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神様のおねがい  作者: もやしいため
第七章:楔の解放
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才能の使い方

結論から言うと転送員はあけみやに帰ってきた。

もしシミルに帰ればネーブル達の話を聞く限り、100%の確率で拷問後の死亡。

あれだけ脅してシミルに戻るというなら、流石に知ったことではない。

その程度の判断力も無いなら、役に立たないどころか邪魔なのだ。

それくらいのことを思っていたのだが、


「先程はすみませんでした」


と帰ってきて早々に頭を下げたのだ。

余りの変わりように全員が「ぽかん」としたが、理熾がすぐに立ち直り「もう良いよ」と返した。

未だに聞き分けが無いのならともかく、今更掘り返すような内容でもない。

理熾自身が同じ立場だったら抗議くらいでは納まらなかっただろうことを思う。


「部屋はセリナさんが案内してくれる。

 それと明日以降は僕の練習に付き合ってくれると助かるよ」


と相変わらずのマイペースな返答をしてしまう。

その後それぞれの自由時間とし、理熾は風呂は入ったが、食事は取れずにそのまま寝入ってしまった。

心配してセリナが夜に理熾の様子を見に来てくれたがそれは余談である。


ちなみに転送員分の宿は理熾達が帰った頃には用意されていた。

ギルバートが手を回しだったようだ。

五人部屋ではなく、一人部屋が追加された。

理由はお察しである。

あんな暑苦しい男達の中にいきなり放り込む…慣れていても嫌だろう。

奴隷という立場は同じでも扱いに差が出るのは仕方ない。

何より


「そりゃそうだよ。

 女の子を男連中の中に放り込めないからね」

「当然だな」

「「「え?」」」


「あ、やっぱりハッサクは気付いてたんだね」

「まぁな」


という理由だ。

理熾が気付いたのはシミルの転送部屋で胸倉を掴んだ際。

その時はそれどころではなかったので気にしていなかったが、後になって思うと少し申し訳ない。


翌日の朝食時に転送員を見た理熾はかなり驚いた。

髪は短く、薄い茶色に金色の目、少し丸みのある輪郭。

何故フードを被っていたのかさっぱり分からないレベルで可愛い。

昨日と同じく野暮ったいローブを引っ掛けているので身体のラインは見えないが、昨日背負った感じだとかなり細い。

身長は160cmくらいでスフィアでは少し低いくらいだろうか。

相変わらずこの世界の住人の美形レベルは高いらしい。


目の保養にはなるものの、別にそれが能力に直結するわけでもないので理熾は気にしない。

それよりも目の前の食事の方が今は大事である。

それは転送員も同じだったらしく、目を輝かせている。

二人して花より団子タイプという訳だ。

食事を終えてまず行うことは決まっている。


「さて、名前決めのお時間です」


ネーブル達と同じように、名取りになどへの対策として名前を新たに決めるのだ。

今すぐと言って良いほど早めに。


「希望はあるかな?」

「ありません。

 決めてください」


「またこのパターンか…」


と嘆く。

名前を決めるというのはとても難しいと理熾は考える。

人の一生を左右するような一つの要素を他人が決めるというのは重過ぎる。

こんなものをポンポン決める親達を尊敬する気持ちで一杯だ。


「どんな感じが良いかなぁ…?」

「全てお任せします」


と目を瞑って決定を待つ。

理熾の正直な気持ちとしてはこの従順具合が気持ち悪い。

あの後何かあったのだろうか。


「それなら花の、スミレって名前はどうかな?」

「ありがとうございます。

 今日から自分はスミレです」


刷り込み作業(インプリンティング)が完了されたようだ。

何だか言葉だけ聞いていると壊れたロボットみたいな感じである。


「それじゃスミレは僕と一緒にギルドへ。

 他はフィリカさんのところね」


そう言って分かれる。

先日の四人と同じようにギルド登録をさせてからフィリカの店へと移動する。

かれこれ3日目だろうか。

初日は服を作ってもらい、二日目はレモンの刀。

三日目となる今日はスミレを連れて新たな依頼だ。

何と言うか、散財に拍車が掛かっている気がする。

理熾は一通り揃えてあるから良いのだが、それにしても人を雇うというのは金が掛かると嘆く次第だ。


「フィリカさんこんにち…は?」


そう言って店に入ると、ライムが年甲斐もなくはしゃいでいる。

いくら大人と言っても人の子である。

そんな時もあるのだろうが、大の大人がきゃっきゃしてる光景は子供の理熾には刺激が強すぎる。

しかもライムの容姿は渋めの大人だから余計に。


「えっと…?」

「あぁ、いらっしゃいリオ君」


「何これ?」


ライムを指差し確認しながらフィリカに問う。

昨日のレモンを彷彿とさせる光景に割りとドン引きだ。

短い期間ながら普段のライムを知る背後に佇むスミレも普段とのギャップに戸惑いを隠せない。


「あぁ、リオ君の【常盤の戦着(いくさぎ)】と同じ仕様の服に変更したんだ。

 といっても追加で織り込んだのは銀鎖糸(ぎんさし)だけなんだけどな」

「え、後からそんなこと出来るの?」


「簡易的なものだからな。

 服に銀鎖糸の刺繍を入れたんだ。

 それによって魔力の循環経路を服にも施したという訳だ。

 別にインナーでもローブでも良かったんだが、動きづらいと思ってな」

「おぉ…十分だと思うよ。

 それで、魔法関連の増幅率とか効率とかが一気に上がってアレ(・・)って訳だね」


と言いながらライムを眺める。

取り合えず理由は分かったが、余り近寄りたくない感じの浮かれ具合だ。

酒を飲んでいるのか、というレベルだといえば分かるだろうか。


「そういうことだ。

 全く、シミルというのも馬鹿な国だ。

 能力が高いからと安い装備を持たせるんだからな。

 普通は能力が高いから、良い装備を持たせて相乗効果を持たせるだろうに」

「その辺は叛乱対策じゃない?」


「だとしたら余計に下策だな。

 そのせいで私に捕まってるんだから」

「全くだよね」


と残念な国の話を少しする。

この場には元シミルが五人も居るのにお構い無しだ。

既にかの国では全員鬼籍に入っているから誰も気にはしないが。


「ライム、魔法使うなら庭に行け」

「あぁ、行ってくる。

 それにしても素晴らしい出来だ」


ライムはそれだけ告げると店を出て庭へと向かった。

ここに居ないところを思うとレモンも昨日貰った刀を振り回しているだろう。

何とも恐ろしい光景だな、と理熾は感じた。


「それで、今日はどの部位だ?」

「うん、ようやく脊椎まで。

 腰…なのかな?

 そこまでは終わったみたい」


そう言って取り出すのはリザードの骨だ。

竜骨の用途は多岐に渡る。

強靭な筋肉を支えるために骨も強くなるのは道理だ。

その為に建材としてなら集約して加重を支える柱。

道具としてなら一生ものになり、武器にするなら攻撃力を、防具にするなら破格の耐久力を得る。

とにかく強靭な竜種の部位はどの部分であっても余すことなく、捨てるところが無いくらい貴重で有用なのだ。


「なるほど。

 一体分が届くまで待つか。

 その後で何かに使えないか考えよう。

 せっかく丸々一体あるんだから、みみっちく使うよりは余程良いだろう」

「そうだねぇ。

 いつまでにあけみやって訳にもいかないし、テント作っても良いね。

 流石に日帰りじゃ距離も知れてるしさ」


「えらい豪勢なテントだな。

 というかリザードで作ったテントって下手な櫓より余程強いぞ?」

「おぉ、これで遠征が楽に!」


「まぁ…<空間使い(ディメンショナー)>が二人も居れば荷物の問題は皆無だがな」


と収納力を考えるとフィリカは呆れてしまう。

運搬能力という意味で言うならどのクラスをも圧倒するのだから。


「それで、その後ろのが新人か?」

「うん、名前はスミレ。

 この子にも服を作ってくれるかな」

「スミレと言います。

 …服は昨日買いましたよ?」


「いや、それじゃ戦闘になった時に無防備でしょ」

「…リオ君が言うのか?」


とフィリカのツッコミが入る。

丸腰状態でオークに殴り掛かった過去がある以上、何とも言えない。

そんなことを言われる理熾にふるふると震えながら「前線に立つのですか?」と問いかける。

昨日の襲撃(演技)を思い出したのかもしれない。


「いや?

 戦いたくないなら別に良いよ。

 でも戦闘にはいつ何処で巻き込まれるか分かんないしね。

 準備はするに越したことないし、そのためのお金も持ってる」

「そうですか」


と明らかにホッとした様子を見ると、完全に非戦闘員らしい。

しかし理熾からするともったいない。

【空間魔法】は遠近共に役立つ万能魔法だとまで思っている。

それは『物理的に魔法を使う』という発想を初めとする、理熾特有の考えだ。


「んじゃフィリカさん。

 スミレに武器は要らない。

 だから服を僕並にして、増幅系の軽い盾(・・・・・・・)をお願いします」

「完全な防壁タイプだな?」


「前線に立つタイプじゃ無いみたいだしね。

 まずはスミレの身、その次は他の人を守る為にそういう仕様はどうかな、と思って」

「構わん、全て承った」


相変わらず使う当人を置き去りに話は終わった。

その光景をスミレはぽかんとして眺めるしか出来ない。


「それじゃ採寸よろしく。

 僕は庭に出ているから、終わったらこっちに来てね」


それだけ言い置いて庭へと出て行く。

取り残されたスミレは相変わらずぽかんとしたまま状況に付いていけない。


「スミレ、お前もう少し状況把握が上手くなれ。

 戦場に出ないと言っても、切り替えが遅いと日常でも問題だ。

 リオ君はだだ甘だから見逃しても、その周りのレベルが高すぎるからいつか追い出されるぞ?」


というフィリカの忠告にスミレは「は、はい…」という返事しか出来なかった。

未だに頭がパンクしそうなくらい処理できていないことが多いのだ。

取り合えず理熾(主人)は悪人ではないということは感じたので、まずは言うことを聞くということからはじめた。

奴隷なのだから当然だが、スミレの中に『奴隷』という常識は無い。

いろんな意味で箱入り娘であり、知識として持っていることは多いが、実感していることは極々少ない。


それに奴隷だと言うには扱いが放任で、スミレの脆弱な常識では真実の姿が分からない。

今思えばむしろシミルに居た時の扱いの方が奴隷だったくらいである。

従順なのはそのためで、そこから時間を掛けて一つ一つ自分の中の疑問を解決していくつもりだったのだ。

それを「遅すぎる」と指摘された。


昨日のことも含めて考えれば確かに心の整理に時間が掛かりすぎているのかもしれないとスミレは反省する。

しかしむしろ昨日のことを思えば過度のストレスを抱えているのは明白だ。

誘拐に裏切り、領主の会談に引き出され、命の危機を経て今は隷属化している。

激変していく状況についていくことが全く出来なかった。

時を追うごとに増加するストレスに心が潰されなかっただけマシである。

しかしフィリカは手厳しかった。


「最早お前はリオ君の所有物だ。

 お前の価値はお前ではなく、主人が決める(・・・・・・)

 だからこそ、お前は主人であるリオ君に価値を示さないといけない。

 あの子の歩みは人よりも遥かに早い。

 そんなところ(・・・・・・)で立ち止まっていると、追いつけないどころか背中すら見えなくなるぞ」


この言葉はフィリカのスミレに対する優しさだろう。

奴隷になったことで全てを従順に受け止める思考停止を勧めているのではなく、もっと早く整理しろと言う。

そして整理した上で『何が必要かを考えろ』と。


「ま、あの子が何を望むかなんだけどな」


そんな話をしつつも手早く採寸を施すフィリカの手先を眺めながらスミレは思う。

『やはりまだ(才能)から逃げられないのか』と。

お読み下さりありがとうございます。

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