森の中の戦い3
広場を後にし、木々を突っ切り森を行くと多くのコボルトがまだ居た。
視界に入った瞬間に【隠密】を使って気配を消したので向こうには気付かれていない。
既に広場で100体ほどを倒していることを思うと夥しい数だ。
【索敵】で感知した反応を地図上に赤く印を入れたなら、周囲は真っ赤になる程度には多い。
この中からボスを探し出さないといけないと思うと気が重い。
(スミレ!
コボルトに集落は無いの?!)
急に【連携】を繋いで質問したのでスミレは驚いていたが、すぐに答えが返ってきた。
この反応の速さが今はありがたい。
(無いはず、です。
獲物を探して移動する魔物ですから)
その言葉を聞いて肩を落とす。
集落があれば話は簡単だったのだ。
取り合えずそこを攻め落とせば終わりだったし、たまたまボスが不在でも集落を取り返しに参上するだろう。
それが、無いらしい。
だとするとこれだけの数を引き連れて一体何処から来たのだろうか。
(そっか、ありがとう!
危ないから降りてきちゃダメだよ!)
(は、はい!)
そんな返事に理熾は
何か物凄い素直になってない…?
泣いた後くらいからだと思うけど…。
何だろ…見直されたのかな?
と理熾には原因が分からなかった。
過去にライやノルンといった態度を変えた者も居るのでそれと同じだと取り合えず思うことにした。
それよりも目の前のコボルト達をどうするかだ。
(あの…)
(どうしたの?)
(この死体は持ち帰らなくて良いんですか?)
(欲しいけど、今は暇が無い。
スミレも危険だから無理に取る必要は無いよ。
今は安全第一でよろしく!)
それだけ伝えてまたスミレへの【連携】を落とす。
そちらに意識を割くのも大変なのだ。
ゴブリン相手にやったように【隠密】を反転させて注意を集めても良いが、全部を集めるほど遠距離までは届かない。
使用方法が違うスキルだから当然ではある。
そもそもそんな『スキルを暴走させる』なんてのを常用する方がおかしいのだから。
仕方ない…。
近付いてその都度使って集めよう。
【隠密】を無茶な使い方をするので一時的に使えなくなる、ゲームとかで言うところの『クールタイム』が発生する。
その間に集まったコボルトを倒して移動し、クールタイムが開けたら再度使うという局地の殲滅戦を決意する。
すぐさま【隠密】を反転させて注意を集める。
相手が単体なら遠距離からの狙撃が出来る弓でも良いが、敵は複数。
射程や精度はともかく狙い撃つほどの時間はなく、広域攻撃を使うには障害物が多すぎるのだ。
だからと剣を握り直し、気合を入れる。
第二ラウンド開始!
いくら気配を放ったといっても一瞬。
それをガサガサとすぐに集まってくる辺り、相手も気配察知に長けているようだ。
今更ながら【解析】を忘れていることを思い出す。
しかしリコはしっかり使用済みだったようだ。
理熾よりも余程抜け目が無い。
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種族:コボルト
Lv :23
スキル
パッシブ
嗅覚Lv2
集団戦闘Lv3
アクティブ
部位強化Lv2
戦闘経験Lv3
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すぐさまリコから引き出した【解析】結果を見る。
思い当たるのは、「意外とLv高いな?」というところだ。
確かオークがLv16だったはず。
何でコボルトがこんなにLv高いんだろう?
種族で上がり易さに差がある?
だとしても強さとLv差は一体…。
と戦闘中にも関わらず、頭の端っこで考えを展開する。
森の中の戦闘ということで、視界は悪く、悪路。
しかし理熾の足場は《障壁》によって問題なく機能し、しかも『地面ではない場所』までをもを踏みしめられる。
この時点でコボルトが理熾の行動を予測できるはずが無い。
加えて木々が邪魔なのだ。
広場のような場所であれば数の暴力はとても役立つ。
こんな障害物の多い場所では、同時に攻撃できる数は少ない。
逆に障害物を使って囲めば有利になるだろうが、理熾の殲滅力と機動力の前に包囲が完全に追いつかないのだ。
さらに近接したコボルト達は瞬間的な眩暈と倦怠感に包まれる。
それらはリコ使用する【重力魔法】と【精神力吸収】の効果である。
【重力魔法】の展開は一瞬で、しかも攻撃ほども魔力を込めず、方向や重力の強度をランダムに設定してバランスを崩すことに特化している。
その上で【精神力吸収】で相手の疲れを引き出し、自身のMPを回復させる。
リコは使った以上に回復し、理熾が使う《障壁》や【限界突破】で消費する分までもパスで送ってまかなっている。
現状の無双状態はリコの補助のおかげと言って差し支えないレベルなのだ。
刻一刻と数を減らしていくコボルトを引き連れ移動を始める。
【隠密】のクールタイムが終わったのだ。
ある程度集団の中に切り込み、【隠密】を暴走させて気配を放って新たなコボルトを呼び込む。
少数のコボルトを引き連れただけの一番手薄な背後を突破して、全体的に敵を正面に見据えて集団戦闘開始。
後は同じ要領で討伐していく。
間で《亜空間》から回復薬を吐き出して剣で切り落として回復するのも忘れない。
出来る限りリコも被るように指示している。
全力行動が行えるのは【限界突破】の恩恵だが、それらは全て『理熾の能力を酷使』して得られている。
体力はもとより、生命力や精神力に至るまで使っているので、要所の回復が必須なのだ。
二足歩行で武器を持つということだが、今回相手にしているコボルト達はいずれも武器を持っていない。
よって四速歩行で牙や爪の攻撃してくることになり、ウッドウルフと同じ対処が出来ている。
この辺りは理熾の幸運だと言えるかもしれない。
もし武器を持っていればそれだけ対処に幅が増えてこれだけ早く討伐することなど無理だっただろう。
しかしこの相手の数を思えば装備を揃えるのも大変なので、運が良いだけというわけでもないだろうが。
3度目にしてようやく数が減ったかな、と思える程度にまで【索敵】の反応が減ってきた。
討伐数で言えば広場を除いても既に200は倒しただろうか。
それでもまだ居るのだから、全く恐ろしい数である。
こんな群れを理熾が発見したからこそ数を減らせているが、並みのパーティなら押し潰されて終わりである。
そもそもアルスにまで押し掛けられてはまたも緊急依頼となりかねない。
流石にこの頻度で街を賑わしては不安に駆られてアルスを離れる者が出かねない。
機微を推し量る商人なんて特にそうだろう。
あと、ちょっと!
とは思うものの、この期に及んでまだボスを見付けられていないというところがかなり気掛かりだ。
数をかなり減らしたので対処できないということは無いだろうが、それでも強力な個体だろう。
そんなことを思いながら作業のようにコボルトを討伐していると、雰囲気の違うモノを発見した。
何、アレ…?
すっごい見られてる。
観察、ってやつ?
戦闘が行われているにも関わらず、理熾と距離を取りつつも視線を外さない。
理熾の一挙手一投足に視線を這わせて読み取ろうとしているような、そんな目だ。
すぐさまリコの【解析】が捉え、結果が脳裏に浮かぶ。
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種族:コボルトキング
Lv :27
スキル
パッシブ
嗅覚Lv5
集団戦闘Lv5
経験集約Lv3
アクティブ
部位強化Lv4
ユニーク
戴冠者Lv3
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またユニーク持ち!?
どうなってんの、この世界!
ユニークはレアだってのは嘘なの!?
思わず叫びたい衝動に駆られたが何とか押さえ込んだ。
少しは大人になったらしい。
というよりは戦闘中だから必死なだけなのかもしれない。
目の前のコボルト達は捨て駒なのだろうか。
確かにハイオークも出てくるタイミングはかなり遅かった。
上に立つ魔物達は総じて部下を使い潰すのが慣例なのかもしれない。
しかしそんなことも言っていられないはずだ。
結果的な話になるが、500体にも届きそうな大所帯だったらしいが、既に理熾の手によって8割方討伐されてしまっている。
残りは100程度といったところ。
このままでは理熾が完全に食い破ってしまう。
ユニークスキルを持っていても、Lvはそれほど高くない。
どうやっても一対一では勝ち目が無いはずなのだ。
そんなことを理熾が考えている間も少し後ろから指示も出さずに見学会だ。
既に戦闘時間はコボルトだけで2時間を越えている。
1分間に3~4体狩ってる計算になる。
それだけの過剰運動を維持し続ける理熾に恐れを感じたのかコボルトが少し退いた。
ようやく追撃戦に回れると思ったのだが、まだまだ世界は甘くない。
出てきたのはさっきから距離を取って見学していたコボルトキングとその側近。
側近はコボルトリーダーという名前らしい。
しかもそこそこの装備を持っていて、基本は盾と槍。
すぐさま優秀なリコが【解析】して理熾が結果を受け取る。
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種族:コボルトリーダー
Lv :32
スキル
パッシブ
嗅覚Lv3
集団戦闘Lv5
経験集約Lv2
守護者Lv3 付与中
アクティブ
部位強化Lv2
ユニーク
側近の心得Lv4 付与中
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付与って何さ!?
てかキングより強いよ!?
またも叫びそうになるものの、一時的ながら攻撃が止んだことを良いことに息を整え休憩だ。
後は相手の出方を窺い、対処か撤退を決断すれば良い。
何も理熾だけで全てを賄わなければならないわけでもないのだから。
側近の数は10体。
スキルだけで見るならハイオークに準じる強さだろうか。
いや、武器を持たず、アクティブスキルも【部位強化】のみ。
【守護者】が気にはなるが、単体を見ればそれほどではないはずだ。
未だに見学者気取りのキングが気にはなるが、まずは目の前の障害を取り除かなければならない。
つまり各個撃破ってことだね!
理熾は背を見せて一気に逃げ去る。
コボルト達は一瞬「ぽかん」とし、次の瞬間慌てて追撃してきた。
この時点で反応速度に応じた差が発生していて、せっかくキングの前に並んでいた10体がバラバラに追いかける羽目になった。
追うなら隊列を組んだままの方が良かったのだが、その辺の機微まで瞬時にやり取りできないらしい。
リコは理熾に付き添いながらも少し遅れているリーダー達に【重力魔法】を掛けて転ばせる。
速度が乗っていたので勢い良く木々にぶち当たり、余計な被害まで受けていた。
理熾はリコに「さすが!」と思考会話で絶賛しながら眼前に《障壁》を張って着地して急停止。
そのまま壁蹴りの要領で凄まじい速度で反転し、先行していたリーダー1体へと突撃する。
辛うじて盾を前に翳して防御姿勢を取るが、理熾はそんなもの意に介さずにリーダーの上空に《亜空間》を開いて矢を1本放つ。
死角から…しかも誰も居ない場所からの強襲に反応も出来ず、頭を撃ち抜かれてゆっくりと斃れ伏す。
2体目のリーダーは未だに事態を把握できていない様子で、ゆっくりと傾く味方を呆然と眺めていたのが運の尽き。
1体目を苦も無くすり抜けた理熾が振るった剣に両断されて撃沈。
3体目でようやく事態を察したのだろう。
盾ではなく槍を突き出して応戦の構えなのだが、慌てた対応では理熾を捉えられない。
突き出された槍を剣でいなし、そのまま槍の上を滑らせて3体目を斬り捨てる。
盾は理熾の剣速には追いつかなかった。
4体目からは木々に激突して呻いていて理熾どころではなかった。
すぐに【索敵】に引っ掛かったリーダー達の反応に対して《亜空間》から矢を放つ。
駆け込みながら連続で放たれる矢に声も無く2体が沈み、1体は何とか躱したものの、肩に被弾したようで腕(前足?)が上がらないらしい。
そうして怯んでいる隙にさらに追加で矢を放って怪我をした1体に加えて移動を始めようとしていた2体を片付ける。
残りの2体の内の片割れの横を抜けた際に背後から攻撃を受けるが、リコが【重力魔法】でバランスを崩してくれた瞬間に矢を放って片付けた。
【索敵】と《亜空間》の相性が良すぎると理熾は感心する。
リーダー最後の1体は逆にキングの下へと退避してしまっていた。
倒しきれれば完全に有利だったはずなのにと理熾は悔やむ。
…アレ?
何かキングの見た目変わってない?
そう思った瞬間にリコが施した【解析】の結果が流れる。
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種族:コボルトキング
Lv :48
スキル
パッシブ
嗅覚Lv5
集団戦闘Lv5
経験集約Lv5
狩猟本能Lv3
身体強化Lv2
堅牢Lv2
アクティブ
部位強化Lv7
凶暴化Lv3
ユニーク
戴冠者Lv5
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理熾は息を引き込んだ。
理由は分からないものの、たった20分ほどの間にキングはびっくりするほど強化されていた。
お読み下さりありがとうございました。




