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血赤のディナ  作者: 紫藤てる


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8/8

8.施設

 朝、水汲みを終え、続く朝食と点呼が済むと、管理者の男からアリスがジールとディナたち年少組の世話役を命じられる。

 他のみんなは男に連れられ、家の前の広場へと歩いていく。


「さて、どうしましょうか」

 それを見送り、呟くアリスにすかさずジールが元気よく手を挙げる。


「はいはい!ジール、イー(ねー)みにいきたい!」


「……そうですね、いそいでやることもありませんので、そうしましょう」

「やったー!」


 何やら決まったらしいが、勝手にしてていいのだろうか。確かに昨日みたいに指示らしい指示はないのだが……


「いつもはおうちにいる」

 とディナから補足が入る。


 昨日の枝拾いみたいなのは特殊で、小さい子達に役割はないのか。

 まあ、何ができるとも思えないが……しかしこの子達は一体何が目的で管理されているのだろうか。


「ディナ、何か言いました?」

「あ!きっとまたお化けだよ!」

 俺に対するディナの言葉が拾われる。


 ディナは俺と話す時も声に出して話すが、毎回これでは支障が起きる場面がありそうだ。


「……?うん、マサキがなにするのー?っていってる」

 言ってない。


「マサキ?……これから姉さんたちを見に行きましょう、ディナははじめてでしたか?」

「ばーってひかったり、けんかするやつ?」

「けんかではありませんが……多分それです。では行きましょうか」


 喧嘩はまだわかるが、光る……?うん、一旦保留にしよう。


 三人は連れ立って、広場に近づいていく。

 先に行っていたイェラ達と向かいの家から来たであろう男の獣人五人が中央で整列している。

 獣人達の前には二人の管理者が立ち、何やら説明している。


 広場の外縁で待っていると、向かいの家から外縁に沿って、見知った顔二人がやってくる。ヴァスとウィルだ。


「よお」

「二人もみにきたのね!」

「やあ、きのうほとんど家のことはやってしまったからね……。きみたちも?」

「はい、やることもありませんから、見に来ました」

 そうして、二人増えて五人で並んで地面に座る。


 すると、痩せぎすの男ともう一人がなにやら重そうに木箱を持って中央にやってくる。

 到着すると、イェラ達は男達から何かを渡されていっている。鈍色のあれは……剣か?


 髭の男の号令があり、男女で広場の両端に別れていく。

 それを見てかジールとヴァスが今日はこっちだったとなにやら喜びあっている。


 トーナは男の獣人と共に、管理者達に連れられるように離れていき、髭の男は全体が見渡せる外縁中央のあたりで止まる。


 イェラを先頭に、リヴとラヴの三人がディナ達の座っている端に近づいてくる。

 イェラは右手に剣を、リヴはその長身が隠れるほどの大楯を、ラヴは左右の手にそれぞれ剣を手にしている。


「イー(ねー)!みんながんばれー!」

 ジールの声援にイェラはにこりと笑顔を向け、左手で小さく手を振って応える。


 ――ああ、これはだめだ。

 目の前の光景に言い得ぬ嫌悪感が渦巻く。


 そしてこれまで得た情報が次々と組み上がり、この『施設』の全容をおおよそ理解してしまう。

 ……しかし十歳そこらの少女達が武器を持つ理由は理解できない、したくもない。


 知るたびに悪意が深まっていく――いや、初めから悪意の底なし沼に沈んでいたのだ。

 そんなどうしようもない事実に気づいてしまう。

 そして、行き場のない絶望が焦燥となる。


(くそっ!どうする?どうすればいい!?)

「……!」

 焦れる思考は悪態となり、びくりとディナを驚かせてしまう。


(……すまん、驚かせた、何でもないんだ)

 幼いディナを怯えさせてしまい、急速に頭が冷えていく。……焦っても何の意味もない、考えろ。


 肉体のない自分と幼いディナ、それこそ何ができるとも思えない。

 ――今はまだ、静観するしかない、と結論づける。


 そして少女達と少年達、それぞれが広場の両端に着く。

 リヴとラヴが並び立ち、少し左にずれた後方にイェラ。相手方は四名横並びだ。

 イェラ側は一人足りないが、トーナはどうしたのだろうか。


「トーナは?」

 同じ疑問を持ったディナがアリスに質問する。


「トーナ姉さんですか?……あちらに」


 アリスが指し示した先を見ると、広場の奥、向かいの男の獣人達の家の前、先程一緒にいたもう一人とトーナが、管理者の男に見られながら一緒に剣を振っている。


 トーナはラヴを姉と呼んでいたから年下なのだろうが、年齢によって訓練の内容が違うのだろうか。

 しかし、一緒に剣を振ってる男の獣人は体格がよく、トーナと比べると、縦にも横にも一回り大きく見える。

 トーナと同じくらいの年齢とは考え難いが、リヴとラヴの例から見るに、個人差の範疇なのかもしれない。

 

 そうこう考えていると、視線がイェラ達に戻る。

 イェラは静かに佇み、リヴは緊張しているのか深呼吸を繰り返している。

 ラヴは両手の剣を腰の後ろに交差するよう下げた鞘に仕舞うと、体の調子を確かめるように軽く跳ねたり、屈伸したりと余裕そうだ。


 まもなく角笛の音が響き渡る。髭の男からの始まりの合図か。


「がんばれー!」「いけー!」

 ジールとヴァスがはしゃいで叫ぶ。


 この子たちにとってはこれも遊びの一環なんだろう。

 その声援を背にラヴが小さい体をさらに低く、極端な前傾姿勢で真っ先に飛び出す。凄い速度だ。

 リヴは大楯を横に構えると慌ててラヴを追う。



 イェラはその場で半身で左手を前に構えると、やがて、耳鳴りのような微かな高周波音が響く。


 目には見えない重さが、イェラの周囲の空気を変えていく。……なんだ?俺の常識では測れない何かが起きようとしている。

 

 そして、ざわり、とイェラの長い髪が持ち上がるように広がる。続いて、突き出された左手が発光。


 空気そのものが振動し、擦れるような音を残し、

 眩い緑の光が放たれる――!



 ――"魔法"。


 目の前の光景にそんな言葉が浮かぶ。創作物だったそれが、安っぽい手品なんかではなく、本物の厚みを持って目の前の現実として展開されている。


 この世界(ここ)(ことわり)から異なる『異世界』なのだと、衝撃を伴って強引に認識が改まる。


 放たれた緑光は八条に分かれると、絡まり、離れ、角度を変えては交差、それぞれが複雑な軌道を描きながら反対端の四人へと迫る。


「……いつもだけど、すごいね」

 ウィルが呆気に取られながら賞賛する。


「でしょー!イー(ねー)はすごいんだから!」


 八条の緑光は四人の正面、背後、横とそれぞれ方向を変え、轟音と土煙を上げて着弾する。


「ははっ、でも……」

 そうウィルが不敵に笑うと、


「ぼくたちだってまけないよ」


 土煙を切り裂き、三条の緑光が姿勢を低くして走るラヴに迫る。

 その軌道を見てとると、すぐさまラヴは転がるように両腕を地面に、そのまま腕の反動で逆さまに跳躍。


「ほっ!」

 背面跳びの要領で緑光をすれすれで跳び越え、着地。勢いを殺さず、前に一転。


「わはは、それじゃー当たらないなー」

 速度を落とさず走り出す。


「うおー!すっげー!」

 ヴァスが黄色の瞳を輝かせて叫ぶ。


 躱わされた緑光のうち、一条は地面に衝突、残りはリヴに向かうが、それも大楯によって阻まれ消える。

 直後、土煙から飛び出した四人、一人は大きく向かって左に迂回、三人はラヴに向かっていく。


 お互いに遠距離での応酬が終わり、それぞれの得物がぎらりと光った気がした。


 ――ここからが本番の幕開けのようだった。

次回 3/24 20時更新

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