真実
玉の光は、すーっと収まって行った。維月が、ひたすらに涙を流して維心の腕に抱かれている。初代龍王、維翔。維翔は、愛する妃と子を守るため、世を作り直そうと宮を建て、王となった。予想以上に荒れた世を、まとめようと今の形の元を形作った偉大な王。しかし、その生い立ちは寂しく、父は知らず、母は行方が知れず、唯一安らぎを与えてくれた妃を無くして、それでも世を導いて行った。
そうして、維海もその後500年地を治め、次の王、三代龍王維淳は1000年君臨し、その子張維は四代龍王として900年君臨し、そして五代龍王維心は、歴代最長命の1800歳にして1600年の間君臨している。維心の代でようやく、太平の世を作り上げた。
「…我が祖父の、生きざまを見せてもろうたの。」維心は、言った。「それぞれに思う所もあろう。もう真夜中を過ぎた。部屋へ戻るが良い。」
洪は涙を拭いながら頭を下げた。皆も、それに倣って頭を下げ、次々に居間を辞して行った。維月が、まだ泣いている。維心は維月を抱き寄せた。
「何を泣く…祖父は祖母に会うたのであろう。大丈夫ぞ。」
維月は、涙を流したまま維心を見上げた。
「どうしたことか、涙が止まりませぬの。維心様…維翔様を、あの門より呼び出すことは出来ぬのでしょうか?気がお強いのですから、来られるはず。せめて、今どうなさっておるのか知りとうございます。」
維心は、迷ったが、維月が望むならと立ち上がった。
「やってみようぞ。待っておれ。」
維心は、黄泉への門を開いた。そこに、見覚えのある四角い門が開く。維心は、その中へ呼び掛けた。維翔…我が祖父よ。居られるか?
しばらく念を送っていたが、一向に答えはなかった。維心は、維月を振り返った。
「何しろ、もう数千年前の事であるから。転生されておるやもしれぬ。」
維月は、涙を拭った。
「…今生は、お幸せであるのでしょうか?」
維心が、困って口を開こうとすると、他の声が飛んだ。
「おお、幸せにしておるぞ。」
維心と維月は驚いて声の方を振り返った。そこには、碧黎が立っていた。
「お父様…!ご存知でいらっしゃるのですか?」
碧黎は頷いた。
「よう知っておる。我が転生させたからの。もちろん何もかも覚えてはおらぬが、転生する時、自分の使命だと申しておった。そして出海のことは…安定するまで寄越してくれるなと申しての。もう、二度と失いたくはないと申して。転生させる時も、いさかいのない所へ転生させよとの。それは過保護であるのだ。」
維月は、身を乗り出した。
「では、出海は黄泉に?呼べば参りますか?」
碧黎は、首を振った。
「何を申す…今の世は安定しておるだろうが。出海も転生した。このように、神のいさかいに巻き込まれない場所にの。」
維月は、沈んだ顔をした。
「では…二人は今、別々に生きておるのですね。」
碧黎は苦笑した。
「そうなるはずであったがな、執念とは恐ろしいもの。せっかくに我が望むようにしてやったのに、二人共に覚えておらぬのに逆らいおって。」
維月は、パアッと明るい顔をした。
「では、共なのですね!会ってみたい…何も申しませぬから。お連れくださいませ。」
碧黎は、笑った。
「おお維月、それは無理ぞ。」
維月は食い下がった。
「お父様…!どうか…!」
維心が、維月を引き寄せた。
「無理を申すでない、維月…わからぬか。」
維月は怪訝な顔をした。
「何を言っておられまするの?」
維心は、笑った。
「碧黎が生み出した命とは、誰ぞ?」
維月は、ハッとした顔をした。
「維明様と、維心…様…。」
維月は、絶句した。そう、出海を見て、私だと思ったじゃない。では、維翔様は…。
碧黎が、声を立てて笑った。
「維心は、ほんに変わらぬ。いつの世も、主ばかりよ。のう維翔よ…記憶は綺麗に消えておるようよ。それでも主は、やはり主よ。維月の部屋、やはり己の部屋の裏側に設えさせたの?念願だったゆえな。」
維月は、涙を流した。だから、この宮が好ましかったの…。だから、庭が好きなの…。これは、維心様が私のために建てさせた宮なの…!
「ああ」維月は、維心に抱き付いた。「維心様…!維心様、そうでしたの…!」
維心は、維月を愛おしげに抱き締めた。
「主が繋がっておるのは、何も十六夜ばかりではないのだな。我らは前世より繋がっておる…何としても主を思い切れなかった理由、これで分かった。」
維月は、維心に頬を擦り寄せた。
「ごめんなさい、維心様…私、些細な事で飛び出したりして。これは、きっと前世の私の戒めですわ。これを見て、考えなさいって…。」
維心は笑った。
「もう良い。我も悪かったのだ。失うくらいなら、多少いさかいがあっても良い。共におる…何があってもの。」
碧黎は、そんな二人にため息を付くと、言った。
「十六夜には言うでないぞ?また拗ねよる。あやつも維月と繋がっておるのは違いないのにの。」
二人は、碧黎を見て頷いた。そして維心は、維月を抱き上げた。
「さあ、我らはもう休む。碧黎、礼を申すぞ。」
碧黎は、呆れたように笑った。
「良い。主には大きな借りがあるからの。よく我慢して地を平定させたもの。なのでまあ、本当は共にさせるつもりはなかったが、惹かれ合うのだからの。仕方がないわ。頑固者め。」
維心は笑うと、維月を抱いて奥の間へと入って行った。
碧黎はそれを見送って、微かに笑いながら飛び立って行ったのだった。
明日から、迷ったら月に聞け~番外編・黄泉にてhttp://ncode.syosetu.com/n6228bv/が始まります。まよつき7の終わり頃から、維心と維月、十六夜が黄泉へ逝った時の向こうでのお話しです。また宜しくお願い致します。