宿命
地下レベル3。万博会場の喧騒と怪物の咆哮が、厚いコンクリートの壁に遮られ、重苦しい静寂へと変わる。
栄太は、謎の通信に導かれるまま、自衛隊の管理区域内にある「第7特殊医科学研究所」の重い扉を蹴り開けた。そこは、公式な組織図には存在しないはずの空白地帯だった。
「……何だ、ここは」
無機質な通路。並んでいるのは最新の医療機器ではなく、古代の祭壇を思わせる石造りの台座と、それに接続された無数のバイタルモニターだった。
栄太は端末を操作し、サーバー内に残された極秘ファイルを強制開示させた。画面に浮かび上がったのは、自身の顔写真と、それを見事に裏切る衝撃的な分析データだった。
『――被験体:工藤栄太。実験コード:E-TH01。DNA解析結果:エーテル受容体の特異的発現を確認。適性ランク、SSS』
資料によれば、自衛隊内部で「適性検査」と称し、全隊員のゲノム解析が密かに行われていた。その目的は、エーテルをエネルギーとしてではなく、肉体で受け入れられる「特異体質」の持ち主を選別すること。
「俺のDNAが……エーテルと適合している……?」
栄太の手が震える。彼が戦場で感じていた「ノイズ」や、他の隊員には見えない「エーテルの道」が見える現象。それは後天的なスキルではなく、彼の細胞そのものが、この世界の物理法則を逸脱し始めている証拠だった。
『――他の被験体は細胞崩壊により死亡。工藤二曹のみが、エーテルを取り込んでも精神と肉体を維持できる“唯一の成功例”である。彼はアマルガム中央炉と直接リンクできる唯一の生体インターフェースとなり得る』
「俺は、人間としてスカウトされたんじゃない……。炉の部品として、見つけ出されただけか」
栄太が呆然とモニターを見つめていると、背後の闇から冷徹な軍靴の音が響いた。
「驚くことはない、工藤二曹。君が人知を超えた反応速度で怪物を撃ち抜けるのは、君の遺伝子が、すでにこの世界の理を超え始めているからだ」
現れたのは、財団の制服を纏った九条だった。その隣には、栄太の直属の上官までもが、まるで意志を失った機械のように立っている。
「自衛隊上層部は、エーテル時代における『究極の兵士』を求めていた。それが君だ。君はエーテルを吸着し、制御できる唯一の“避雷針”なんだよ」
「……俺を勝手に決めるな。俺は、自衛官として――」
「自衛官としての最後の任務だ。工藤二曹。地上の人々を救いたければ、君のその適性を使って、暴走する炉を抑え込むしかない」
九条が操作するデバイスから微かな電磁波が放たれた瞬間、栄太の全身の細胞が、まるで火をつけられたように熱を帯びた。
血管を流れる血が青く光り、視界が「あちら側」の風景と重なって明滅する。
「行け、鍵よ。アマルガムがお前を呼んでいる」
栄太は歯を食いしばり、自分の肉体を呪いながらも、最深部へと足を踏み出した。
組織に守られていたはずの自分が、組織によって人間であることを否定される。その深い絶望が、彼を「臨界点」へと駆り立てていた。




