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神様のおねがい  作者: もやしいため
第八章:使用方法
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森の中の戦い2

アレは、本当に人が出来る動きなのでしょうか?

一対多という圧倒的不利な戦いで、ご主人様(マスター)は意も介さずに気楽な調子で自分に「安全圏に居ろ」と指示しました。

自分がどれだけ無力だとしても、《障壁》くらいは張れます。

弓を使うのならば矢の補充も手伝います。

それくらいしか出来ないですが、逆にそれくらいさせて欲しいと今では思います。


そう、手伝いくらい出来ると思っていたのに。

それがどうでしょうか。

ご主人様が引き絞った弓の弦を離すだけで最低でも1体、多ければ数体のゴブリンが地面に倒れ込んでいくのです。


よくよく見ると矢を放った瞬間には矢が番えられています。

距離があるから少し分かりにくいですが、あの位置に、向きを合わせて《亜空間》から補給しているように見えます。

そんな精密な使い方をしている人など自分は知りません。

単に便利な魔法として有名だったはずの【空間魔法】を、ご主人様が扱えば『恐ろしく有能な魔法』なのだと思い知らされます。


しかも弓で間に合わない部分についてはご主人様の周囲を舞うリコ(妖精)が援護しています。

正面全てから駆け込んでくるゴブリンが、状況に応じて一角の速度が一気に落ちるのが上から見ると良く分かります。

確かご主人様は【重力魔法】を使うと言っていました。

ネーブルさん達の話の時に『譲渡中』と言ってたから、多分スキルを共有しているんでしょう。

あの凄まじい連帯感は何でしょうか?


それにしても数が多いです。

どう見ても100程度では済みません。

わらわらと木々の隙間から現れるゴブリン達は一体どれだけ居るのでしょうか。

ついに弓だけで対処できないくらい近付かれてしまっています。

もうほんの5mもありません。

思わず自分は叫びそうになりますが、すぐさま口を塞いで自制しました。

ここで叫んでしまえばご主人様が気にしないといけないモノに自分も含まれてしまうと思って。


「スミレ、これが僕の奥の手だよ。

 よく見て、よく感じて、頑張って真似てみて。

 使えればきっとスミレを助けてくれると思うよ?」


急に『声』として伝えてくるご主人様。

まだ全然諦めても居ないし、余裕も無くしていないようです。

だってわざわざ安心させるために声まで掛けてくれるのですから。


瞬間。

近付いていたゴブリン達の動きが止まりました。

そして次の動作でゆっくりと上下真っ二つ(・・・・・・)に割れた…。

何が起きたのかさっぱり分かりません。

目を離しておらず、きっちりと見ていました。

それなのに時間を盗まれたかのように、結果だけしか分からなかったのです。


そのたった一瞬で近付いたゴブリン数十体程を死体に変え、そのまま平然と矢を放つご主人様。

本当に何事も無かったのように、淡々と作業を繰り返す光景に、自分は震えが止まりません。

ご主人様は自身を『弱い』と評価するがとんでもない。

いくらゴブリンとは言え、ただの物理攻撃でこの光景を作るなんて無理です。

何よりたった一人で数十体を死体に変える攻撃など放てません。

この光景を見せられて、誰がご主人様を『弱者』と評価するでしょうか。


余りの光景に、残った数十ほどのゴブリンは恐れをなして逃げようと背を向けました。

しかしその背中に容赦なくご主人様の放つ矢が突き立ちます。

生き死にはこの際関係はないのでしょう。

1体、また1体と間断なく地面に倒れる様子は最早劇のように写ってしまいます。

予定調和の殺陣のように、ばたばたと倒れ伏し、遂に動くものは無くなってしまいました。


ほっと息を入れてご主人様を見るとまだ気を張っています。

まだ何か居るのですか?

思わず問いかけようとした時に、新たな相手が現れました。


(スミレ、アレ何か分かる?)


そう、ご主人様に問われるとは思いませんでした。

知らないという事に驚きを覚えつつ、すぐに答えます。

いくら世の中を知らなくても転送員としては街以外に迎えに行くことが圧倒的に多いのです。

危険度が高かったり、一般的な魔物、そして『利益になる魔物』に関しては叩き込まれています。


(アレはオークと同じような頻度で目撃されるので、一般的な魔物のコボルトです。

 Fランクに認定されていて、今のように二足歩行も出来る狼の魔物。

 獣人族とは違い、話も通じず独特の生態系を持っています。

 集団での狩りが得意で、獣の身体能力に加えて武器を持つ手を有します。

 ちなみに狼などと同様、四足歩行もしますので注意してください。


 特に『群れ』を成し、群れには必ずボスが居ます。

 そのボスの危険度は最低でもDランクになります。

 コボルトは単独行動せず常に集団行動で、一定数のグループで行動して獲物を探します。

 群れの規模によってはCやBの討伐依頼に跳ね上がるという、完全に『群れの大きさ』が危険度に直結するタイプの魔物です)

(そっか、ありがとー)


自分が出した情報は図鑑に載っている程度です。

実地で見たのは初めてですし、どんな動きをするかも分かりません。

それでもご主人様の役に立てたというのは嬉しいことです。

それにしても…このタイミングで何故コボルトがここに居るのでしょうか。

そんな疑問をご主人様も感じたようで、一瞬だけ固まりました。


(そうか、さっきのゴブリンはこいつら(コボルト)に追われてたのか。

 僕の気配に釣られたのは単に全員で倒すため。

 撤退中に挟撃されたら目も当てられないから…ってそこまで頭良くないか。

 追われてるのでも忘れたのかなぁ…?

 確かゴブリンのまとめ役居なかったし…)

(先に倒されたのでしょうか?

 コボルトはこと狩りに関しては優秀ですし)


(かもしれないね。

 しかもあれだけのゴブリンを追い立てるだけの力もあるってことか…)


と状況を噛み砕いていく様は流石です。

それでもこのゴブリンの数…200以上は居るでしょうか。

これらを追い立てたコボルトの群れの大きさを考えると…自分はここで終わりなのか、と自問してしまいます。


(スミレ、スミレ)

(は、はい!)


(こっから先は本気出すから、多分構ってらんない。

 だから主人として『必ず生き残ること』って命令をするよ。

 自分の身は自分で守ってね?)


戦闘時間は30分ほどで、ご主人様は確かに一歩すら動いていない。

けれどまさか今までので本気じゃない(・・・・・・)とは…。

そんな言葉に驚いていると


(スミレ、聞いてる?

 返事は?)

(はい、承知しました!

 ご武運を!)


(うん、いってきます)


その思考会話を最後に繋がりが途絶える感覚がしました。

確かに、ここからはご主人様は本気のようです。



「さて」とスミレとの【連携】を切りながら心の中で理熾は呟く。

目の前のコボルトの情報は、単なる紙面上の記録。

戦闘方法や戦術は皆無。

唯一分かっているのは群れのリーダが居て、集団戦闘が得意ということだけ。

つまり統率力だけはかなり良いということだ。


 このゴブリン置いて逃げるってのも手だけど…。

 そもそも逃げ切れるのかな?


ゴブリン狩りと言うならば、目の前のゴブリンの死体は『ごちそう』の一言だろう。

それを置いて逃げるということならある意味目晦ましくらいにはなりそうだ。

が、確証が無い以上は確実を期すべきだ。

そう、全滅させれば良い。


 まずは小手調べ、っと!


握り締めた弓で放つのは《乱れ撃ち》に《穿矢(せんや)》を乗せた対多数用の連携武技。

《乱れ撃ち》は矢を分割して威力等を減じるが、《穿矢》は速度が威力に直結する。

つまり威力は据え置きで、矢の雨が横殴りに降った。


理熾をたかが一匹の獲物だと油断していたのだろう。

木々の隙間から這い出てきたコボルト達は理熾の矢に撃沈されていく。

たった一合のやり取りで、十数体もの同胞が斃れたことに動揺しつつも、すぐさま距離を詰めるべく駆け込んでくる。

ゴブリンごときとは一線を隔する速度だ。


 矢は通る。

 なら、もう一度!


かなり早い速度で突っ込んでくるが、それよりも理熾が番える方が遥かに早い。

すぐさま同じく《乱れ撃ち》、《穿矢》の連携で放つが、《穿矢》の方にタメ(・・)が必要なので、次は無理だろう。

同じく十数体のコボルトを葬るが、群れ行動を行うコボルト達は怯まない。

コボルトは群れの全体が生きればよく、個体はそこまで重要視されない。


多くの犠牲を経て、ようやく理熾の眼前に到達したのだが、それをリコが阻止する。

【重力魔法】で一瞬だけ重力3倍の見えず、通れる『層』を形成し、通過の瞬間だけ重さが増す。

範囲は極小だが、最悪その場に平伏し、それでなくともバランスを崩す。

そんないやらしい(・・・・・)使い方をする。

誰の影響かは言うまでもない。


眼前にまで迫られながらもリコが稼いだ一瞬を使い、理熾は焦らずに頭上より少し前向きに矢を放つ。

携える武技は《紫陽花》。

分割数に応じて威力が下がる《乱れ撃ち》の上位互換の武技で、20程度の分割数が100ほどにも増える上、減じる威力がかなり抑えられる。

最初から使えば良いとも思うが、今のところ《穿矢》との連携が出来ないので殲滅力は劣るのだ。

放ってすぐさま大きく後退し、改めて《乱れ撃ち》、《穿矢》の連携武技を放つ。

眼前に迫ったコボルトの一団を殲滅したが、まだまだ背後に居るらしい。


間を置かずに迫るコボルトに対して改めてリコが【重力魔法】を放ち、稼いだ時間で装備変更。

弓と違い、どうしても近接武器は狭小攻撃になってしまうので処理能力が下がるのだが、近付かれてしまえば仕方が無い。

距離を潰せば脆いとでも思ったのだろうか。

あと少し、と突っ込んできたコボルトを「久々に抜くなぁ」と理熾は思いながら黒鎖鋼の剣を一閃。

あっさり真っ二つに切り裂く。

相変わらずの切れ味に安心感を覚える。


急に武器が変わった理熾に、コボルトが一瞬躊躇う。

アテレコするなら「おい、話が違うじゃないか」といったところだろうか。

だがそんなことは知ったことではない。

来ないのならば、と理熾は《亜空間》から矢を放つ。

理熾は一人で遠近共に攻撃方法が取れるのだから。


近付かなければ矢が放たれ、近付いたところで矢が放たれる。

そして近ければ近いほど手数が増えるという、意味不明な理熾の対処に困るコボルトだが…。

そんな時間は無い。

先ほど放った《紫陽花》が、空から降る(・・・・・)

風までは読みきれなかったが、どうやら無風に近かったらしい。

しかもそこにリコが【重力魔法】の層を空に展開している辺り準備が良い。

自重がそれほど無くても、無いよりは遥かに威力が上がるのだから。


《紫陽花》が降り終えた広場はぽっかりと死屍累々。

そんな状況に右往左往するコボルトに対し、理熾は追撃を開始する。

弓での攻撃はせず、近接戦闘による殲滅戦だ。

この群れの数は異常で、だからこそこの場で纏め役まで倒す必要があると判断したのだ。

未だ戦線には出ていないが、恐らくかなり強力な個体なのだろう。


矢を放ち、剣で切り裂き動く者の居なくなるまでそれ程時間は掛からなかった。

死体だらけの広場を《障壁》を足場にして突っ切り、コボルトが登場した木々を抜けていく。

森での本格的な戦闘はウッドウルフ以来である。


 あ、素材どうしよう…。

 放って置くと全部食べられたりしないかなぁ?


こんな状態にあっても、理熾はそんなことを考えていた。

お読み下さりありがとうございます。

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