第七話:癒し特級の実力、ギルドを震わせるの〜
討伐任務を終え、夕暮れの街道をシエラとステファニーが並んで歩いていた。茜色の光が二人の影を長く伸ばしている。
「今日もいっぱい回復したの〜! ほらほら、お姉さん見て〜! わたし、すっごく成長してるの〜!」
ステファニーは尻尾でも生えていそうな勢いでぴょんぴょん跳ねている。
シエラは重い溜息をついた。
「……いや、成長も何もお前は最初から完成してんだろ。回復士としてはよ」
「前衛として成長したいの〜!」
「お前の成長方向は毎度毎度ひん曲がってんだよ!」
そんな漫才のようなやり取りをしながらギルドの扉を開くと――
中は、ただならぬ空気に包まれていた。
怒号。血の匂い。足音。焦り。
冒険者が一人、仲間に担がれ治療室へ運ばれていくところだった。
「誰か回復士は!? こいつ深層で魔物にやられたんだ!」
「応急処置じゃ持ちません! 出血がひどい……!」
職員の声も悲鳴に近い。
ステファニーはロッドを抱え――きゅっと目を細めた。
「大変なの〜……!」
「深層帰りか。そりゃ無事じゃ済まねぇな」
見た瞬間、ステファニーは迷わず駆け出していた。
「わたしが治すの〜!!」
ギルド職員Aは目を丸くする。
「ス、ステファニー様!? ですがこれは……上級でも時間が……!」
そこへ、シエラがずい、と前に出た。
「ステファニーにやらせろ。今治せるのはコイツだけだ」
その声音に、職員は一瞬だけ迷ったが――やがて覚悟を決めた。
「……お願いします!」
シエラが顎で合図する。
「行け」
「任せてなの〜!」
治療室の空気は、重かった。
血の海。浅い呼吸。虚ろな眼。
誰が見ても“手遅れ寸前”だ。
ステファニーはそっと膝をつき、ロッドを傷口へかざす。
(……救うの〜)
静かに、深く息を吸う。
「いくの〜……上級──《聖癒》なの〜!!」
その瞬間。
眩い光が、爆発した。
治療室が昼になるほどの神聖な輝き。
空気が震え、床が光に染まり、冒険者たちは目を覆った。
「な……なんだこの魔力……!?」
上級回復士ですら震えるほどの光量。
そして光は、傷に触れた瞬間――まるで巻き戻しだ。
裂けた皮膚は滑らかに。
ちぎれた筋肉が再生し。
血が逆流するように止まっていく。
十秒。
たったそれだけで、重傷者はゆっくりと上体を起こした。
「え……? 俺……生きてる……?」
シエラが腕を組み、ぽんと答える。
「運が良かったな。特級の“直治し”だ」
治療室が静寂に包まれ――
次の瞬間、一気に爆発した。
「な、なんだ今の!? 一瞬で治ったぞ!!」
「ありえねぇ! 致命傷だぞ!? なんで全快してんだよ!」
「ステファニー様……これが、特級の……!」
「神の領域……いや、人間なのか本当に……!」
冒険者も職員も大騒ぎだ。
そんな中心で、ステファニーは満面の笑みで立ち上がった。
「これくらい普通なの〜! わたし、もっとすごいこともできるの〜!」
「もっと!?」
彼女は誇らしげにロッドを掲げる。
「わたしね〜……前衛がやりたいの〜!!!」
ギルド全体
「………………はい???????????」
上級回復士Eは青ざめた。
「人類の宝を……前に出す……? 正気か……!」
職員Aは頭を抱えた。
「まただ……この天才は……問題児でもあるんだった……!」
ステファニーは頬を膨らませる。
「わたし、殴りたいの〜!」
「お前なぁぁぁ!! 今命救った直後に言うことじゃねぇだろ!」
「だって〜! お姉さんも殴ってるから〜!」
「俺は前衛だからな!? お前は回復しろ!!」
「やだ〜! 回復はもう得意だからいいの〜! これからは前衛の練習なの〜!」
ギルド全体
「そこじゃねぇぇぇぇぇ!!!」
その日――
ギルドは“特級回復士ステファニー”の実力に震撼し、
同時に“前衛志望問題”という新たな頭痛を抱え込むことになった。
シエラは頭を抱えつつ、ぽつりと呟く。
「……頼むから回復士の仕事は忘れんなよ……」
「はーいなの〜!」




