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第三章 :癒し特級? 知らないの〜! 転生したわたし、後衛じゃなくて前衛回復役として世界を殴り倒したいの〜!  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第五話:初クエストは採取ですか〜?

 翌朝。ギルドの扉が開く音と同時に、ステファニーは胸を張って中に入った。

 腰にはシエラに押しつけられた初心者用ロッド。昨日の夜からずっと素振りしていたせいで腕が少し筋肉痛だが、彼女はまったく気にしていなかった。


「今日こそ前衛デビューなの〜!お姉さんの隣で戦うの〜!」


 後ろから、ため息混じりの足音。


「おい。もう少し静かにしろ。ギルドは神聖な場所だぞ」


「お姉さん〜、わたしもう戦える気がするの〜!」


「気のせいだ。八百パーセントな」


 二人は受付カウンターに到着した。

 昨日の騒動を知る職員Aは、ステファニーの姿を確認した瞬間、

心底ホッとしたような、しかし胃が痛くなりそうな微妙な顔で対応した。


「シエラさん……本当にステファニーさんとパーティを組まれたのですね……?」


「組んじまったからには仕方ねえ。面倒はぜんぶ俺が見る」


 職員Aは、ステファニーのロッドをちらっと見る。


「……前衛志望の……特級回復士……」


 その瞳には「絶対に負傷させるな」という文字が灯っていた。


「安全第一でお願いします。特にステファニーさんには……絶対に、絶対に危険な依頼は避けてください。ギルドの宝なので」


「わかってるって。で、どれが一番安全だ?」


 職員Aが持ってきた依頼書には、でかでかと巨大な文字で書かれていた。


【薬草採取:Fランク】

【危険度:ほぼゼロ】


「はい! こちらです! 森の入り口で採取するだけの簡単なお仕事です! 魔物はほぼ皆無! 遭遇しても弱い個体のみ! 安全性はギルド保証です!」


「採取なの〜!? でもその薬草、絶対強い魔物が守ってるの〜! わたしがロッドで倒してみせるの〜!」


「守ってねえよ! なんで薬草がガーディアン持ちなんだよ!」


 シエラの手刀が、ぴしゃりとステファニーの頭に落ちる。


「はいっ……!」


「よし、行くぞ」


「は〜い……でも戦いたいの〜!」


 ステファニーがぶつぶつ言いながらも、ふたりは郊外の森へと向かった。


 森の入り口は、冒険者初心者がよく訪れる平和な場所だ。

 鳥のさえずりが聞こえ、木漏れ日が差し込む穏やかな空気が流れている。


 ステファニーはロッドを剣のように振り回しながらキョロキョロ。


「ねえねえ〜、ゴブリンとかいないの〜? オークでもいいの〜! わたし、そろそろ殴りたいの〜!」


「ここは初心者森だ。そんなもん出るわけねえだろ。出たらギルドがパニックだわ」


「え〜。つまらないの〜」


「採取依頼は採取だ。ほら、薬草の見分け方を覚えろ」


 シエラは慣れた手つきで茂みを探り、目当ての薬草を摘んでいく。

 ステファニーはロッドを構えたまま、じーっとその背中を見つめる。


「お姉さん……前方にわたしが立つの〜!」


「はいストップ」


 シエラは片手でステファニーの襟首をガッとつかみ、そのまま軽々と後方へ移動させた。


「ひゃああ〜!? 引っ張られたの〜!」


「回復士はそこ。動くな。採取の邪魔」


「でも〜! わたし、やる気に満ちてるの〜!」


「満ちてるだけで実力は増えないんだよ」


「ぐぬぬ……」


 ステファニーはロッドで地面をコンッと突いた。


「このロッドで……地面を叩き割って、魔物を威嚇するくらいなら……」


「威嚇すんな! 森がびびって逃げるわ!」


「森が逃げるの〜!? 追いかけたいの〜!」


「追うな!」


 シエラは完全に慣れた動きで薬草を採取しつつ、後方のステファニーを守るように立ち回る。

 採取量も十分で、危険もまったくなし。

 こうして初クエストは、至って平和に終わった。


 ギルド帰還後。

 受付で報告を終えたシエラは満足そうに腰を伸ばす。


「ふぅ。まあ、悪くない初陣だったな」


「よくないの〜……」


「なんだよ」


「だって、ロッドが……ただの棒だったの〜……」


「棒じゃねえ、媒体だ!」


「媒体でもいいから、殴りたかったの〜!」


「殴るなって言ってんだろ!」


 シエラは額に手を当てる。


「いいか? お前は俺がいる限り絶対に前に出るな。

 まずは生き残り方を覚えろ。

 回復士が死んだらパーティ全滅なんだよ」


「うう〜……でも〜……いつか絶対、わたしが前衛でも通用するって、証明してみせるの〜!」


 ステファニーはロッドをぎゅっと握りしめ、瞳をキラキラと輝かせた。


(いつか絶対、お姉さんを驚かせるの〜!

 攻撃できる回復士……絶対なってみせるの〜!)


 その日の夜。

 シエラが風呂に入りに行くと、ステファニーは早速、部屋の隅でコソコソと素振りを開始した。


「そりゃっ……! えいっ……!

 わたし、絶対強くなるの〜!」


 ロッドは剣ではない。しかし、振られるたびに風を切り、弱々しい「ヒュッ」という音を立てていた。


 こうして、ステファニーの「前衛回復士」への野望は、静かに――いや、ロッドの素振りと共に騒がしく始まったのだった。

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