7.名前
ゴーン、と街の方角から重い鐘の音が響く。
ちょうど最後の枝束をまとめ終えたところで、痩せぎすの男がふらりと立ち上がり、調子外れの号令で作業の終了を告げる。
舌打ちと怒声に急かされながら、イェラによって手際よく並ばされ、それぞれに枝を一束ずつ渡されると、背中に背負っていく。
その後は朝の逆回しで、左手に縄を結ばれ、一列となって、森の入口へと戻っていく。
そこで朝に会った緑の外套の男に簡単に改められると、森を後にした。
帰り道のディナに周りを見る余裕はなく、枝の重さと疲れを感じながら下を向いて黙々と歩いていく。
そうして、しばらく歩いて、ようやく朝に出発した門の前まで辿り着く。
すぐに門横の監視塔から男が降りてきて、開門する。
門を潜った瞬間、ディナの身体からふっと力が抜けた。見慣れた景色に安心したのか眠気が一気に押し寄せる。
頭を左右に揺らしながら家に向かう。
(もう少しだ……頑張れ……)
返答はない、限界が近いのだろう。
ディナの肉体に同居しているせいか、俺の意識まで薄れていく。
視界はさらに揺れ、明滅する意識で必死に歩く。
地面、縄をはずされるひだり手、家のとびら……映ぞうが、飛び……とびになっ、て、そして、――
暗く、うっすらと赤い霧の中を歩いている。
先頭には灯り、それに続いてぞろぞろと同じくらいの子ども達が歩いている。
――ダリトゥイヌナ
誰かが呼ばれて、前の方の子が引き返していく。
頭を抱えていて顔は見えない。どうしたんだろう?
赤色が濃くなるにつれ、ひとり、またひとりと呼ばれ、足音が減っていく。
――ディナザリスクス
呼ばれたかと思ったけれど、違った。隣の子が引き返していく。
しばらく歩いて、ついに周りに子どもはいなくなる。
少しさみしく思うけれど、不思議と誰かに守られてるような感じがして、心細くない。
――こんなところまでこられるとは、■■め
灯りを持った大人がびっくりした顔を向けてくる。
最後はなんて言ったんだろう?よくわからない。
ちゃんと聞こうと顔を見ると、暑くもないのにとっても汗をかいてる。
心配になって、声をかけようと思ったけれど声が出せない。その人はしゃがむと首のあたりを見てくる。
――ディナイナフィエル
ついに呼ばれた。みんなみたいに戻ればいいのかな。どこに?……そういえば、ここはどこだろう、俺は確か枝を運んでたような……
「あー!またまけたー!」
「わはは。ジール、よわよわ」
騒がしい声にぼんやりと意識が浮上してくる。
「あら、目が覚めた?」
見上げるかたちでイェラの笑顔がすぐ近くにある。
長い髪がさらりと落ち、ちらりと首筋に痣が覗く。
後頭部に柔らかな感触、ディナはその心地よさに身を委ねると、再び目を――
(まてまて!せめて膝から離れてくれ)
イェラに膝枕をされて眠っていたようだ。気恥しく思い、そう提案する。
「むー……」
ぶすくれながらディナはしぶしぶ身体を起こす。すると右手に何かがこつんとぶつかる。
「ごめんなさい、ディナ。ぶつけてしまいました」
アリスがやってきて謝罪する。
「みんなで石をはじいてあそんでいたんです」
ディナは右手に当たった白い石を摘みあげる。
炉の火に照らされ、半透明なのがわかる。
「これ、なに?」
「まえに外でひろったんだ」
ディナが尋ねるとトーナが答える。
「きれいだろ?いろんな色があるから、あそんだり、ニンバルをおしえたりするのに使ってんだよ」
トーナが色とりどりの半透明の石を見せてくる。
それよりも、名前を教えるってなんだ?……何か大きな思い違いをしている気がする。
「ながいおなまえ……?」
「あー……ディナにはまだおしえてなかったっけ?」
「はいはいっ!ジールがおしえる!」
トーナの顔を押し除けるようにその肩口からジールが顔を出す。
「おー?よわよわジールにできるかー?」
リヴに抱えられ、ラヴもやってくる。
「むきーっ!できるもん!」
「ラヴ、……めっ」
リヴに怒られ、わははと反省してなさそうに笑うラヴ。
「ふふっ」
思わずといった様子で笑うイェラに憤慨するジール。
「もー!イー姉まで!」
「ごめんなさい、おかしくって……それじゃあジール、ディナに教えてくれる?」
「もー……ディナ!よくきいててね!えーと、なにもないのがザリでしょー……」
そして、一個ずつ石を並べながら数えるジール。
「イナ、トゥイ、スラァ……」
そして四つめの石を置く。
「フィエル!ジールね、4がいちばんすき!ジールと、イー姉と、ディナとー、あ……あと、ウ、ウィルにも入ってるからっ!」
「ふふっ、そうね」
「フヴァ、スクス、サヴァン、オート、ヌナ……タン!やった!いえた!」
「やっぱりジールはよわよわ、ラヴはもっとできる……11、12……」
「むきー!!」
数字、首の痣、……夢。巻き戻るように思い出され、全てが繋がっていく。
外からカン、カン、と鐘の音が聞こえる。
「さあ、行きましょう」
「ディナ!ディナイナフィエルだから!ね!」
言うと、ディナの手を引っ張りながら外に出るジール。
日が落ち、暗い中、朝の管理者の男がやってくる。
「番号ッ!」
「M-431」
普段通りの笑顔で答えるイェラ。
「R-157……」
節目がちに答えるリヴ。
「……R-713」
くだらなそうに無表情で答えるラヴ。
「T-891!」
威勢よく答えるトーナ。
「V-038」
淡々と答えるアリス。
「じ、ず、ズ、……Z-410っ!」
緊張に震えた声で答えるジール。
これは、名前なんかじゃない。
「D-114」
――管理番号だ。
次回 3/17 20時更新
〈おまけ〉※本編とは直接関係ありません
アリス達が遊んでいた石弾きが後世にルール化され、
一世を風靡したとかしてないとか……
これはその紹介ページの記述である。
二人専用のエリアマジョリティ×アクションゲーム!
『バオストール』
バオストを戦わせ、ラディグの支配権を勝ち取り、
戦争に勝利せよ!
プレイ時間15分〜30分
〈ゲーム概要〉
バオスト(石)を3つのラディグ(円)の中に投げ合い、円の中の石の数が多いプレイヤーが円の支配権を所有し、相手のプレイヤーより円の支配権が多いプレイヤーが勝利します。
〈プレイ方法〉
1.手番
最も最近でふわふわの毛を撫でたプレイヤーがスタートプレイヤーとなります。
2.ラディグの準備
地面に円を3つ書きます。
この際、重ならなければ円を書く場所や大きさはバラバラで構いません。
また、線で閉じていれば形が円でなくとも構いません。
※円の最小サイズは直径が拳2個分です。
3.バオストの準備
プレイヤーは石をそれぞれ、スタートプレイヤーは19個、次の手番のプレイヤーは18個用意します。
石は大小様々で構いませんが、石の最小の大きさは指の関節一個分、最大の大きさは拳一個分です。
※いずれも大体で構いません。どの石がどのプレイヤーのものなのか、色や印でわかるようにしましょう。また、石は公開情報です。相手に見える位置に並べて置きましょう。
4.ゲームの開始
スタートプレイヤーがどれかの円に選んだ石を1つ好きな位置で配置し、ゲーム開始です。
スタートプレイヤーから、手持ちの石を1つ選び、3つの円のどれかにその石を指で弾くか、転がすか、投げます。
この際、手がどの円にもかかってはいけません。
また、円の上から落としたり、円の中に直接置いてもいけません。
これを次の手番プレイヤーと交互に行い、どちらのプレイヤーも手持ちの石が無くなった時点でゲームは終了します。
※他の石にぶつけても構いません。最終的に円の中の石の数が勝敗を分けるので有利になるように積極的にぶつけましょう。
5.ゲームの終了
ゲーム終了後、それぞれの円の中の石を数え、円の中のプレイヤーの石の数が多いプレイヤーが、その円の支配権を獲得します。
同数の場合はどちらのプレイヤーも支配権を獲得しません。
※真上から見て円の線に石がかかっていればその円の中にあるとして数えます。
複数の円にかかった場合はその石の所有プレイヤーがどの円で数えるか選択します。
3つの円の集計を終え、最も支配権を獲得したプレイヤーがゲームに勝利します。
※同数の場合は引き分けです。お互いの健闘を讃え、撤退しましょう。
〈勝利へのアドバイス〉
・戦場を見よう!
円の大きさや形、円内の石の配置、相手の石の構成や残りの石……様々な要素で戦略が変わるぞ!
よく見て石の編成と投入のタイミングや仕方を考えよう!
・大きい石の使い所を考えよう!
大きい石は重いので動きにくく、一度円に置けたら有利になるぞ!投げて相手の石を弾くのにも便利だ!
でも、大きくても数としては1個であることは忘れないようにしよう!円の大きさにも注意だ!スペースをとるから他の石があまり置けなくなるぞ!
•小さい石は小さくても勝敗を左右する!?
小さいから円の中にいっぱい置けるぞ!
相手の大きい石の影に配置して逆に利用したり、使い方次第で大きく化けるぞ!
でも気をつけるんだ!軽いから狙われたらすぐに吹き飛んでしまうぞ!
勝負は戦う前からすでに始まっている……
戦場を見極め、編成するのだ!
偶然拾ったちっぽけな石が、戦況を左右するかもしれない――
さあ、君も石を集めて、戦争に勝利しよう!




