の横を滑っていった。
そこでお互いに距離が離れ、仕切りなおしとなったのだが理熾の顔色は悪い。
お互い危なげないやり取りに見えるかもしれないが、たったこれだけのやり取りで理熾の思考能力はほぼ全開に使い切っている。
どちらの旗色が悪いかと言えば圧倒的に理熾だった。
いくら知られているとは言え、理熾の剣戟をいなし、矢を躱した上で反撃までされているのだ。
今までこんなにも『戦った』ことは無い。
理熾は基本的に一撃必殺、初撃確殺、奇襲と不意打ちを得意とし、相手が全力を使えない状況下で打ち勝ってきた。
それなのに全ての攻撃に冷静に対処され、なおかつ反撃まで受けた上で、受けた反撃に対するカウンターが出来なかった。
『尋常の勝負』など理熾には必要なく、絶対なのは勝利という結果のみ。
それなのに目の前のキングは理熾を『尋常の勝負』に引きずり込む。
やりにくい…。
盾と槍ってあんなに強いんだ…。
感想はそれくらい。
キングの強さはステータスが物語っている。
相手の能力を見れるのは反則だと理熾は思っている。
それだけで気を付けるべき部分は限定され、警戒すべき場所を抑えられる。
だがこのキングからは『ただ強いだけ』という情報しか分からない。
もっとスキルの内容を知る必要があるね…。
でなければこれ以上の敵に遭ったら理熾に勝ち目など無い。
理熾が勝つためには敵以上に敵を知らなければならないのだから。
今度はまず矢を放ち、盾を構えさせる…つもりが、単に横にスライドして避けられた。
【士魂の強弓】から放たれる矢は速く、威力も高い。
その矢が《亜空間》という奇襲攻撃にも関わらずあっさり躱されてしまった。
しかしそのせいでキングの身体は既に動き始めてしまっている。
避けられたところで、理熾の思惑通りなのだ。
横へと逃れたキングに剣で追撃する。
先ほど盾で防がれたのだ。
今回も盾で抑えに来るだろうと予想を立てたのだが、武技を乗せなかったのが悪かったのか、予想に反して槍で払われてしまった。
弾かれて流れてしまう剣を《亜空間》に仕舞って体勢を立て直すついでに、身体を回転させて横薙ぎに斧を抜き放つ。
乗せる武技は《両断》。
身体に巻かれ、理熾の筋力を乗せて放たれる斧はキングの盾に直撃する。
流石に初見の攻撃はいなせずに、盾の強度とキングの膂力頼みの受けとなった。
しかし理熾の持つパッシブとアクティブスキルが全力稼動している攻撃は、盾諸共キングを弾き飛ばす。
近くの木に身体を強かに打ちつけたはずなのに、キングは元気らしい。
身体に不具合が無いらしく、そのまますぐに槍を構える。
その辺のリーダーとは出来が違うようだ。
しかし同じく飛ばされた盾は既に理熾が《亜空間》に回収済みだ。
これでキングが持つ武装は槍のみ。
いや…【部位強化】が高いから武器取り上げても危ないね…。
と理熾はげんなりする。
少なくとも防ぐ術は取り上げたので、理熾の攻撃が通らないということは一応なくなる。
その分身軽になっているため、回避される可能性は格段に上がったのだが。
んじゃ、これならどう?!
《亜空間》を断続的に開き、矢を浴びせる。
盾が無い以上は立てこもることが出来ず、しかも放たれる矢は理熾の立ち位置とは全く関係の無い。
四方八方から放たれるものの、何かしら察知する方法があるのか全て避け、槍で弾き飛ばされてしまった。
しかしそれはそれ。
目晦ましでしかない。
秘かに《障壁》の前段階の幻視の鉄線を組み、タイミングを見計らう。
今回の形は完全に檻。
しかも四方を猶予1m弱とかなり窮屈に作ってある。
檻に捕らえれば身動きもそれほど出来ないため、矢の餌食になる。
きた!!
瞬時に魔力を注ぎ込む。
一瞬の内に構築される《障壁》の檻は、速度重視の弱いもの。
しかし覆った瞬間はキングも慌てた。
アテレコするなら「伏兵か?!」という感じだが、そんなものここには居ない。
慌てた分だけ時間を浪費し、浪費した分でリザードの体内で作ったレベルで強固な檻が完成した。
圧倒的な強度と、狭い檻は完全にキングを捉え、矢の雨を浴びせかけた。
しかしそれでもそれらの矢に反応し、防御に徹したキングは生きている。
突き刺さった矢がとても痛々しいが、しっかりと呼吸をして、目はギラギラと理熾を睨み付けている。
予想以上に毛皮は硬く、矢では止めが刺させなさそうなので投剣を放つ決意をした瞬間、キングは狭い檻から全力で槍を投げた。
放たれた槍を警戒したが、理熾の遥か上空を飛んでいく。
「はて」と理熾は思うが、キングの口はにやりと笑っている。
その瞬間思い出した。
「スミレ!!」
檻を作る《障壁》に注ぎ込んでいた集中力と魔力は一瞬の内に解けた。
すぐに槍の軌跡を追うが、既に何処にも無い。
見上げる先にはスミレが「え?」という顔をして佇んでいて、一切危害が加えられていない様子だ。
放った槍は方角だけしか合っておらず、狙いは滅茶苦茶だったらしい。
そのことに安堵した瞬間、肩口を重い衝撃が走った。
次に感じたことは、痛いだった。
気が付けば蔦か何かに引っ掛かってバンザイ状態で木から逆さにぶら下がっている。
右肩を負傷したらしく、血が滴り全く動かない。
肩が熱く、千切れたと言われても信じられるくらい痛かった。
握ることも出来ないのだから割と大怪我なのだろう。
たまたま左手で握っていた斧はまだ手元にあったのは幸いだった。
拾われたらたまったものじゃない。
意識を手放したのは本当に一瞬だったようだ。
キングから15m程離れた木に逆さ吊り状態なのだが、まさか吹き飛ばされたのが空中だとは思わなかった。
ハイオークですら真横に20mしか飛ばせなかったのを、コボルトキングは理熾を木に引っ掛けているのだ。
やはり投剣と矢の威力の差は如実に現れている。
あのランクの魔物が攻撃すれば理熾を殴り飛ばすくらい訳ないのだろう。
まいった。
まさかそんなフェイント使われると思わなかった。
スミレを狙われたことで血が上った頭は一瞬で冷えた。
冷静さを欠くというのはこういうことになるのだと、改めて気付かされた。
しかしこのままぶら下がってる訳にもいかない。
少なくともスミレの存在はバレている。
そして時間が経てば経つほど理熾もスミレも危険度が増す。
斧を《亜空間》に仕舞い、代わりに回復薬を取り出してとりあえず肩にぶっ掛ける。
既に痛みは限界に達しているので沁みることも無くてそこは良かった。
動きさえしなければとりあえず傷は塞がるだろうが、これからさらに激しく動く予定だ。
だから理熾は【限界突破】を意識的に稼動させる。
他のステータスを犠牲に無理矢理に引き出すのは回復力。
五体満足で帰らなくてはセリナに怒られるからだ。
さらに回復薬を身体に掛ける。
とりあえず応急処置は終わり。
後は実地で何とかするしかない。
相手もそれほど待っていてくれはしないのだから。
足に引っ掛かっている蔦を矢で切り、落下する。
理熾は《障壁》の壁を作り、動く左手を掛けてバランスを取り直す。
リコは心得たもので【重力魔法】で勢いを緩和してくれる。
まだ右肩は動かないが、理熾はちゃんと二本の足で着地する。
「困ったもんだ。
やっぱり僕は余り強くないみたいだよ」
嘆く声に悲しみは無く、むしろ楽しさが滲み出ていた。
理熾は別に戦闘狂ではない。
それでも勇者や英雄には憧れる。
多くの敵を打ち倒し、絶望を希望に塗り替えられるのならやってみたい。
問題の多くはそんな簡単な話ではないとは知りつつも、それでもやっぱり憧れる。
そして、理熾は『男の子』だった。
普段は枯れたようなことを言っても、戦う環境と、戦える力があるなら存分に振るいたい。
その存在が今目の前に居るのだ。
倒すべき敵、越えるべき障害、全力をぶつけられる相手が目の前に。
理熾自身そんな考えは毛頭無い。
無意識下の欲求が表情に出ているだけ。
怪我をしたことによる危機感が闘争本能を刺激し、枷が外れたとも言える。
「それじゃ、続きをはじめようか」
理熾は笑顔で告げた。
お読み下さりありがとうございます。




