決意、まったり
「……って、言われちゃいました」
近所のおばちゃんから麦茶をもらっていた累子に、維委は隊長とのやり取りを話した。
ちゃんと返礼してもらった隊長は、今はちゃんと左手を下ろして部下の尻を蹴飛ばしていた。さすが元軍属、なかなかにスパルタである。
「ちょっと恥ずかしかったです」
人前では王族としての言葉使いをしている維委だが、累子の前では素にもどるようだ。
王族としての言葉使いといっても、維委のそれはかなりフランクではあるが。
「へぇ、継命ちゃんは外遊してたんだ。だからかー」
それに対しての累子の応えは、微妙に的を外したものだった。
「うーん……静かな日々よ、さようなら?」
「累子さんは姉さまと面識があるのですか?」
「いやー、面識っていうか知り合いっていうかー……」
小首をかしげる維委に、累子は珍しく言葉を濁す。
「まあ、それはともかく」
ぽんと手をたたく。話をすり替えることにしたようだ。
「本当に吹っ切れたみたいねー、誰かに相談したの?」
「……ええ、家族に」
俯きながら話す、完全には吹っ切れていないようだ。
だが迷いはなくなったようで、その目には揺らぎがなかった。
「『自分に出来ないことで悩むより、出来る自分になれるよう努力しよう』と言われました」
「をを、良い事をいう家族だ。維委ちゃんは愛されてるなぁ」
「はい。自慢の家族です!」
「私なら『放っておいたらー』とか『どうしようもないってー』としか言わないわよ」
気楽に言い放つ累子。
気楽に言い放ってはいるが、実際には『放っておけなくて』そして『どうしようもなかった』者の言葉である。
維委は、その言葉の重さを理解している。知っている。
「……とりあえずは、世界をこの目で見て周りたいと思っています」
それは、狭い視野で正しさを決めてはいけないという、父の言葉。
「何が出来るか、何が出来ないか。出来るならどこまで出来るのかを見極めたいと思います」
「出来ないことは、しない理由にできるが。出来ないままの理由にはならない」そう言った兄。
そして「不可能でないことを、この国、日出の国が証明しているでしょう?」と応えた母。
姉は「したいことをしたいように、好きにやりなさい」と背を押してくれた。
維委は家族の言葉に決意した。決して家族の気持ちを裏切らないと。
世界的に見て例外中の例外。グローバルスタンダートという言葉を真っ向から否定する国。日出の国。
私はそんな国の王女なのだ。勇者として王女として、もっと視野を広げないと、と。
決意した維委に、累子はにぃぃぃと笑う。
「うん。私に被害が及ばないように、遠くから応援するわねー」
「いえ、普通に応援してください」
「だって私、魔王だもーん」
二人はちょっと見合ったあと、どちらともなく声をだして笑った。
「時間制御できれば空間はどうとでも出来るの?…でも今だけでなく過去との相違差…識外での総合? アカシッ……いやいやいやないないない」
従者はいまだにぶつぶつと、自分の殻にこもって呟いていた。
そろそろ戻って来い。
継命は「つぐみ」と読みます
最後に従者が呟いている内容は、適当です
中二病も難しいもんだ