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雨花の花嫁  作者: 蜃
第十話
54/64

【54 会議室にて】


 私たちは急いで大広間からもっと見晴らしの良い場所へと移動することにした。


 というのも、ガズルラーヴ城は高さの違ういくつものビルみたいな塔が集合したような構造になっていて、大広間があるのは真ん中の塔なのだ。塔はそれぞれ渡り廊下でつながれており、いつもの移動にはこちらを使う。また、上下の移動用にはらせん階段がそれぞれの塔の中央に作られていた。


 大広間のある塔だけは吹き抜けになっていて、階は存在しない。外の明かりを取り入れる窓はあるものの、一階部分からは外を見ることは出来ないのだ。


 私とバルトとガーグはジェズアルドとともに移動用魔法陣をくぐって、最も南にある塔に向かった。ほんの一瞬暗闇につつまれたあと、塔の真ん中くらいに位置している会議室へと出る。ここは南側すべてが魔力で強化されたガラス張りになっており、外のようすがよくわかるのだ。


 少し前、城から出してもらえなかった頃は、ほんの少しでも解放感を得るためによくここに訪れたものだった。けれど、そこから見た景色は、そんな思い出を吹き飛ばすほどの驚きをそこにいた全員にもたらした。


 ゆっくりとではあるが、緑を取り戻しつつある大地。その色を再び別の色に塗り替えようとしているかのように、魔物の群れがここへ押し寄せてきている。私たちに少し遅れてやってきたアレグラが、後ろで小さく息を飲む音が聞こえた。振り向くと、彼女の他にもアントニオや、ジェズアルドの側近たちが窓から外の光景を食い入るように見つめている。


「私がここへ向かっているときには、まだ魔物の影も形もなかったのに。どうしてこんな短時間に……気づいていれば打てた手もあったものを」


 うめくような声には悔しさが強くにじんでいた。憤りに小さく震えるその肩を、アントニオがそっと抱き寄せる。


「しかも、先頭におられるあの姿……ウロスお父様。なぜこのようなことを」


 苦しげに絞り出されたアレグラの言葉に、私は先頭の魔物をよくよく眺めた。空中に浮かぶ長い身体。きらめく青いその姿にはものすごく見覚えがある。思わず残った青い腕輪を見たあとで、私はすぐ隣で険しい顔をしているジェズアルドに訊ねた。


「ねえ、もしかしてアレグラさんのお父様のウロスって……あの、シー・サーペントとか言われてた」


 訊ねながらもついつい声はしりすぼみになる。ジェズアルドは、少し考えてから私の言いたいことを察してくれると、うなずいた。


「そうだ。小瓶に封じた三体の中ではもっとも強い魔物でな、余も封じるのに手こずった。しかも、奴は水属性だからな、ここ連日の雨で力を増し、海から出てこられるようになったらしい」


「やっぱり、ごめんなさい……私は、何をすればいいの?」


 この事態は私が招いたようなものだ。あの時の考えなしの行動を深く悔やむのはこれで三度目だけれど、今までで一番怖い。すると、私の怯えを察したのか、ガーグがなぐさめるように言った。


「大丈夫っスよ。それに、お妃さまだけが責任を感じることはないッスよ。あの場にはオレもいた訳で、責任はオレにもあるッスから、お一人で背負おうとしないで欲しいッス」


「そうですぞ! 我にも責任があるのですから、気に病まんで下さい。なに、奴らもこのガズルラーヴには簡単に近づけませぬし、ここに集っておる魔物は皆精鋭なのですから、何とでもなりましょうぞ!」


 ガーグのセリフを受けてか、胸を張ってバルトも言う。すると、ジェズアルドが私の肩を優しく叩いてほほ笑んでくれた。


「ふたりの言うとおりだ。それに、マッシモのときはお前を不安がらせたくなくてつい虚勢を張ってしまったのだが今回は違う。丁度良い……どれだけ力が戻ったか、試させてもらうとしよう」


 言いながら、ほほ笑みが冷たさを帯びはじめる。終いには、ジェズアルドの笑みはどこか不敵で、好戦的なものへと変わっていた。こんな彼は初めて見る。


「魔王様! 私を使者にお命じ下さい。いかなる理由で父がガズルラーヴ城を攻めるのか、問いただしてまいります。何より、娘である私が行けばいきなり殺されるという事態も避けられましょう」


 アレグラが胸に手を当て、ジェズアルドに懇願するように言う。


「アレグラを連れて行くなら、俺も連れて行ってください!」


 アントニオが追従するように言った。すると、側近の魔物たちが彼らに賛同するように声を上げ始める。反対するものはおらず、中でももっとも体が大きく、全身が鋼のような筋肉で覆われた一つ目の魔物、名前は確かサイクロプスだったろうか、が告げる。


「魔王様、わしらは彼女の考えを支持いたしますぞ」


 側近の皆さんが一斉にうなずく。ジェズアルドの側近たちは、やはり見た目にも強そうな者が多く、それだけでかなりの迫力だった。


 彼らの視線を一斉に受けたジェズアルドは、不敵に笑んだまま静かに答えた。


「いや、使者を出す必要はない。余と数名の者だけで片がつくからな。もちろん、アレグラとアントニオにはついてきてもらう必要はあるが」


 そう答えると、側近たちは不満の声をあげる。その様子と唸るような声はかなり怖い。


「それでは魔王様があまりに危険でございます。奴らの迎撃はわしらが致しますゆえ、魔王様は後方にて指揮をお取り下さい」


 サイクロプスが重々しく言った声に、賛同の声が重なる。


 だが、ジェズアルドはすぐさま首を左右に振った。


「いや、今回は余が直々に出向いて片をつける必要があるのだ」


「なぜです……、我々の力を信じられないというのですか?」


 アントニオが困惑したように問いを投げかけた。その内容に、側近たちがざわつき始める。ジェズアルドに注がれる視線に、微かな不信が混ざったことに私は気づいた。けれど、ジェズアルドの表情に変わりがないので、ひたすら様子を見守る。


 彼はやや間をおいてから、言った。



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