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神様のおねがい  作者: もやしいため
第七章:楔の解放

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机上の空論

理熾とライムが門の前で会話しているとノイズが現れた。

一応門番となる兵士も居るのだが、二人が空から降ってきたので慌てているのだ。

この世界に空を飛ぶ手段は無いというのに。


「リオ様、いらっしゃいませ。

 しかし空から(・・・)というのは今後ご容赦ください」

「ごめんごめん。

 ちょっと理由があって急いでてさ。

 ギルバートさんは居るかな?」


と背中の転送員を下ろして立たせながらノイズに返事をする。

理熾からすれば重い訳ではないのだが、背負子に乗った状態で貴族の屋敷に入りたくも無いだろう。

それにしてもここまで20kmくらいを大体1時間程度で到着している。

つまり速度的には自転車以上の20~30km/hくらいで移動していたのだ。

理熾は腰が抜けていなくて本当に良かったと胸を撫で下ろしていたりする。


「はい。

 しかし現在エリル様と会談中です」

「おぉ、ちょうど良かった。

 二人共に言うことあったから、そこに参加するね」


「会談中に乱入というのはいささか…」


とノイズは渋る。

確かに急に乱入して「話がある!聞け!」というのは間違っているだろう。

こっちに用があっても相手にとっては今のところ全く無いのだから。


「説明するにもここじゃ拙いんだよね。

 とりあえず中に案内してもらっても良いかな?」

「そうですね。

 ご案内いたします」


「あ、ライム。

 念のためフィリカさん呼んできてくれる?」

「分かった。

 だがそうなるとネーブル達はどうする?」


というような話をしているとハッサクが到着した。

ライムは条件が揃えば一番早い。

ハッサクは無条件で足が速い。

伝令を頼むならハッサクに決まっているということで役目変更。

ライムは待ちぼうけ決定である。

とはいえ魔力をかなり消費しているだろうから、休憩にはちょうど良いはずだ。


「んじゃ、ハッサクよろしく」

「人使いの荒い…行ってくる」


と一言文句を零して走り去った。

ハッサクは普段そんな軽口を言わないのにとライムは苦笑いしていた。


「ノイズさん。

 僕の奴隷が来たらまとめて連れてきて欲しいな」

「承知しました」


ライムを残して領主館に入る。

応接室に通され、扉が閉じられたことを確認してから理熾はノイズに問う。


「この部屋防音?」

「そのように作られています」


「というかノイズさんこの人(転送員)にツッコミ無いね?」

「中に入ってから説明いただけると思っていましたので…違いますか?」


相変わらず出来た執事である。

少なくとも外で出来る話ではないのでありがたい。

不審人物であることは間違いないのだから。

どう説明したものか、と理熾は考えたが答えが出ない。

なので素直に


「この人、シミルの人なんだよ」

「…すぐにギルバートに繋ぎます」


たった一言で事態を察したらしい。

もしかすると理熾が説明できない部分まで察してくれているかもしれない。

流石である。

すぐに部屋を移動する。


「ギルバート様。

 リオ様がお見えになりました」

「案内ありがとう。

 ちょっと立て込んだ話になるからフィリカさん着いたらすぐに入れてあげてね」


「承知しました」


それだけ言ってノイズが下がる。

素晴らしい対応だと感心しつつ扉を開く。

するとギルバートが「今日は本人か…」と呟く。


「今日は?」

「いや気にせんでくれ。

 それでどうした?

 ちょっと部外者には話せん内容なんだが」


「うん、僕も同じ」


そう言ってギルバートの反応待ちである。

「ふむ」と顎に手をやって理熾とその背後のローブを一瞥する。

そのままエリルにまで視線をやってため息を入れた。


「エリル、すまんな。

 少し休憩にしよう」

「承知しました」


「で、リオ君。

 何の用かな?」

「良い情報と悪い情報、どっちが先に聞きたい?」


「二つもあるのか?

 なら悪い方から聞こうか」

「いやー内容は割りと一緒なんだけどね。

 少し言ってみたかっただけ。

 あ、座っても良いかな?

 この人疲れてるだろうからさ」


と貴族を相手にそんなことを言う様を見て転送員は居住まいを正した。

状況は最悪と言っていいくらいだが、まだ悪化しないとも限らない。

であれば出来る限り波風を立てないようにと改めて気を張る。


するとギルバートも失念していたらしく「そこへ」とすぐに答える。

特に立たせておくつもりも無かったのだ。


「ついさっきシミルが来たよ」

「なッ!?」

「エリル静かに。

 リオ君、『悪い話』とはそのことか?」


「うん。

 そして良い話は『この人』です。

 シミルの転送員(・・・・・・・)を捕まえてきたよ」

「「………」」


ローブのことは二人とも「何だこいつ?」とは思っていたが、まさかそういう方向だとは思っていなかった。

協力者くらいのレベルだと考えていたのだ。

それが『この人が犯人です』ということなのだから驚かないはずが無い。

「おーい、二人とも?」という理熾の言葉にも暫く反応できない程度には理熾の発言はかなりの衝撃だった。


「いや、すまんなリオ君。

 どうしてそういう経緯になったのか教えてもらえるか?」


エリルよりも早く立ち直ったギルバートが話を進めた。


「ネーブル達を迎えに来たんだよ。

 それを全員で捕まえたって感じ」


と事実を少しだけ変えて説明する。

あくまでも『迎撃だ』と言い張る予定である。


「多少の話は聞いてるんだけど、必要かな?」

「あぁ、聞かせてもらえるか」


「良いよ。

 あ、フィリカさん呼んでるから来てからでも良いかな?」

「……余り広めたい話ではないが…まぁ、良いだろう。

 リオ君が居なければ大問題に発展していたかもしれないからな」


と同意を貰った。

ノイズが紅茶と焼き菓子を持ってきてくれたので、ぽりぽり頬張りながらフィリカを待つ。

ついでにローブ(転送員)にも勧めておいた。

機嫌が悪くなっても面倒だし、何より協力的である方がありがたい。

とはいえネーブル達にこっぴどく裏切られているのでそれほど効果は期待していないが。


暫くするとフィリカと四人も入ってきた。

理熾は「意外と早いなぁ」という感想だったが口に出さない。

この場で「かけっこしてきました☆」なんて言ったら怒られそうだったから自重したのだ。


「リオ君、また面白いことをしたもんだな?」


というフィリカの発言を聞くに、ハッサクはシミルとのやり取りの内容を伝えたのだろう。

この時点で自分に不利な話になることは無いだろうと理熾は安堵する。

危ない橋を勝手に渡ったのだから、お咎めがあるかもしれないとは思っていたのだ。


「正当防衛ってやつじゃないかな?」

「くく…過剰防衛の間違いじゃないのか?」

「フィリカ、リオ君、どういうことだ?」


「何だまだ話を聞いてないのか」

「お前が来てから、ということになってな」


そう言ってカップに口をつけるギルバート。

似合いすぎだった。

それが話を促す行為だった。


「すっごく簡単に言うと、ちょっとシミルを見学に行って、ついでに部屋を壊して帰ってきた」


「で、これが戦利品」と指差された隣のローブは「う…」と泣きそうな感じだし、フィリカは大うけ。

奴隷四人は呆れた表情で「まとめるとそうね」と頭を抱えている。

残されたギルバートとエリルの表情は分かり易いくらい「ぽかん」としていた。

驚くほど簡単にまとめられ、しかも分かり易い。


「もっと詳しく頼めるか?」

「んー…っと。

 1:ネーブル(ケンウッド隊)に使者到来!

 2:使者は《転移門》を展開!

 3:理熾、シミル見学に突入!

 4:むしゃくしゃして暴れる!

 5:見学が終わったので逃げ帰る!

 6:使者捕獲!

 7:ギルバートさんに報告…今ここです」

「何故シミルに攻撃をする必要がある?!」


と叫ぶエリルの疑問は当然である。

だが理熾には明確な答えがあった。

というよりもそのためにやったとも言える。

エリルの言葉には答えずに続ける。


「ギルバートさん。

 この四人…いや、この五人(・・)を『処刑した』って流してください」

「大国相手に何をやっている!?

 馬鹿なことを言うのも大概にしろ!」

「エリル、少し黙れ。

 お前はフィリカの時から何も学んでいないのか?」


怒鳴るエリルをギルバートが諌める。

むしろエリルが怒鳴ったからギルバートが落ち着いているとも言える。

大国相手に小国の、しかもさらに小さな街が喧嘩を売ったようなものなのだ。

一体この後始末をどうしてくれるのだ、というのがギルバートの本音だ。


「理由を聞こうか」

「ありがとう、ギルバートさん。

 今、シミルは戦争の準備中です。

 そんな中アルスで『実験』しています。

 前にも話したと思いますが、これはアルスの対応力と実験データの回収が目的です。

 ついでに言えば、リザード…いや、バジリスクがアルスを潰してくれるのが最適でした。


 その為にネーブル達が引っ張り出されています。

 『戦力に偏りすぎている』ので、配置としてはおかしい。

 つまりシミルは、『手が足りない』という状況という訳です。

 ここまでは同じ意見と思って良いですか?」


「構わんよ。

 それでどうして今回のことに繋がるんだ?」

「今回のリザードの件で、シミルが見誤ったのは一つ。

 『工作員の捕縛』です。


 実際ネーブルを筆頭に、この四人の能力はかなり高い。

 だからシミルとしては『合わない任務でも失敗しない者』を選んでいると思っています。

 今回捕縛した転送員の話からも、ネーブル達の戦績を確認してます。

 それが失敗した…この時点でシミルとの対立は決定的です。

 後はそれがどのタイミングで発覚するか、というところだけでした」

「そんなものは分かっている!

 だから何故そんな暴挙に出たのかと聞いている!」

「さっきから五月蝿いぞエリル。

 苛つくのは分かるが、子供相手に当たるな(・・・・)よ。

 そもそもこれらの件を全て丸くするのがお前の仕事だろう?

 まずは大人しく話を聞けよエリル。

 らしくないぞ?

 お前はもっと落ち着いているヤツだろう?」


理熾の発言に焦れてエリルがまたも横槍を入れてくる。

最初からの確認する時間が惜しいと考えているようだが、フィリカに止められる。

実際『終わったこと』なので今後の対策しか取れない。

だからこそ今はギルバートのように聞かねばならないのだ。


「シミル関連でこのところ色々とあってな」


と零すギルバートも元気そうではない。

貴族というのも大変なんだろうな、と理熾は遠い目をする。

引っ掻き回すだけの理熾とは正反対の資質が必要な役だ。

理熾は「続き良いかな」と一言断って話を続ける。


「本来であれば『死罪にした』という事実を公表しなければならないところを四人は僕の奴隷になってます。

 これがかなり異常事態だと思っています。

 例えばこのまま四人が行方不明になったとすると、『リザードに食われた』という憶測も出ます。

 が、リザードごときに負ける面子でもない。

 アルスで処罰したという話も聞かなければ、『本当にあいつらはどうなったのだ』という話になるはずです。


 行方不明の理由は大切です。

 でなければ他の諜報・工作員が逃げる可能性がありますからね。

 だからアルスを探し尽くします。

 そこで辿り着くのが四人を奴隷として引き取った僕であり、渡したギルバートさんです。


 ねぇ、ギルバートさん。

 この状態をシミルから見るとどう?

 『世界初の寝返り』を認められると思う?

 僕は絶対に無理だと思うよ。

 必ず関係者は全て狙ってくる。

 貴族とか、一般人とか関係なく。

 大国として、『この醜聞(スキャンダル)は絶対に認められない』からね」


放っておけばかなり問題になったと理熾は言う。

この想像は最悪の想定ではある。

しかしこういう可能性も少なくないと理熾は思っていた。

実際面子というものは大切だし、それがあるからこそ成り立っている部分もある。

その面子を潰されたとなればそれはもう怒り狂うだろう。

そして速やかなる排除…出来るなら情報の封殺を試みる。


ネーブル達を炊き付けた時の口上では「問題なし」とは言っていた。

アレは実行に踏み切るための言葉であり、可能性の話だ。

シミルの状況を考えればたかが工作員四人に人員を割くのもバカらしいというのもある。

単にどう転ぶかが分からないからこそ言えた話なのだ。


理熾の話にギルバート達は「確かにそういう側面もあるだろう」と納得もする。

しかし真正面から叩き潰すのはどうなのだろうか。

そんな思いをギルバートとエリルは持つ。

しかし理熾の


「だから失踪の理由を作った(・・・)んだよ」


という言葉に二人ははっとする。


「シミルの精鋭を出し抜き蹴り倒した上で進入に成功し、時間も掛けずに打撃を与える襲撃者。

 しかも『アルス側に戻った』ことで、シミルの精鋭達との対決は確実。

 なのに転送員ともども精鋭は音沙汰なし(・・・・・)となれば、答えは出る。

 『襲撃者に負けた』ってね。

 後はその襲撃者をどう扱うかなんだけど…どうしようかギルバートさん。


 『アルスの戦力』として告知するのか、『アルスも知らない戦力』として首を傾げるのか。

 ちなみに前者を取れば深い追求は無いはずだよ。

 何せ国家間の問題に発展するからね。

 それにアルスの格が上がる。


 後者を取れば僕やギルバートさんは追求される。

 それにそれだけの戦力の情報を知らないとなると侮られるんじゃないかな?」


長々と話した理熾は「ふぅ」と息を吐いて紅茶に口をつける。

理熾が話した内容はかなり刺激的だ。

劇薬と言っても過言ではない。

既に終わったことであり、『脚色待ちの状態』だと言う訳だ。

どうせ尾ひれが付くならこっちで『都合の良いひれを付けよう』という訳だ。


「くく…とんだ相手に奴隷を売りつけたなギルバート?

 まぁ、リオ君からすれば『とんだ奴隷を売りつけられた』訳なんだがな」


とフィリカはとても楽しそうだ。

しかしギルバートもエリルも構っていられないとばかりに考え込んでいるらしい。

理熾からすれば延々と考え抜いた結果発表なのだ。

フィリカのようにすぐさま理解されたら立つ瀬が無い。


「それにだ。

 そもそも工作員を放ったのが『向こう』だろう。

 こちらが撃退するのは当然だし、それにとやかく言われる筋合いは無い。

 四人を取引に使うつもりも無かったんだから、『現状に文句を言う』のは筋違いだ。

 それに行動を起こしたシミル(大国)に対して、個人(・・)で対応して貰っておいて何を言うつもりだ?

 ただ傍観して奪われろとでも言いたいのか?


 結局、リオ君の行動で助かってるのはここに居る全員だということを忘れるな。

 そして今現在は、『リオ君を切る』という選択肢まで与えられてる(・・・・・・)事実に謝罪しろ。

 お前ら為政者側が何もしないからこんなことになるんだよ」


というフィリカのお説教が炸裂した。

実際に四人の扱いを保留というか理熾に丸投げした結果が今だ。

何の文句言えるというのだろうか。

しかもそれをわざわざ手土産まで持って報告に来ているのだ。

感謝こそすれ、怒鳴られる謂れは無い。

ギルバートはため息交じりで「全くだな」と同意する。


「結果的に言い訳になるが四人の処遇はエリルと詰めていたんだよ。

 流石に放置する訳にはいかんからな。

 しかしまぁ…思っていたより状況が動くのが早かった、というのが本音だな」


と話す。

それならそうと言っといてくれないと困るというのは理熾の感想。

フィリカも完全に丸投げとは思っていなかったが、完全に音沙汰なしとも思っていなかったのだ。

むしろギルバートは理熾に心配を掛けないために動いていたのかもしれない。


「だがまぁ、ここまで動いてるのならば気にする必要も無いな。

 単に『五人を死罪にした』ということで話を進めておくか」


とギルバートは決断する。

しかし


「あ、それやめとこう」


と止めたのはあろうことか理熾だった。

お読み下さりありがとうございます。

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