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雨花の花嫁  作者: 蜃
第八話
46/64

【46 罠の準備?】

 持ち帰った「プウペパプペ」を手に、私とガーグとマッシモは、真っ直ぐに厨房へと向かった。厨房は、ガズルラーヴ城の南棟の一階部分にある、かなり広い場所だ。中は思いのほか近代的なキッチンになっていて、まるでどこかのホテルの厨房みたいだった。


 そろそろ晩餐の準備がはじまっているかな、と思いつつ向かうと、やはり厨房は忙しそうだった。専属の料理人たちが、それぞれ食性の異なる魔物たちに向けて、色々な食材を調理している。ここは本来ならば、妃候補とはいえ、部外者の私が入って良い場所ではないのだが、ジェズアルドが許可を出し、料理長の言う通りにすることを条件に使わせてもらっている。


「ちょっと、今は使わせてもらえなさそうね、どうしようかな。もう少し待とうか……でも、夕食の時間帯を逃したくはないんだよね」


 厨房の外から様子を見て、私はぼやいた。魔王だってお腹は空く。おびき出すには、空腹であればあるほど成功しやすいはず。食事を終えてしまってからでは、効果が薄くなるかも、と私は考えたのだが。さすがに今は絶対に無理そうだ。


 私は改めて厨房内に目を向けた。


 ケンタウロスのアントニオさんの目が血走っている。その上、彼の形相は凄まじく、今にも爆発しそうになっており、他の料理人たちを大声で怒鳴りつけている。その声をきいていると、どうやら、ちょっとしたトラブルがあったらしい。それが何なのかはわからないけれど、とにかく、今は邪魔できない。


「じゃあ別の場所で調理すりゃあいいじゃん。外で焼いたって肉は肉だろう?」


 マッシモがあっけらかんと言った。私はそれを聞いて、ああ、そうかと思った。つまり、バーベキューにすればいい訳だ。そう思った後で、私は嘆息する。バーベキューってどうやるんだっけ。何か、それなりの、焼くためのコンロとかそういうのが必要になるんじゃないだろうか?


「そうだけど、どうやって焼くの? たき火で焼くの? ここにそれ用のコンロとか焼き網とか炭なんてあるの? 他にも色々必要になるんじゃない?」


 大量のハテナマークとともに言うと、丁度マーラが通りがかった。どうやら、他の魔物たちのところに料理を運んでいるようだ。彼女は厨房の前の廊下でたむろしている私たちに気づくと声を掛けてきた。


「あら、お妃さま、お帰りなさいませ! ご無事に帰ってきて下さったのですね。良かったですわ。……それで、そこで何をしていらっしゃるのですか?」


 マーラはふしぎそうに訊ねてきた。私はガーグやマッシモと目を交わしてから、言う。


「うん、ちょっと……無事に「プウペパプペ」が手に入ったから、早速厨房をちょっと使わせてもらって焼こうかな、と思ったんだけど、今、すごく忙しそうで。それで、外で焼こうかなと思ったんだけど、お城にそれ用のコンロなんてないでしょうと」


「ありますよ」


「……だよね、ってあるの! 何に使うの?」


 マーラがあっさりと告げた言葉に、私はびっくりした。何でここは何でもあるんだろう。いつも何か探していると、大抵のものは「ある」と言われるのだが、よもやそんなモノまであろうとは。私の驚いた顔を見て苦笑しつつ、マーラは穏やかに答えてくれた。


「魔物たちが肉を焼いてパーティしたりするんですよ。わたくしも仲間とやったことがありますよ。いつもの物置に行けばあります。お持ちしましょうか?」


「いいの、あ、どこでならやっていいのかな? だめな場所とかあるよね?」


 火を使う訳だから、もしかしたら、と思って私は問う。


「ええ、でも城の南にあるお庭でしたら大丈夫ですよ。ガーグ、わたくしが用意している間に、お妃さまを南のお庭にお連れしておいて。あと、マッシモ様にはお手伝いいただけると助かるのですが?」


「仕方ねぇなあ、でも俺は野菜しか食わないし、水紀、調理場から使っていいってやつ貰ってきておいてくれよ。んじゃ、さっさと行って、魔王の馬鹿をおびき寄せることにするか」


 そう言うと、マーラとマッシモは移動魔法陣を出してその中に消えていった。残った私とガーグは、調理場に目を向けて、やや暇そうな料理人のひとりに声を掛けて、食材を貰うと、南の庭に向かった。



 ◇



「ここッスよ、今は結構花が咲いてて、見ごろッス」


「へ、へぇ~」


 ガーグに連れられて訪れた庭は、正直言ってどこの密林だろうかと思わせるような場所だった。手入れはされているらしく、整然として綺麗で、足もとの芝生には枯れ葉一枚落ちていないが、問題なのは植えられた植物たちの方である。


 ここに来るのは初めてなのだが、私は油断していた自分にげんなりした。


 ――そうでしたここ魔界でした……。


 城の目玉や、緑色の鬼火、生肉みたいな手すりには慣れたし、部屋に戻れば落ちつくことが出来る。それに、今日訪れたプペパポンペは、不気味ではあったものの、もともとが人間の世界にあった物だけあって、毒々しさとは無縁だった。


「うん、まあ、何というか、面白そうな植物ばかりだね」


 私はあたりさわりのないことを言って、芝生の広がる場所にすでにコンロやテーブルを用意しているマーラとマッシモ、周囲を跳びはねているクロスケと仲間の黒毬たちの側へ歩み寄る。周辺には緑色や橙色の鬼火が漂っている。夜ともなれば、魔界もかなり暗くなるが、鬼火たちのおかげでよく見えるのだ。


 コンロにはすでに炭らしきものが燃えて、もう焼き始められそうだった。


「お、やっと来たか」


 マッシモが腕まくりして肉を捌いている。「プウペパプペ」はまだ動いている。

 私はその光景から目を反らして、テーブルに野菜を置くと、いくつか取り出した。すでに洗浄してあるので、後は切るだけだ。ちゃんと、私も食べられるものを選んできた。野菜だけでなく、肉や、ナンのような平べったいパンも貰って来た。私は野菜を一口大に切っていく。マーラは肉とともにそれを串に刺して、準備を整えた。

 ガーグは皿を並べたり、飲みものの用意をしている。


 ほどなくして、準備は整った。


「さっそく始めますか?」


「うん、始めましょう」


 私が言うと、マーラが網の上にうごめく肉を置いた。しばらくして、南の庭には、香ばしい肉の焼ける匂いが充満し始める。私は、自分のわがままでここまで巻き込んだ皆のためにも、うまくいけばいいなと思いながら、肉が焼けていくのを見守った。



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