第26話 お休みはもう終わり
軽トラックをレンタカーで借りて、
荷台に座ったマサヤが歌う。
歌に反応した『彼女』のエネルギーをゼータが探知して、
その方角へトラックを走らせる。
「これ、見つかったら警察に怒られるよな。
でも、急いだ方がいい気がする」
俺のこういう勘は当たる。
法定速度は守りつつ、
先を急ぐ。
道行く人がマサヤの声を聞いて立ち止まる。
心なしか喧騒が穏やかに聞こえる。
運転の荒い車がいたが、
歌を聞いたせいか丁寧な運転に変わる。
イライラしていると公言するような態度の男性も、
穏やかな顔になって歩き出す。
「これ、本当に争い止まりそうだな」
俺は運転しつつボヤいた。
マサヤはまっすぐに愛を歌う。
恥ずかしげもなく、隠そうともせず。
まっすぐに、愚かな程まっすぐに愛を歌う。
「凄いよ。
あの人たちはエネルギー体だから、
色々むき出しで比較的歌声や外的要因に共鳴しやすいんだ。
でも、この世界の人は違う。
ソリッドな身体を持っている。
いわば外的要因を遮る壁だ。
歌うマサヤ君自身もそうだよ。
だけど、彼は歌声で共鳴させている。
言葉にするなら、彼は魂から歌ってるんだ。
『彼女』への愛を」
ゼータは唸る。
「しかも、彼は届け、と思って歌っている。
心底『彼女』へこの歌よ届け、と。
それが、距離もなにもかも、
全部無視して『彼女』へ歌を届けてる。
凄まじいよ。
事象の改編じゃない。
事象の透過だ。
これなら異なる次元にいたって、彼の声が届く。
どこの次元でも、そんな現象聞いたことがない」
マサヤの凄さが俺にも分かる。
彼は凄いが、同時にこの世界では異質。
何故だ?
「『穴』の影響かな?
私にも分からないな。
とにかく、今は『彼女』を見つけよう。
そっちだ。
熱海駅の方」
俺はゼータのナビゲートに従ってハンドルを切る。
トラックは桃山町の山の方へ向かう。
美術館付近でパトカーがたくさん止まっていた。
警官に早速止められたので、
注意されるのかと思ったが。
「ヒロセさん!
ちょっと来てください!」
知り合いの警官に助けを求められた。
「異世界人です!
異世界人ですよ!
この近くで異世界人が現れて大変なんです!」
「待って待って待って。
待ってください。
何っ回も言いますけど、
私は特捜隊クビになってるんですよ。
ちゃんと防衛軍に連絡をしてください」
「しました!
でも、運悪く今別のところで異世界人の隠れ家を発見してて。
特捜隊員全員がそっちに出払ってしまった後で」
何と間の悪い。
俺は思わず頭を抱える。
「皆、ヒロセさんがもう防衛軍じゃないことは承知してますけど、
今どうにかしないと!」
彼だけでなく、
周囲の警官たちも不安げに俺を見つめる。
この先にマサヤの言う『彼女』もいそうだし。
人手はあって損はない。
俺はため息をついてトラックを止めて降りた。
「分かりました!
とりあえず、
伊豆の方で私と何度か一緒やらせていただいた、
機動隊のフルタさん探してください。
フルタさんは、
この地区の機動隊の中でも異世界人の件をたくさん扱われてます。
彼を中心に用意を進めてください」
俺は特捜隊の頃の経験と知識で簡易の指示を出す。
警官たちは俺の指示通りてきぱき動き出した。
「あの、荷台で歌ってる人は?」
「協力者です。
多分、彼の歌が必要になります」
俺はマサヤに声をかけて、
軽トラの荷台から降りてもらった。
そして、俺は警官の中でも現場指揮をしてそうな人を見つけて声をかけた。
「それで、
異世界人について、
私にも聞かせてもらえますか?」
「もちろんです。
ヒロセさんは一班市民になられたのに、
無理を言って申し訳ない」
「構いません。
今の私にもできることはやりたいと思いますし。
とにかく、情報をください。
現状もお願いいたします」
俺はゼータを肩に乗せて、
警官の話を聞く。
「一時間くらい前に、
この辺のからブザーのような爆音が周囲に響きました。
それと共に、人とは思えない見た目のモノが目撃されて。
通報が殺到しました」
俺たちが緑ガ丘にいた頃か。
さすがに遠くて、
そのブザーのような音は聞こえてない。
「警官が到着したときに、
異世界人と見られる集団に攻撃されました。
運良く怪我人はありませんでしたが、
パトカーが一台大破。
今は応援を呼んで周囲を包囲してるところです。」
俺は軽く身体を振る。
関節の具合はいい。
ジムに通ってるお陰で身体はいつも通りだ。
「今、その現場は?」
「異世界人が隠れ家と見られる人家に入って、
そこから出てきてません。
攻撃されたこともあって、
距離をとって包囲してる状態です」
マサヤを見る。
そして、ゼータを見る。
「その人家はあっちの方ですか?」
俺はゼータが指差した方を指差して警官に確認した。
「えぇ。
その先にある普通の家です」
俺はマサヤと一緒にその家に近づくことにした。




