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神様のおねがい  作者: もやしいため
第三章:始まりの街
11/537

世界初のごはん

8/16訂正

街に入るとピコンと音が鳴るが気にしない。

とりあえず疲れを取らねば…というその思いで足を動かし、宿に向かった。

いつ倒れてもおかしくは無いコンディションだ。


目的の宿『あけみや』へと到着して玄関をくぐり、カウンターへと急ぐ。

カウンターでは女性が何かの書類仕事をしていた。


 まだ朝だし、多分チェックアウトとかかな?


回らない頭で搾り出した答えはその程度だった。

旅行とか宿に泊まる、ということ自体をほとんどしたことが無いので分かるはずも無い。

というよりはそういった事務手続きを子供にさせるはずも無い。

当然の如く両親が済ませているので受付の事情などさっぱりだ。


「すみません」

「はーい、どうしました?」


声を掛けるとすぐに反応があった。

忙しそうだったのに申し訳ないと感じる理熾。

顔をこちらに向けて笑顔で対応してくれる。


「宿泊をお願いしたいんですが、開いてますか?」

「何名様でしょうか?」


どうやら理熾一人だとは思わなかったらしい。


 保護者が居るのか聞かれてる?

 確かに一人旅をするには若すぎるから仕方ないか。


当の本人が余りにも子供っぽくない感想を思うという矛盾。

若さ…というよりは幼さを理解している。


「一人です」

「確認しますので少々お待ちください」


子供(理熾)相手に丁寧に対応してくれる。

日本ならこの時点で通報されるだろう。

家出少年として。


 日本のサービスは世界一らしいけど、スフィアも全然負けてないね。

 まぁ、技術的には日本が圧倒的なんだけども。


とかなり上から目線でそんな感想を持つ。


「あ、すみません。

 これ忘れてました」


そう言って、書いて貰ったギルバートのサインを見せる。

頭がぼうっとしてるせいか、一拍置いたようなタイミングになってしまった。

最初に割引券を、というシステムなのに最後に出す客のように迷惑極まりないと理熾は思う。

だが


 せっかく紹介状的なものを持たせてくれたのだから、見せないとね!


と思う辺り、今まで忘れていたことなどお構いなしだ。

しかしその紹介状を見せた瞬間、「ぁー…」と軽く呻きながら頭を抱えて机に突っ伏してしまった。

どうしたことか、と理熾は焦り出す。


 アレ?

 何だか頭抱えてるよ!

 もしかして渡しちゃだめなやつだった!?

 ギルバートさんオアシスじゃなかったの!?


戸惑いの中で頭で飛び交う言葉は理熾には無い。

ただたどたどしく「えっと…?」とか口にする。

相手も理熾を困らそうとしての態度ではない。

だからこそ対応に困るのだが。


「あぁ、すみませんお客様。

 ギルバートは私の父でして、この宿のオーナーになります」

「は?」


「紹介状を見せていただきますね」

「え、はい」


そう答えるのが精一杯だった。

言っていることは分かるが、意味が分からない。

理熾が出会ったのは確実に守衛で、警備員だ。


 あれ、どういうことだ?

 守衛さんことギルバートさんが宿のオーナーってなんなの?

 てかこの人のお父さんで…お金持ちなの?

 え、全く分からないんだけど…?


理解が追いつかないとはこのことだろうか。

手紙(紹介状)を読む短い時間を長く感じる程度に緊張した末、受付が口を開く。


「やっぱり…まぁ、仕方ないですね」

「な、何がですか?」


「お客様…いえ、リオ君。

 宿泊料は無料で構いませんが、食事は実費ですので悪しからず」


もう一度意味が分からないと思う。

理解できないような、衝撃の事実を告げられた。

何だか良く分からないが、素泊まりが無料(タダ)になったらしい。


 あぁ、ギルバートさんが紹介…ってか、オーナーだからかな?

 宿屋って商売してるのにいくらなんでも素泊まりが無料って何か怖い。

 剥がれるような身包み無いけど、超怖い。


嬉しさ反面恐怖を覚える。

まさか迷子センターでもあるまいし、子供(理熾)を預かっても得は無い。

何より特に期限を切られていない辺りがギルバートに不利益過ぎて怖い。

一体何をさせられるのかとびくびくしつつも、この話は大変ありがたい。


「えぇ!?

 嬉しいけどそんなこと良いんですか!?」

「いや、全然良くないんだけどね。

 君の事を何か気に入ったらしくてさ。

 こんなこと滅多に無いんだけどねぇ…」


そう返す受付は言葉に力が無い。

この街と言わず、スフィアに根無し草な理熾。

生きていく以上は日毎に必ず出費が発生する。

そして住む場所すらも無いから当然の話である。


食費は言うに及ばず、住む場所も無ければ服も今身に着けている一着のみ。

手持ちの金額を考えると、宿を取るだけで5日程で使い切ってしまう。

頑張っても確実に10日も持たない。


なけなしの生存本能を全開にして生き残った今、一番の問題は『所持金』だ。

金をどれだけ使わず、むしろ増やすかを考えなければいけなかった。

なのにいきなり宿代が無料になってしまった。


 ありがたすぎる!

 これが幸運5のリアルラックなのか!!

 あぁ、きっと揺り返しがあるんだろうなぁ…嫌だなぁ…。


嬉しいことがあっても軽くどんよりする理熾。

スフィアに来てから神絡みで良いことゼロだからこその恐怖心だ。

そもそもこの場に来る時に一生分の後悔を終えてきている。


「すっごいありがたいです。

 もし何か僕に出来ることがあれば言ってください!」

「うん、ありがとう。

 部屋は206号室でお願いするわね」


「分かりました。

 でも、ホントに良いんですか?」

「良いも何も、オーナー(お父さん)が言うんじゃね。

 気になるなら、この街に留まる間はお父さんの相手して貰えるかな?」


「はい!

 …そういえばギルバートさんって、ただの守衛さんじゃなかったんですね」

「…え?

 ぁー…そうね。

 (身内)が言うのもなんだけど、凄く変わってる(・・・・・)と思うわ」


言いよどむ辺りが少し気になったが、今はとにかく部屋で休憩したい。

むしろ眠りたい。

今なら一日中寝ていられる…そんなことを考えていると、ハッと重要なことに気付く。


 というか、今気付いたよ!!

 お腹すいた!!

 そういえば昨日から何も食べていない!


そもそもスフィアに来てから何も口にしていない。

アレだけ走ったのに水すらも、だ。


「すみません、ご飯って食べれますか?」

「うん、向こうに食堂があるから、そこで頼んでくれる?

 大体5カラドくらいで食べられるからさ」


その言葉を聞いてすぐさま移動開始。

疲れた身体に鞭打って部屋まで到着し、場所を確認。

鍵を開けて中に入り、荷物を…


 って…置く荷物が無い!

 あぁ、こんなことならまず食堂行けばよかった…。

 ホントに場所の確認のためだけに2階に上がってきてるッ!


やはり頭の回転は疲労のせいでかなり鈍くなっているようだ。

空腹に耐えかねて急いで食堂へ駆け込み、注文する。


「すみません、オススメください!」


全く知らない世界なのだ。

食べ物の好みなんか分かる訳も無い。

だから美味しいなら何でも良い…むしろ口に合えばそれで良い。

むしろ今は『質より早さ』であり、何よりも『飲み物』であった。

散々汗を掻いたのだから当然の話であるが。


出てきたのは茶色いパンと見た目がコーンスープの二つ。

パンには炙ったベーコンっぽいスライスが何枚かに葉っぱ。

加えてほんのちょっぴりチーズらしきものが入っていた。

開けて見ては無いが、きっと美味しいソースが掛かってるのだろう。


 これってベー○ンレタスチーズバーガー的なヤツでは!?


そう思って一口齧る。

瞬間、理熾は自身の愚を悟る。

食べてみると全く違う。

歯ごたえ抜群で香ばしいパン。

(ベーコン)だと思っていたのは実は魚だったようで、さっぱり白身のマリネ味。

葉っぱは葉っぱだったが、まさかのフィッ○ュバーガーである。

チーズだと思っていたものはどちらかというとタルタルソースみたいな感じである。

ちなみに予想を裏切り、美味しいソースは掛かってなかった…チーズが全てを兼ねていた。

理熾は「こういうのを薫り高いって言うんだろうなぁ…」とほんのり甘いパンを齧りながら思っていた。


次にスープ。

コンソメスープが一番近いかもしれない。

お腹に優しい暖かさと味で、とろりとしたスープの中に沢山の具。

普段ならこれだけでも満腹になりそうなくらい入ってる。


 ギルバートさんが誇るだけあって美味しかった。

 空腹補正もあるだろうけど、信じられないほど美味しかった。

 重要なことだから2度も言ったよ!

 あぁ、スフィアに来て初めて『幸せ』を感じたかもしれない。


……

………

飲み物をすすりながら食事の余韻に浸り、至福の時を過ごす理熾はそこではっと気付く。


 お金ってステータス上でサラッと増えてたけどどうやって使うの!?

 ちなみに金額も聞かずに頼んで食べたんだけど、もしかして高級料理じゃないよね!?


とか頭を抱える。

量も多く、味も素晴らしい。

日本という美食大国から来た理熾が満足する味なのだ。

高級料理だとしても全くおかしくは無い。

そんな理熾のところへと受付の人が顔を出してくれた。


「リオ君、実はここって朝は先払いなんだよね。

 何も言ってなかった私が悪いんだけれど、4カラド貰えるかな?」


にこやかに告げる金額を聞いて理熾は


 4カラド!

 ということは、今の所持金で最低100食食べられる!


1ヶ月は持つので少し安心した。

物価がまともに分からないので高いのか安いのかは分からない。

とりあえずこの食事を食べられるなら安心だ。

にこやかに話す受付の人に悪いと思いながらも返事も出来ずに表情を固めて必死に考える。


 でも使い方わかんないけど!

 これ、ヘルプ画面とか無いのかなぁ…。

 無いよなぁ…。

 日常にヘルプとかあったら学校いらないしなぁ…。


とかなんとかお金お金と、4カラド4カラドと意識してたら手の平に異物を感じた。

チャリチャリと音が鳴り手を開いてみると見知らぬ硬貨が握られていた。


「あ! ありがとー。

 普通は宿泊だから、ご飯付いてるんだけどね~」


そう言って掠め取るように手の上の硬貨を持っていってしまう受付嬢。

硬貨が無くなった手の平を見つめながら呆然としながらも気付く。


 この世界って大概『意識する』と実現するだなぁ。

 ついでにそういえば受付さんの名前知らないや。

 まぁ、暫く泊めてもらうし今度聞こう。


とあっさりと考えを手放す。

考えても仕方の無いことは諦める。

水と食事を取ったことによって少しは頭が回りだしたようだ。


それにしても。

せめて問題の内容と、問題に直面するまでの猶予が分かっていれば対策も立てられた。

何よりその猶予が理熾の精神的な余裕へと繋がるはずなのだが、それは総じて分からない。

そのことを思うと一瞬たりとも無駄には出来ない。

本当にこの世界は理熾にとって優しくないのだ。


 とにかく。

 お腹が膨れたので次はギルドへゴーだ!


結局出来る事を出来るだけ進めるしか無い。

疲れに悲鳴を上げる身体に鞭打ち、ギルドへ向かうのだった。

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