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雨花の花嫁  作者: 蜃
第一話
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【4 魔王様とご対面】

 相変わらず薄緑色の中を歩いて、真ん中あたりの塔にさしかかった頃、バルトが振り向いた。


「さあ、あの扉を開ければいよいよ魔王様とご対面ですぞ! 魔王様はとても力のあるお方、くれぐれも粗相などのないようにしてくだされ。もし機嫌をそこねでもしたら、あの方の使う爆炎魔法であとかたもなく焼きつくされてしまいますぞ」


「き、気をつけます」


 彼の言葉に、私は思わず血の気が引いた。気軽に説得だ! なんて思っていたのだが、そんなに怖いんじゃやめといた方がいいような気もする。


 けれど、こんなところで一生暮らすのも嫌だ。しかも、妙に臨場感があるので夢だとも思えない。


 感情が追いつく前に、ことは進んでいく。


「だ、大丈夫っスよ! 魔王様は心が広い方っス、オレみたいなのを使って下さるし、それに、人間の姿をしているときの魔王様はそれはすごい美形なんスよ!」


「そうなんだ、じゃあもとはどういう姿なの?」


「そうっスね……めちゃくちゃデカい頭が三つくらいあるオオカミみたいな感じっスかね?」


「わぁ~、そうなんだ。それは見たくないなあ」


 私はそう言ったが、ガーグは気にせずに手を引っ張る。そのままぐいぐいと階段をのぼりきると、扉がきしみながら開く。うわ、いよいよだ、嫌だなあきっと悪そうな顔してそう。


 勝手に想像した魔王像は、お寺にある仁王様みたいな顔をしていた。私はそんなイメージを抱きつつ、赤い絨毯を辿って、やたらと広い広間のような場所に入っていく。


「ジェズアルド様! お待ちかねの娘御をガーグが連れてまいりましたぞ!」


 のどはちょん切られているのに、どこからそのやたらと大きい声が出てくるのだろう。私は空いている左手で左耳を押さえながらそんなことを考えてしまった。


 広間は、それまで歩いてきた場所とは違い、ちゃんとオレンジ色の炎がたいまつが壁に取り付けられたただっ広い空間だった。まっすぐに視線を移動すると、赤い絨毯が玉座の足もとまで敷きつめられている。床は多分だけど黒い大理石。壁は、灰色の木肌をした細い若木をつめこみましたという感じ。天井はかなり高くて、とがっているのがわかる。


 私は、あちこちを見たあと、おそるおそる玉座を見る。


 最初は、おや? という感じだった。思っていたより、大きくない。もっとこう、歩くときにずしーんずしーんと音を立てそうな人物を想像していたのだ。


「おお、待ちかねたぞ。娘、近くへ来い」


 なぜか魔王様の声は低く、耳触りのよい爽やかなものだった。まだ距離があるので、顔や体格は把握できないけど、私は少なくとも魔王様はすでに人間の姿をしているのだなと思ってややほっとした。


 ガーグの言う、首が三つもある化け物とご対面なんて絶対に避けたい。


「行くッスよ!」

「う、うん」

 

 ガーグに手を引かれ、少し後ろに首なし騎士を連れて、私は行く。


 一歩、足を踏み出すごとに〝魔王〟の姿がくっきりと視界に映る。


 顔は、ものすごい美形。どこかひとを見下したような冷たい表情が良く似合っている。まあ化けてるんだから美形でも驚かないですけど。


 体格は、西洋人ほどムキムキ筋肉でもなく、すらりとしている。日本人をお手本にしたのかな? 肌も、変な青とか赤じゃなくて、ちゃんと白い。まあ、白すぎたらそれはそれで嫌だけど……。


 服は、意外とこざっぱりしていて、現代的。黒いコートに、ズボン、革の靴だ。肩に赤と金の豪華なもようの布をかけているのがああ魔王様だな~という印象。手には、金色の柄をした剣。鞘がいろいろな色に輝いているので、宝石がまぶされているのだろうなあと思う。


 髪の色は黒。王冠とか妙なものはかぶっていない。長さは肩甲骨くらいまである。


 現実にいたら正直微妙だ。役者さんかコスプレイヤーならまあ許容範囲だけど。


 私は顔を引きつらせながら、魔王様の前に立ち、真っ向から向き合う。


 魔王様の、切れ長で鋭い目は赤い色をしていた。


「良く来たな、娘。名前を聞こうか」

「水紀です。工藤水紀……」

「ミズキか、なるほど……お前の能力にぴったりの名前だな」


 魔王様はそう言うと、肩の布をひるがえして立ち上がり、いま私が立っている場所より少なくとも1mくらいは高い、玉座のあるところから階段を下りてきた。


「さて、では早速婚礼の儀をとりおこなうこととしようか」


 その言葉に、私は思わず突っ込みをいれた。



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