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雨花の花嫁  作者: 蜃
第六話
39/64

【39 いざ墓地へ】

「わかった。約束するから、教えて……でも本当じゃなかったら出さないから」


『ああ、信用を勝ち取るためだし、うそは言わないよ。じゃあ、良く聞いてね?』


 小瓶の中で、ロレンツィオが笑みを深くしたように私には思えたけれど、一旦言った言葉はもう取り消せない。私は真剣に彼の言葉に耳を傾けた。


 そして、内容を聞いて微妙な顔になる。なんとなく、うそのようにも思えるし、本当のようにも思える。だが、何と言うか、意外だった。


「試してみてもいいけど、何か、そんな簡単でいいのかな」


『ものごとは結局シンプルが一番効果が高いものさ、さて、僕は眠るよ。成功したら優しく起こしてからここから出して、頬にキスして、ありがとうと言って欲しいな。……じゃ、おやすみ』


 だれがそんなことするか、と怒鳴りかけたが、その前に瓶の光が消え失せた。気のせいか、彼の語尾にハートマークがついたようにも感じるし、絶対にウインクを決めていたといういらない確信がある。


 ――ジェズアルドのときもそうだったけど、そういうこと言うの本当に勘弁して欲しいわ。


 私はぐったりしつつ、先ほどロレンツィオが言ったことを思い返し、うなる。彼が教えてくれたのは、ジェズアルドの大好物だった。ただ、滅多に手に入らないものだとかで、入手するのはそれなりに大変なのだそうだ。それさえ目の前に置けば動かなくなるよ、と楽しげに言ってくれたが、本当なのかはよくわからない。


 それでも、試してはみるつもりだった。


 明日、ガーグと料理長に相談してみようと思っていると、部屋の扉がやたらと激しくノックされた。私が返事をすると、バルトが顔を出す。すると、その後ろから面白がっていることがありありとうかがえるマッシモが顔を出した。


「何か面白いことやってるみたいだから、俺も参加しようと思ってな。女口説くんだったら俺にまかせておけ、いいか、全ては押しだ! 外見を褒めて内面も褒めて、どうでもいいところも褒める。これに尽きるぜ!」


 出てくるなり力説し始めた彼に、私は生ぬるい目線を送ると、そちらは無視してバルトと向き合った。何やらものすごい緊張しているのか、動作がぎこちない。まるで出来そこないのロボットみたいに、ぎしぎしと動くバルトを見て、私は言った。


「あの、緊張しすぎじゃない?」


「し、しかし……また逃げられたらと思うと、我はやはり……」


 声にもいつもの覇気がない。私はどうしたものかと思いつつ、言った。


「とりあえず、私を見て怖がらないかどうかだけ確認してみましょう。私ですら怖がられちゃったら、さすがにお手上げだけど……やってみないことには何も始まらないし」


「そ、そうですな……」


「大丈夫だって、俺もいるし、てか俺の言う通りに口説けばいいんだよ。難しくなんかないって」


 またしても口を挟んできたマッシモを私は睨みつける。


「邪魔するなら帰って欲しいんだけど?」


「邪魔じゃなくて、口説き方について、このデュラハンに教えてやってるだけだぜ?」


「あなたの言う方法は、その顔と声と性格がなければ成功しないものよ。バルトとは全く違うんだから、役に立たないわよ。だから邪魔するなら帰って」


 私はきっぱりはっきり言った。だが、マッシモは全くこたえていない様子で、いけしゃあしゃあと言い放った。


「邪魔なんかしないさ。俺もついていって一部始終を見届けてやる。で、問題点をまとめてやろうと思ってな……それに、美人なんだろ? そのゴースト。どうしても一目見てやりたくてな」


 ――それが本音か……。


 私は思わずじっとりとした目でマッシモを眺め、ため息をついて肩を落とした。仕方がない。どう言ったところでついてきそうだ。


「わかったわ、でも邪魔しないでよ。まずは私が話してみるんだから」


「了解」


 調子のいいセリフに本当に大丈夫かな、と思いつつ、私はバルトに言った。


「じゃあ、行きましょう」



 ◆◆◆



 ゴーストが出没するという場所は、ガズルラーヴ城の西側にある墓地だった。なにやら「う~」だの「あ~」だのとうめき声をあげるゾンビさんたちの居場所でもある。彼らはここで徘徊……じゃなくて、城の警備をしているのだ。目玉が眼窩から飛び出ている彼らにあいさつされつつ、私はさらに進んだ。


 ――うん、悪気はないのよ。わかってる、わかってるけど気持ち悪いよう……。


 ここに来るのは初めてだ。魔界に来た最初の頃は、そもそもジェズアルドが城の外に出してくれなかった。今回も良いとは言われていないけれど、指輪は何にも反応しないのでいいのだと思う。どうやら、ジェズアルドの小さな結界が功を奏しているのか、身につけていてもかぶれない。初めて装飾品をつけることが出来て、私は嬉しかった。


 何やら生ぬるい風が頬をなでる。正直あんまり好きになれそうな場所じゃない。でもここに出るというのだからどうしようもない。私はバルトに案内されつつ、立派な墓石がある場所へと歩いて行った。そちらにはゾンビさんたちはおらず、代わりに結界が張られていた。


 歴代の魔王の墓などもあるとかで、警備は結構厳重だ。なにしろ、魔王ともなれば亡骸ですらとんでもない利用価値があるらしい。あんまりそのことについては考えたくないけど、とにかくかなり強力な結界があり、味方だと判断された者しか入れないような仕組みになっているのだそうだ。


 バルトが道すがらそう説明してくれた。


「ここなのですが」


 彼は立ち止まると、ある墓石を示した。抱えた首が向いた方向に目を向けると、そこには、白い十字架のような墓があった。きれいに掃除がされている。私はしばらく海外に来たような感覚に飲まれた。


 しばらく墓石を見つめていると、その近くがぼんやりと輝きだす。私はバルトを見た。彼はうなずいて、言った。


「……出ますぞ」


 私は思わず固唾を飲んで、様子を見守った。ぼんやりとした白い光は、ゆっくりと人のかたちを成して行き、やがて、ひとりの女性の姿をとって出現した。



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