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世界、いつも通り


「いい天気だねー」


「そうですねぇ」


 春の陽気に、気持ちだけでなく声まで溶ける。

 女子高生勇者とジャージ魔王は、公園のベンチで日向ぼっこしていた。


「眠くなるねー」


「ですねぇ」


 いつも通り累子に勝負をもちかけた維委だったが、いつもの通りに累子にはぐらかされ、今は二人でのんびりしていた。

 そして背後では、いつも通りに従者が嘆息している。


「平和だねー」


「はい。平和ですぅ」


 休日の昼下がり、公園では色々な種族の家族が団欒している。

 二人の目の前では、トロールの警官にゴブリンと人族の子供たちがじゃれついていた。

 ─トロール。それは火か銀の武器でないと、傷ついてもすぐに回復する巨人の一族。色々あって普通の人になり、その特性を生かして警官や軍人として活躍している。

 ─ゴブリン。昔は子鬼と呼ばれ、闇と血を好む性質から忌み嫌われる種族だったが、やっぱり色々あって普通の人となっている。


「ところで、維委ちゃん」


「はい。なんですかぁ」


「あれをどう思うー?」


 累子は目の前の光景……ではなく、公園の外を指差した。

 ボールを追いかける幼女。それだけならば何も問題のない、よくある風景だが。

 だがそこは幹線道路であり、後ろには2tトラックが迫っていた。


(いけないっ!)


 維委は即座に飛び出した。

 強化された筋力による全力行為にベンチが壊れ、累子が「きゃあ?」と似合わない悲鳴を上げたが気にする余裕はない。

 幼女の横にアスファルトを凹ませながら着地したはいいが、何もできないことを悟る。

 幼女のひ弱な身体では維委の全力に耐えられない。

 トラック運転手がやっと気付き、ハンドルを切ろうとしているが間に合わない。


(せめて命だけは!)


 怪我をするのは防げなくても、自分がクッションとなれば、命は助かるはず。少しでも衝撃を和らげようと幼女を抱え込む。

 即断し覚悟した維委は、目をつぶり身体を硬くし、衝撃に備える。

 しかし、その衝撃はいつまでたってもこなかった。


(………あれ?)


 その代わり、維委の努力や覚悟をいつも無駄にする、いつも通りの気の抜けた声がやってきた。


「維委ちゃんは馬鹿だなー」


 恐る恐る開けた目に映る光景は、ちょっと信じられないものだった。

 累子が2tトラックを垂直に、しかも片手で持ち上げていた。

 いくら魔王といっても、見た目は普通の女性であり、その細腕でトラックを支えている状況は、異様としか言いようがない。


「とりあえず、その子を連れて行ってよー。さすがにちょっと重いー」


 その言葉とは裏腹に、何があってもびくともしなさそうな雰囲気だが、こくこくと頷き公園に急ぐ維委。

 そのころ、やっと公園の人々が騒ぎ出した。

 女性がトラックを持ち上げている光景を見て、騒がないほうが難しいが。


「おじさんー。携帯しながらの運転はだめだよー?」


 後続に気を使いながら、累子はトラックを路肩に降ろす。

 オーガの運転手は目を白黒させながら、大きな頭とを膨らんだ腹ごと何度も頷き、トラックを発進させた。彼はもう二度と携帯片手の運転はしないだろう。

 昔は人食いとおそれられ、大きな頭と強靱な身体をもつ、臆病で凶暴な一族だったオーガ。だがいつもの通り、今は普通の人になっている。

 累子がのんびりと公園に戻ると、そこでは維委がちょっとしたヒーローになっていた。

 子供をトロールの警官に預けた維委は、周囲からの賞賛の声にちょっと照れながら対応していた。


「姫さまかっこいー!」


「うん、すっごくはやかった!」


「女の子が無事でよかったです」


「警護の者の苦労も考えてください」


「やっぱ天王家の人たちは違うねぇ。凄いよ!」


「天王万歳!」


「ばんざーい!」


「ばんざーい!」


 頭部が寂しくなりつつあるお調子者のおじさんが始めた万歳の唱和が、さらに維委を照れさせる。あと警護員の愚痴も聞こえたが、その前に働け。

 累子が近づくとさらに盛り上がり、万雷の拍手が巻き起こった。


「Your finger, monster! (手を放して化け物!)」


 しかしそれは、良く言えば響き渡る。悪く言えば耳に障る金切り声で止められた。

 叫んだのは、人族の女性。彼女は顔を蒼白にしながら、鬼気迫る勢いでトロールの警官に詰め寄っていった。


「Mom! (ママ!)」


 警官にあやされていた幼女はそういって、母親に走っていった。

 娘を抱きしめた母親は、警官を睨みつけた。

 彼女は、警官にあやされて笑顔だった娘の笑顔を見ていなかった。

 いや、見ていたが、認めたくなかったから無視したのだ。見たくないものは見えない、それが人間。


「Do not touch the girl monster! (私の娘に触らないで、怪物!)」


 人族。圧倒的な繁殖力で世界を支配し、民主主義という数の暴力をもって昔から現在まで、差別主義の最右翼な種族。

 彼女の発言は、これ以上ないほどに魔族差別主義者だと表明していた。

 しかしこれは珍しいことではない。

 珍しいのはこの国なのだから。

 日出の国は天王の下での平等が憲法に明記されている。天王の下、種族の違いでの差別をなくし、和を持って尊しとする「全族共和主義」。

 そこにはダークエルフだけでなく、魔族全てが含まれる。皮肉なことに、魔王と戦った勇者の国だけが、全魔族を受け入れている。

 つまり幼女の母親の発言は、世界的に見てとても一般的なのだ。

 しかしここは世界で唯一の、全種族の人権が保護されている国。日出の国。

 その場の人すべてが、母親を睨みつける。

 外国語が不得意といわれる日出の国人でも「monster」という単語の意味と、彼女が放つ憎々しい空気は判る。


「I do. This country, I should not not come (な、なによ。こんな国にくるんじゃなかったわ)」


 それは彼女にも伝わったようで、娘を抱き上げるとそそくさと公園からでていった。


「なんだよあの女。おめぇさんはなーんにも悪かぁねぇぞ」


「礼のひとつでも言っていけばいいのにね。サンキューとか」


 口々にトロールの警官に話しかける人々。

 べらんめぇ口調のおじさんが肩をたたこうとしたが、身長が足りずに背中を叩いたのはご愛嬌。


「いえ、いいんです。慣れてますから。……それに」


 そう言いながら警官は、笑顔で手を振った。母親の肩越しに、警官に手を振る幼女に。

 子供は敏感に良い人と悪い人を見分ける、牙が生えた怖い顔をしているけれど、優しい人だと幼女にはわかったのだろう。

 警官にはそれだけで十分だった。

 きっと彼は、これからも、愛される警官として職務に励むだろう。




「ダメよ、維委ちゃん」


「はい……わかっています」


 しかし、ここにそれではよしとしない人間がいた。

 

「でも『しかし』『けれど』の思いは消えません……」


「今からそれだと、後々大変よー? 成人したら、外国に表敬訪問とかしなくちゃいけないんでしょう」


「………」


「正直、めちゃくちゃひどいわよ。マンホールチルドレンとか当たり前だからねー」


「……うぅ」


 魔族と人族を区別はするものの差別しない国、その王族としての維委は、あの母親の発言に悲しみと怒りを覚えていた。

 なんとか自制してはいるが、ちょっとしたきっかけで爆発しかねないところまできていた。

 隣にいる累子がそっと手を握ってこなければ、あの母親に張り手をお見舞いするところだったのだから。

 なにせ侮蔑されたのは自国民、それも法の守護者として警官として働く良民なのだ。これに怒りを覚えないのは、王族として許されない。


「どうすればよいのでしょうか……」


「そーいうのをなんとかしたいなら、世界全部ひっくるめて変えなきゃなんないわよー」


 累子の顔を見る維委。彼女は実際に世界を支配しようとしていた。変えようとしていたのだ。

 維委の視線に気付いた累子は、いつも通りに、にぃぃぃと口角を上げて笑う。


「ま、見ての通りになっちゃってるけどねー」


 それを止めたのは維委の先祖。


「ま、今日はもうお開きにしましょうかねー」


「はい……では、また」


「またねー」


 維委はぺこんと頭を下げるが、そこにはいつもの元気はなかった。肩を落としトボトボと歩く。

 累子はそんな維委と、従者や警護員たちに手を振って家路に着いた。


「……継いだのは、本当に剣だけかー」


 赤毛ごと頭をかいて呟く。

 その呟きにはちょっとだけだが、明るいものが混ざっていた。


タグに人種差別はないと書いてますが、それは、日出の国だけのことです

まあ、区別はありますけどね

巨人族と子鬼族は同じ椅子使えませんし、サイズ的に

そこらへんも、もっと深く書きたいですねー


英語は機械翻訳なので、正確ではないです

視野狭窄をおこしているとさえ判ればいいかな、と


日本にも差別はありますが、まあ、他国よりは少ないかな

黒人だけ入店禁止とかないですし

風俗店は大抵、外国人お断りですが

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