才能の使い方5
常識や知識に乏しいスミレにすら及ばない理熾の楽観的な物言いはとても眩しい。
そして年下とは思えないほどの聡明さで理解し、『使い方』を考えていく。
【空間魔法】の実技込みの説明を1時間程しかしていないにも関わらず、恐らく既に《転移門》も《空間転移》も扱えるだろう。
元々《転移門》も我流で使っていたのだから当然だろう、とスミレは思っていた。
「そういえば、《亜空間》の容量ってどうやって決まるの?」
一通りの説明を終えた後に、今更《亜空間》の話に戻ってきた。
やはりご主人様の知識は偏っている、とスミレは認識させられる。
「基本的には表面積です」
「表面積?」
「簡単に言うとデコボコしてる物はたくさん入らない、と言うことですね」
「あぁ、それでかな?
紙束入れようとしたらゴブリン5体分くらいだったんだよね」
「次からは箱とかぴっちりと閉じられる物に入れると良いと思います」
「おぉ、なるほど!
そうやってデコボコしないようにするんだね!」
と無邪気に答える。
しかし既に容量関連ではかなり改善している。
運べないと言うことは無いくらいの容量が入るので、今更かもしれない。
ただし一気に運ばないといけなくなった時は箱に詰めよう、と理熾は心に刻む。
「あ、そうそう。
お昼からは自由にして良いからね。
ギルドに登録してるから狩りに行っても良いし、商売始めても良いよ」
「え…?」
「ん?」
「自分は魔法を使わなくて良いんですか?」
それが一番の疑問だった。
【空間魔法】の利便性は理熾が確認した通りなのだ。
何を言ったところで、異常に便利なのだ。
一番目立つ持ち運びや移動能力が他のクラス、スキルを圧倒的に凌駕する。
比べる対象として間違っていると言って良いくらいに。
だからこそ、スミレはシミルでは使うしかなかったのだ。
それを理熾は放棄して良い、と言う。
「ちょっと意味が分からないんだけど…。
持ち運びたいものは各自が持ってる。
行きたいところも無い。
血魔石も準備できてない。
これで【空間魔法】が必要な場面があるのかな?」
理熾からすれば『別に今必要じゃない』という一言に尽きた。
それにそもそも理熾が使えるのだから、スミレに頼る必要も無い。
知識としては既に仕入れたから、違うところがあれば随時指摘してもらえればそれで良い。
【空間魔法】を使う先輩として助言は欲しいし、お互いに使い勝手を良く出来ればなお良い。
その程度の認識しかないのだ。
「無い…ですね…」
「うん、だよね。
『荷物持ち』ってことならライム達の分持ってあげて欲しいけどね。
そういえばスミレは何かしたいこととかあるの?」
これはライム達にも聞いている。
理熾が討伐者をしている以上、その他の分野で頑張って欲しいのだ。
そうすれば情報が理熾のところに集まるし、その情報を使って何かしら動くことも出来るだろう。
そんな思惑があるからこそ、したいことを教えて欲しいのだ。
「………自分は何がしたいんでしょうか」
「え…分かんないけど…?」
会って間もない。
というかまだ二日目で、時間的には丸一日すら経っていない。
趣味も趣向も好き嫌いも知らない。
顔すらも今日始めて見たレベルなのだ。
そんな状況でそんな質問されても理熾は途方にくれるしかない。
「まぁ、気楽に考えなよ。
とりあえず2ヶ月はあけみやに居られるからさ。
その間に何したいか、どうやって稼ぐか考えれば良いよ」
と理熾は相変わらず気楽に言う。
今まで締め付けられるだけの生き方しか知らないライムやスミレにしてみると困ったものである。
自由行動がほぼ認められてこなかったから当然だ。
「分かりやすいのは討伐だけど、さっき言ったように商売始めても良いよ?
スミレなら《亜空間》と《空間転移》で荷物運びとか出来るしね」
と楽しそうに話す。
流通と言うのは橋渡しだ。
人から人へ物を運ぶ以上、そこに情報までも運ばれる。
誰から誰へ何が渡されたかという情報から、誰と誰がどういう仲だというのが見えてくる。
それに定期的に送られる物があるなら、一定量の需要があることまで分かる。
何が何処へ、誰の元へ行くかを把握できればそれだけで莫大な情報を手に入れられるのだ。
「何を選んでも良いけど、ちゃんと『出来ること』じゃないとね」
そう語る理熾はどう見ても子供の癖にとても大人びている。
それもこれもたった1ヶ月程度で13歳最弱からCランクの竜種を一人で倒すまでに至った経緯があるからだ。
圧倒的に足りない状態で山ほど苦労したし、命を賭けたことも何度かある。
今ここに立っているのは幸運だと思う反面、それだけ頑張ったという自負もある。
これで大人になれなかったら全員子供のままである。
そんな小さな大人に対して、スミレは「はい…」としか返事が出来なかった。
「んーなら俺は討伐者かねぇ?」
「え、そうなの?
何となくライム研究職だと思ってた。
錬金術とか無駄に好きそう」
「無駄って何だよ。
確かに戦場に立ってるよりは調べ物してる方が性に合ってるけどな。
それで生活できるほど世の中甘くは無いだろ?」
「回復薬とか作るなら買うけど?」
「まさかの内需かよ…」
奴隷から買い上げるという理熾の発想が意味不明なライム。
奴隷の持ち物は主人の持ち物と等しく、『買う』という発想があるのがおかしい。
というよりそもそも今着ているような服はすべて理熾の金なのだ。
ライムが回復薬を売る話より先に借金返済が筋だろう。
「何か作るなら材料とか手に入れてくるよ?
というかライムなら一人でも行けそうだよね」
「ある程度ならな。
それにネーブルとか連れて行けば大概何とかなるしな」
「そもそもライムって薬とか作れる人?」
「いや、全く」
「ダメじゃん!?」
「だよな。
どうすっかなー?
主人と構築式考えるのは楽しいんだけどな」
「【重力魔法】持ってるしそれも良いねぇ」
と楽しそうに話す。
スミレは少し仲間外れ感を味わう。
出来る事は【空間魔法】のみ。
しかし延々とやらされた訓練を思うと拒否感しかない。
「自分は…【空間魔法】が嫌いです」
二人が楽しそうに魔法の話をする光景に耐えられずに思わず口走る。
『貴方達の様に楽しめる人ばかりじゃないんだ』と。
「そうなの?
じゃぁ使わなきゃ良いよ」
「え?」
「さっきも言ったけど今のトコ使う場面ないし。
特に命令する気も無いしね。
ぁーそうなると実験は自分でしないといけないなぁ」
と嘆く辺り、本当に一切やらせる気は無いらしいとスミレは悟る。
理熾としては協力はして欲しいが、強制をしても意味は無い。
そんなことをすればパフォーマンスはがた落ちなので、その結果も信用できない。
どうせやるならちゃんとやらねば意味が無いのだ。
「んーまぁ、遠距離の《転移門》開けるかも考えないといけないし丁度良いかな。
急ぐ話でも無いし夜までにやっとくかなー」
あっさりと予定を修正する理熾。
『急ぐ話でも無い』のに夜までにはやるのかよとライムは思っていた。
当然ライムも別に強要する気は無い。
ある程度まで『人は人、自分は自分』という考え方を持っていないとパーティなど組めない。
譲れない部分は仕方ないとしても、どんなことでも強要するべきではないのだ。
というより強要したところで一笑されるだけか、喧嘩別れにしかならない。
「あ、そういえばもう一個質問。
血魔石って基点に出来るでしょ?
だったら、その血魔石を《空間転移》させることは出来るかな?」
「可能だと思います。
ですがやってる人を見たことはありませんが…」
「もしかして普通は『送るばっかり』なのかな?」
「はい。
『向こう側の状況』が分からないので」
「んーそれって『送る』のも同じじゃないの?」
「いえ、送る場合は送り先に誰かが居ますので。
『取り寄せる場合』は普通『受け取りに向かう』という手順を踏みます。
どちらにせよ、『向こう側』が確認できている状況なので《空間転移》より《転移門》を使用します」
「なるほどね。
じゃぁ《空間転移》って使えるけど余り使わない?」
「そうですね…。
《転移門》が使えない場合に限り、《空間転移》です。
《空間転移》の方が技術的にも魔力的にも負担が大きいので使用頻度はかなり低いです」
「そっかぁ。
でもまぁ、出来なくはないんだね」
と頷いて納得する。
構想していた、放った投剣を回収する方法が確立できた瞬間である。
しかも回収射程は認識圏内(周囲約500km)という凄まじい距離だ。
魔力消費量の関係で全てを一気に回収できなくとも、500km以内なら取り合えずいつでも手元に引き戻せる。
だとすれば
「ねぇ、スミレ。
質問なんだけどさ」
「はい?」
「僕とか、スミレの血魔石と一緒に手紙を《空間転移》させる。
転移場所は…まぁ、基点が無いとまずいけどね。
それすれば一瞬で『手紙の配達』が完了するよね?」
「…確かにそうなりますね」
「次は逆に、向こう側に送った血魔石と一緒に手紙を同封した状態で《空間転移》させる。
そうすれば『手紙のやり取り』が一瞬で完了しない?」
「出来ますね…。
でもそれは直接向かえば良いのでは?」
「んー普通はそうなんだけどね。
ほら、顔出しちゃうとまずい場合も無くはないじゃない?
それに『こんな使い方』って他の人するのかな?」
「…いえ、しないですね」
「ということは密談には最適だね。
ま、向こうの状況が分からないから微妙かもしれないけどね」
「やり方考えないと意味ないね」と笑う。
理熾の頭の中はこんな発想が色々渦巻いている。
別に使えなくても良いのだ。
発想として持っているだけで、かなり違う。
それは相手から何かされる時も、自分が何かする時も。
多くの選択肢が見え、対処法が編み出せる。
理熾はスフィア人とは違う常識で生きているからこそ、幅が広がるのだ。
「あ、そうそうスミレ。
この後ちょっと森へ行くから付き合ってよ。
さっき自由行動って言っといてなんだけどさ」
「森、ですか?」
「僕の魔法の出来栄えを見て欲しいんだよね」
「《転移門》ですか?」
「うん、それくらいなら大丈夫?」
おずおずと聞く辺り、本当に『断られたらどうしよう?』という感じが滲み出ている。
これが演技でないとは言い切れないが、演技だった場合はお願いされている側が悲しいレベルである。
それにしてもこちらが何を言ったところで実行できるだけの権限を持ちながら、何故下手に出るのかスミレにはさっぱり分からない。
こんなのは命令されるような内容だ。
いつも通りに。
「…問題ありません。
けれど、ご主人様と同じ速度では移動できませんよ?」
「んー…背負子で良ければ…」
「それなら構いません」
「そっか、良かった。
にしても何か移動手段考えないとねぇ」
と理熾は呟き考える。
また何か考えているようだが、スミレにはさっぱり分からない。
子供にしか見えない、ご主人様はスミレの発想の埒外をあっさりと突き通す。
そしてそれらは総じて良い方向へと回っているようだ。
「ま、フィリカさんにでも聞いてみよっか。
何か馬車的な物作られるかもしれないけど。
…ていうか、人力車なのかな?
そういえば京都であったなぁ…あれってどれくらいの速度出るんだろ?」
誰にも分からない単語を振り撒く主人を見ながら、スミレは「大丈夫ですかね?」と心の中で思うのだった。
お読み下さりありがとうございます。




