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雨花の花嫁  作者: 蜃
第二話
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【11 魔界の賊】

 え、伝説? 

 どこのゲームの話ですかと突っ込みかけ、私は彼らをながめる。言われてみればそんな雰囲気を醸し出していないこともない。


「感謝するよ、そこの娘……褒美に僕の奴隷にしてあげるよ」


「は? 奴隷、そんなの褒美じゃないでしょ?」


 その中でも、まっ黒なマントを着た人の姿をしたものが、ねっとりとした喋りで言う。私は我慢できずに、思わず突っ込んだ。だが、完全に無視される。


 ちょっと、話題にしている人間の声くらいは聞いてよ……。


 うんざりする私は放置して、三体の賊とやらは勝手にもめ始める。


「待て、俺の世話係にするんだ。邪魔すんな」


 黒い牛が言う。


「何だと、あの娘は我がもらいうけるつもりなれば、貴様こそ邪魔をするでない」


 青い蛇をデカくしたような奴が言う。


 これが漫画だったら目からバチバチ火花が散っているところだろう。話題の人物を放置したまま三者は睨みあい、やがて宣言する。


「それでは、こうしようではないか! これより魔界全土に呼びかけをし、中で最も多くの魔物を従えたものがあの娘を貰い受けるのだ」


「ほほう、再戦というわけか。いいぜ、しかしその前に今の魔王を倒さねーとな。忌々しいことに俺らを封じてくれやがった奴だ……そこは共闘といこうぜ」


「僕は賛成だよ」


 何やら勝手に話が進められていく。これだけ色々な物が詰めこまれている物置きなんだから、何か声を張れるものがあるはずだ。私は必死にあちこちを見回し、灰色のメガホンらしきものを見つけると素早く手に取り、口にあてて叫んだ。


「勝手に話を進めるなーーーーーっ!」


 声が物置内に反響して、こだまみたいに返ってくる。さすがの三体もこっちを見た。


「そうですぞ、このお方は魔王様のお妃となられるお方! この命かけてもお主らに渡したりはせぬ!」


 バルトが格好いい啖呵を切る。

 つづいてガーグも叫んだ。


「そうッス! オレは非力ですが、お妃さまは渡さないっス!」


 睨みあう五体の魔物たち。見た目の感じからして、圧倒的にこっちが不利そうだ。というか、城の中でこんなことが起きているのに魔王様は出てこないのだろうかと思っていると、ふいに横で声がした。


「面倒なことをしてくれたな」


 耳のそばでささやかれた声に、思わず私は飛びあがる。私のすぐ隣に魔王様が立っていた。なんて心臓に悪い現れ方をするんだろう。お願いだから二度としないで欲しい。胸に手を当てながら、私はすぐに謝った。


「すみません、すごく綺麗だったので、つい……」


 完全に自分のせいなのはわかっているので、私はうなだれる。


「そうだろうな、バルト……危険なものがあるから気をつけさせろと言ったはずだぞ?」


「は……申し訳ありませぬ。我の注意が足りませなんだ」


 心から悔やむようにバルトが言う。大きな鎧姿が、少し小さく見える。


「失敗は失敗だ……わかっているのであろうな?」


 底冷えのする声に、私は慌てた。自分のどうしようもない失敗のせいなのに、親切にしてくれたバルトがとばっちりを受けるなんておかしい。


「ち、ちょっと待って下さい! バルトはちゃんと危ないって言ってくれました! 私がいけないんです。うかつに触るなって言われていたのに、出来心でつい手にとっちゃったんですから! バルトにひどいことをしないで下さい」


 私は思わず魔王様が肩にかけている布をつかんで言う。

 その言葉に、魔王は目をすがめて鼻を鳴らした。

 どこか不満そうだ。


「お前は余よりバルトが好きなのか?」


「え、何でそんな結論になるんですか?」


「そんなに必死な顔で言うからには、そう思われても仕方あるまい。余の妻となる女が、別の者に好意を持つことは我慢ならないな」


 魔王の冷たいルビーみたいな目がバルトを見やる。私は、とにかく説明することにした。恋愛感情とただの好意をごっちゃにされては困る。


「そんなんじゃありません! 色々と親切にしてもらったし、悪いひとのようにも思えないですし、大体あの変な魔物が出ちゃったのって完全に私のせいじゃないですか。責めるひとを間違えないでくださいとお願いしているだけです、話を変な方向に持っていかないでください!」


 私は必死に言葉をさがして並べる。魔王はしばらく氷のような視線をバルトに注いでいたが、やがてふいっと目をそらすと、つぶやくように言った。


「まあいい、今はそれよりも奴らをどうにかせねばな」


 言って、魔王は空に浮かんでいる三体を冷たい目で見やる。

 私は少しだけほっとして、思う。彼らはいったいどのような魔物なのだろう。見た目は強そうなのだけど、昨日の今日では微妙に実感がわかない。魔法も魔物も、まだまだ私にとっては理解の外の存在だ。


 ふと、ガーグを探してみれば、彼は棚にくっついて怯えたような顔をしている。威勢の良いことを言っていたが、やっぱり怖かったようだ。その気持ちは痛いほどよく分かる。正直、私だって怖いのだ。魔王が怒っただけでも怖いし、私を射るように見てくる空中の三体も怖い。


 私は自分を責めた。

 何でもっとちゃんとバルトの言うことを聞いておかなかったの。 

 私の大馬鹿、超阿呆。


「さて、分かると思うが、お前たちにはふたたび瓶の中へ戻ってもらうぞ」


 張っていないのによく通る声で、魔王様は三体に向けて宣戦布告した。


 

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