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神様のおねがい  作者: もやしいため
第七章:楔の解放
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開放の為に2

馬鹿にされているというほどではないものの、四人とも押し黙る。

あっさりと「出来る」と言い放つ理熾の言葉が信じられない。

何故出来るのかさっぱりわからないのだ。


「今まで出来なかった理由は簡単だよ。

 『捕縛は死罪』だからね。

 寝返らせるなんて発想はないし、ちゃんと引き入れたかどうかが分からない。

 例えば『捕まって仲間を呼び出すのが仕事』だった場合、捕縛しようとした側が危ない。


 ほら、捕まった当人は『苦し紛れ』だったとしても、そこまでを『織り込み済み』の可能性もあるよね?

 騙し合い、探り合いの仲でそんな『信頼』は結べないし、危険度が高すぎる。

 どれだけ準備していても、相手の準備を超える確証は無いんだからね。

 だから多分今までは『とりあえず殺せ』というのが普通だったんだよ。

 疑いだしたら何を聞いても「嘘だ」と思う。

 ま、そんな訳だから『拷問に掛けて話す言葉は信じられる』とかって思うんじゃないかなぁ?」


この推測は正鵠を射ていた。

真実かどうかの確認が取れない以上は、そんな情報を信じるわけにはいかない。

当人が真実と信じていたところで、事実と違う可能性もあるのだから当然とも言える。

ならば聞かなければ良いだけの話なのだが、目の前の情報源を無視するというのも難しい。

つまり話す内容を信じないくせに、情報を搾り出すという良く分からない図式が出来上がる。


「要は四人みたいに開放された前例は無い。

 『例外なく死罪』とギルバートさんも言い切ったしね。

 なら四人が素知らぬ顔で呼び出せば、全く疑いもせず乗る。

 もし疑われていても、いきなり数十人とか放り込んできたりもしないでしょ。

 多くて数人…じゃなきゃガーランド相手に宣戦布告するようなものだからね」


「それに数人くらい敵じゃないでしょ?」と笑う。

予想というには余りにも理路整然と状況を語る。

見てきたかのような、後付の解説にすら聞こえる。

四人も装備さえまともならその程度の戦力の制圧など簡単だ。


「そりゃ、な?

 それだけの条件が揃ってれば制圧も容易いが…」

「うん?

 何か問題あった?

 ネーブルの指揮能力の高さは知ってるから教えて欲しいんだけど」


「いや、主人の推論には恐らく穴は無い。

 少なくとも今は見付けられん。

 頭が凝り固まっているのは、俺達も国も同じだろうからな」

「えーだったら何だろう?」


「その作戦をする意味は何だ?

 それも俺達を『中枢に置く意味』も分からん」


そう、そこなのだ。

四人からすれば狙われるだけの奴隷人生を歩み始めたばかりなのだ。

今のところは大丈夫だが、今後必ずぶち当たる。

そんなものをわざわざ自分から藪をつつく価値も無いし、主人にしてみればもっと無い。


「もっとシンプルに考えよう。

 今の問題は四人の立場だよね?」

「主人の奴隷だが…?」


「そうじゃない。

 『元シミル国工作員』で、『今は理熾の奴隷』なんだ。

 そして世界初の『寝返った工作員』なんだよね。

 このままだと絶対にバレるから、偽装工作(・・・・)するんだよ」


と良い笑顔で語る。

話してる内容は何処までも悪巧みなのに。

それにしても先ほどまでの話とかなり違ってくるのを自覚しているのだろうか。


「は?

 シミルに嫌がらせするんじゃないのか?」

「それ()あるよ。

 というか全部まるっと目的だね。

 『寝返る』って事は誰も想定していない。

 つまり四人の呼び出し時点では外から見ると『仕事中』なんだよ。


 そして呼び出した相手を捕まえ、全員が戻らない。

 どうなると思う?

 『寝返った』と思うよりも、『仕事中の敵襲』と思うはず。

 そんで最初に戻る。

 『工作員は死罪』だから、その時点で四人を含めたシミル側は『死んだ』と判断される」


間で「あ、卵持ってく?」とか理熾が聞くのは愛嬌だろうか。

話を聞いた四人が考える。

言われてみれば確かにそうだ。

強固な固定観念を持つからこそ、『寝返りの可能性』を否定する。

その時点で理熾の言う通りにしか相手は考えない。

というか考えられない。


このまま放置してしまうと、死んだと判断されるまでに期限が無いのだ。

シミルからすると「あいつら今回の任務てこずってんなぁ」くらいでしかない。

もし死罪にしたのなら多少の情報は流れるのが通例だからだ。


「まぁ、いつかはバレる『四人の失踪』を明確に叩き付けるってこと。

 いちいち『いつバレるか』なんてことで精神磨り減らすのもしんどいしね。

 今なら先手も打てるから、さっさと『死んだ』と勘違いさせとけば良いんだよ。


 というか捕まえた後にギルバートさんに「処罰した」って言わせれば完璧。

 手土産(転送員)連れて行けば喜んでやってくれると思うよ?

 そうなれば晴れて自由…っていっても僕の奴隷なんだけどさ」


と締めくくる。

四人ともが黙って考えている状況に不安を感じる。

どこか落ち度があったのだろうかと。


「主人、俺達が裏切ったらどうするんだ」


ネーブルが真剣な目で問う。

対する理熾はやはり気負いも無く


「別に?

 裏切るも何も、元々シミルでしょ。

 それに四人がそんな馬鹿な判断するとは思ってない」

「えらく信用されたもんだな」


「そうかなぁ?

 もう既に色々と手遅れなんだよ、皆ね。

 四人はガーランドに捕まり、ギルバートさんは四人を手放し、僕は四人を奴隷にした。


 もしこの場面でシミルに戻る?

 いやいや、賢い四人は絶対に気付いてる。

 戻ったところで情報を出したことに対する処罰が待ってる。

 例え黙っていても領主判断で僕の首は『主犯』として飛び、その理由は公開される。

 外交から情報が回るから、絶対に逃げられない」


既にルートは確定しているのだ。

今更逃げることなど出来ない。

だからこそ最善を尽くさねばならない。

それにこの場を乗り切れればまずこの先何か言われることは無い。


「でもそんなことは建前かな」

「は?」


「え、だって。

 今更シミル戻りたい?

 それに僕は四人を信頼してるしね」

「………まだ一日だぞ?」


「だねぇ、何でこんなに心配されてるんだろうね?」

「………」


「裏切る人はわざわざ『裏切る可能性』を言わないよ?

 だからその言葉が出た時点で、色々考えてたの全部が『建前』になっちゃったんだよ」


四人に信頼を置くには早すぎるにも関わらず、裏切られる可能性を考えていない。

そこにあるのはただただ「四人なら楽勝」くらいの気負いしかない。

そんなことを言われると緊張など無くなってしまう。

「何とも信用されたもんだな」「あぁ、全くだ」「で、ネーブル穴は無いか?」「そうだな…失敗時のリスクが高すぎる」

と急に饒舌になり始める。

今の今まで「こいつ(理熾)何言ってんの?」くらいの気分だったのだから仕方ない。


「え、ネーブル失敗する気なの?

 この四人で出来ないって言いたいの?」

「まさか。

 だが、失敗も念頭に入れないといけないだろ」


「んー失敗かぁ…『前例が無い』とはいえ、実際に無かったかどうかは分からない。

 隠されてる場合もあるしね。

 『司法取引』って言葉があるくらいだから、利益のために身内()を売ることもある。

 その辺は『国の恥』だから絶対に外に出さないだろうね。


 気を引き締めてコトに当たって欲しいんだけど、この作戦って僕の一存(・・・・)なんだよね。

 フィリカさんや、エリルさん(騎士団団長)は勿論、ギルバートさん(領主)にも話してないから、失敗しても大丈夫。

 その場合は『四人が寝返った』って事がシミルにばれるだけだから、気軽に行こう」

「いや、国相手に喧嘩売れって言われて気軽にできねぇよ…」


色々考えているくせに、一方で大変緩い。

楽天家なのか戦略家なのかさっぱり分からない。

この気安さは一体どこから出てくるのだろうか。


「そうかなぁ。

 失敗しても『自分だけの被害』って結構気楽だけどなぁ」

「それに主人も目を付けられるだろうが」


「僕は別に良いよ。

 四人の主人で、立案者なんだからね。

 というか成功・失敗に限らず、喧嘩売ることには変わりない。

 楽しんでいこうぜー?」

「だから楽しめねぇよ!

 国が総力を挙げて殺しにくるんだぞ?」


「あぁ、それは、絶対に無い(・・・・・)

「は?」


理熾の断言に思わず口が開く。

四人からすれば、『国からの制裁』が一番恐ろしいのだ。

どれだけ頑張っても所詮は個人。

国と言う巨人には絶対に勝てない。


「だって今は戦争準備中(・・・)

 いくらガーランドのアルスを気にしているって言っても、僻地だよ?

 シミルからアルスまでの間にどれだけ国があると思う?

 わざわざそんな僻地に工作員潰すためだけに暗殺者を雇う?


 いやいや、そんな暇じゃないよ。

 じゃなきゃそもそもたかが(・・・)リザードのためにネーブル引っ張り出さないよ。

 それに暗殺者送り込むなんて目立つことしたら戦争準備中だからこそ(・・・・・)、『宣戦布告』だと思われかねない。

 そんな危険を冒すなら放置する。

 既に情報が漏れている以上、これ以上悪化することは無い。

 あぁ、あるとすれば『諜報・工作員の寝返り』かな?


 …でも、その辺はまず情報を出さないようにするだろうし、四人の存在を否定する。

 認めてしまうと悪い方向にしか転がらないから、絶対に『四人とは関係ない』と貫き通すよ」

「何処まで考えてるんだ…?」


「ここまで、かな。

 流石に今回は頭使ったなぁ…痛いもん」


とこめかみをぐりぐり押す。

四人を隷属させてからというもの、空いた時間はこのことばかり考えていた。

報復は必ずあると思っていたからだ。

最初のギルバートと話をしていた段階では『死んだもの』として扱われると思っていた。

それがフィリカの話で『我関せずだ』と教えられてかなり焦ったのだ。

「ギルバートさんそれは無いよ」と。


しかし本腰入れて考えれば考えるほど四人の立ち位置は特殊なことに気付いた。

『前例が無い』という貴族のお墨付き(・・・・・・・)まで貰っているのだから間違いない。

そして何より四人が異様に強いのだ。

使わない手はないし、手札として持っていたいとも思った。

だったらきっちり手切れさせる必要もあるだろうと。

そうして組み上げたのが今の話である。


実害は無くともかなりリスクはある。

しかも成功させておかないとかなりしんどい。


「んじゃ話は終わり。

 セリナさんに怒られるからそろそろ寝るね。

 決行は明後日くらいで、それまでに準備しよっか」

「えらく急だな…?」


「延ばすほど成功率下がるからねぇ」


「それじゃおやすみ」と言って理熾は布団をかぶり直す。

四人も挨拶もそこそこに理熾の部屋を出ていった。

自分達の部屋に戻って作戦会議だろう。


 あの四人なら大丈夫だよね。


そんなことを思ってる内に寝入ってしまった。

お読み下さりありがとうございます。

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