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雨花の花嫁  作者: 蜃
第四話
24/64

【24 魔王の先妻】

 マッシモの封印から、約一週間が経過しました。


 魔界に来て半月。完全にクビ決定です。とほほ。私はもう魔界で生きてくしかないのかもしれませんね。最近はなんだかちょっとした悟りの心境に到達したような気分で過ごしています。


 そんな訳で、私は半ば諦めのていで、暇つぶしを考えるのに苦労していた。何より、いい加減店やものは飽きてきた、というか、このままでは体重が恐ろしいことになると気づいたので、魔王に訊ねて、料理をしてみることにしたのだ。


 もちろん、専属料理人がいるので、別に自分で作る必要はない。けれど、ただじっとしていると、色々とつらいのだ。じっとしていると、余計なことも思いだす。そう、私はまだ失恋から立ち直ってはいなかった。なので、バルトに聞いて、魔界植物辞典なるものを借りて、とりあえず勉強してみることにした。


 さらに意外なことに、人間でも食べられる食材について調べていたら、ガーグが詳しいことを教えてくれた。


「これと、これは毒っス。人間界でも毒扱いされてるはずっスよ」


「へぇ~、詳しいんだね」


「オレの魔法の師匠が人間と多く関わる魔物なんスよ。これはその師匠に教わったんス。役に立つかどうかわからん知識でも、もしかしたら役立つかもしれないからとりあえず詰め込めるだけ詰め込んどけ! っていう指導方針だったッスから」


 ガーグはちょっと懐かしそうに言う。私は、師匠なんているんだ、と内心思った。


 それに、対マッシモのとき、ガーグが使った魔法は凄まじかった。威力など、詳しいことや細かいことのわからない私には、魔王の雷玉にも引けをとらないように思えるくらいだ。


 見た目は少年に化けているし、話し方からしてまだ若い魔物のようだが、こうして魔王直々に妃の側に置くくらいだから、きっと力の強いなんだろうとは思う。だが、脅威を感じないのでイマイチぴんとこない。けれども、今は目の前の珍しい魔界の植物に興味を引かれていたので、特に強く問うことはしなかった。


「あはは、何かその通りになっちゃってるね。それで、これは……?」


 どう見ても食用じゃなさそうな毒々しい緑色をしたきのこを指で示して問う。


「ああ、これはッスね……」


 ガーグが答えようとしたときだった。突然、何の前触れもなく後ろの扉が開いた。


 私とガーグは振り返り、目を点にした。てっきり魔王かバルトかマッシモかと思ったが、違う。


 私たちは驚いた顔のまま扉の外に立っていた人物をながめた。


 ちなみに、今は私がアレコレと皆に協力してもらいながら頑張って、過ごしやすくしたお妃の部屋にいる。時刻は昼過ぎで、先ほど試しに魔界料理を試してみたところだった。今夜も試してみる予定なので、何なら食べて良いかという話から始まり今に至っている。


 いや、それはまあいいとして、その人は入り口で困惑したように立ちつくすと、早速私を目に止めて言った。


「ねえ、ここってお妃の部屋よね?」


 入口に立っていたのは、美しい人間の女性だった。ただし、人間とは思えない妖艶な美貌を持ちながら、なぜか同時に清楚さを持つ、男性なら放っておかないタイプの女性だ。年齢は、私より少し年上っぽい。体の線がまともに出る、チャイナドレスみたいなまっ黒い服を着て、濃い藍色の瞳でこちらをじっと見つめてくる。


 あれ、男じゃないのに何かどきどきするし。


「はい、まあ。そうですけど……あの、えっと、誰でしょう?」


 私は思わずガーグを見て問う。だが、彼は固い表情で女性を見つめており、返事は返ってこない。


「あなたは使用人じゃないの? それとも新しく入った方かしら、じゃあ最初に自己紹介するわね。私はビビアーナ。魔王の妃なの。ここは私の部屋、何だか様子が変わっちゃってるから、後で好きに改装させてもらおうかしら……とにかくよろしくね」


 女性は言って、ふんわりとほほえんだ。


 えっと、妃? 確か魔王の妃は別れたとか死んだとか聞かされていたけど。私は混乱してガーグを見やる。すると、彼はすっくと立ち上がり、美女の前に立って告げた。


「ビビアーナ様っスか?」


「そうよ。私、ちょっと疲れてるの……やっぱり、故郷へなんて戻るものじゃなかったわ。後でジェズアルドに来るように言っておいてくれないかしら?」


「申し訳ないッスけど、出てって下さいっス」


 きっぱりと告げたガーグを、美女、ビビアーナは驚いたような顔で見る。私はどう介入すればいいのかわからず、とりあえずその場から動かずにじっと聞き耳をたてる。


「魔王様はすでに新しいお妃さまをお迎えになったッス。魔王様はひとりしか妃は持たないと仰っていますし、ビビアーナ様は追い出されたはずッスが?」


「新しい妃? まさか、そこの方のことじゃあ」


 不安げな顔で私を見る。やめてください。別に、好きでここへ来たわけじゃないし、それにまず、私は妃になるとはまだ言ってません。と言いたいが、なんとなく言える空気じゃないので、私は黙秘する。


 彼女は、ぐっと何かを飲み込む様な顔をして、問う。


「ジェズアルドに会うわ。今すぐ、彼はどこ?」


「ここにいる……久しいなビビアーナ、息災で何よりだ」


 入口に手を掛け、どことなく暗い目をした魔王が答えた。



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