第九話:刺メイス誕生なの〜!
夜明け前。
ギルドの裏手、小さな工房からは、もうすでに鉄を打つ乾いた音が響いていた。
まだ空には薄い青が広がるだけで、誰もが眠りから覚めるには早すぎる時間だ。
その工房へ向かう影が二つ。
ひとつは金髪の優雅な女性ーーシエラ。
もうひとつは、眠気を抱えたままテンションだけで動いている桃髪の少女ーーステファニー。
「お姉さん、ねむいの〜……。なんで朝からなの〜……」
「鍛冶屋は、いい仕事をするほど朝が早い。文句を言うな」
ステファニーは、むにゃむにゃと口を動かしながら、それでもしっかりシエラの後をついていく。
そして工房の前に立つと、シエラは遠慮も何もなく扉を拳で叩いた。
ガンッ! と金属でも殴ったのかというほどの音が響く。
中から、怒り交じりの野太い声が返ってきた。
「どこの馬鹿野郎だ、朝っぱらから……お、シエラか。珍しい時間に来やがって」
扉が開くと、煤だらけの顔に分厚い胸板、太い腕。
典型的な職人の親父が現れる。
そしてステファニーを見るなり眉を吊り上げた。
「そっちの小娘……昨日ギルドで騒ぎになってた特級回復士だな?」
ステファニーは胸を張る。
「はいなの〜! 特級回復士ステファニーなの〜!」
「元気はいいが声がデカい!」
「えぇ〜……」
シエラは軽く咳払いをして、親父へ切り出した。
「今日は頼みがある。こいつに、前衛で殴らせるための特注武器を作ってほしい」
「は?」
親父は目を剥いた。
「回復士だろうが!? 回復士に殴らせる武器ってなんだ、シエラ!」
「必要だからだ」
淡々と答えるシエラ。
この人は本当に容赦がない。
ステファニーは勢いよく手を挙げた。
「あのね〜! わたし、回復しながら殴りたいの〜!」
「お前が一番狂ってるぞ!」
親父が叫んだ。
「あのなあ、回復士は後ろで癒やしてりゃいいんだ! なんで前に出る必要がある!」
「前に出たいからなの〜!」
「理由になってねぇ!」
シエラがその間に割って入った。
「こいつは、とにかく前に出たがる。だが回復能力は最高峰だ。だから、回復を阻害しない“媒体宝玉”は露出させたまま、なおかつ前衛武器として成立する構造が必要だ」
親父はあごを撫でる。
「媒体宝玉を露出させる……か。おい小娘、宝玉はどの部分に付いてるんだ?」
ステファニーは自分のロッドを抱え、先端を指差した。
「ここなの〜! この宝玉から回復するの〜! だから、ちゃんと見えるようにしてほしいの〜!」
「ふむ……つまり宝玉は隠すな、と。だが前衛武器なら強度も必要だ。宝玉の周囲だけ鋼鉄で守る構造……できなくはないが、扱いが難しいぞ」
シエラが続ける。
「それと、こいつは剣技はゼロ。とにかく“シンプルにとどめを刺せる”機能が必要だ」
ステファニーはパッと顔を輝かせた。
「そうだ! 刺したいの〜! 先っちょをツンッ! って刺すやつなの〜!」
「言い方ァ!」
親父は額を押さえつつも、どこか楽しげな笑みを浮かべた。
「ほう……回復の媒体としての宝玉を核に、周囲を鋼鉄で固めて、さらに先端に刺突……」
そして大きく笑った。
「面白ぇ! ロッドとメイスとスパイクの融合だ! よし、任せろ! 最高の“刺メイス”を作ってやる!」
「刺メイスって名前でいいの〜!?」
「よくねぇけど一番分かりやすい!」
こうして、仕事は始まった。
それから数日後。
再び工房を訪れた二人の前に、親父はどっしりとした金属の塊――いや、武器を持って現れた。
「できたぞ。お前用の“刺メイス”だ」
ステファニーは受け取ると、思わず両手でよろけた。
「お、おもいの〜……! でもピッカピカなの〜!」
武器は重厚な鋼鉄に覆われつつ、先端には鋭いスパイク。
そして装甲の隙間からは、光の粒子を宿した宝玉が絶妙に露出している。
親父は胸を張る。
「回復能力を阻害しないギリギリの露出だ。殴り、刺し、それでいて回復もできる。お前以外に使い道はねぇが、世界に一つだけの武器だ」
ステファニーはその場で飛び跳ねる勢いで抱きしめた。
「わぁ〜〜〜! すごいの〜! わたし、これで刺せるの〜! 殴れるの〜! 回復もできるの〜! ありがとう、お姉さん! 親父さんもありがとうなの〜!」
親父は少し照れたように鼻を鳴らした。
「大事に使えよ、小娘」
シエラは腕を組んで微笑む。
「これで道具は揃った。あとは立ち回りの練習だ。覚悟しておけ」
ステファニーは満面の笑みで答えた。
「はいなの〜! がんばるの〜!」
こうしてーー
ステファニーは、回復を阻害せず攻撃できる唯一無二の武器、
“刺メイス”を手に入れたのだった。




