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第三章 :癒し特級? 知らないの〜! 転生したわたし、後衛じゃなくて前衛回復役として世界を殴り倒したいの〜!  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第三十六話:二つの影が近づいてくるの〜

 ステファニーが宿へ戻ったのは、ギルドで一年間の成長報告を豪快に語り切った直後のことだった。ギルドの受付嬢は目を丸くし、後ろの新人冒険者たちは「え、あの人……Aランク?」とざわついていたが、本人は特に気にせず、いつもの宿に戻ってきた。


部屋の扉を開けた瞬間、ほわっとした空気が迎えてくる。

一年経っても、部屋はほとんど変わらない。変わったのは、彼女の背丈と鍛え直した筋肉、そして多分……心の密度だった。


ステファニーはベッドへぽすんと腰を下ろし、枕元にそっと置いてあるバックラーを撫でた。

シエラからもらった、大切な、大切なバックラーだ。


「ねぇ、お姉さん。今日はね、ジャガー系の魔物を五匹、まとめて受け流したの〜。ほら、前は一匹いなすのもやっとだったけど、今は五匹! 五匹なの!」


返事がないのは分かっている。

分かっているけれど、言葉は勝手に口から出てしまう。


(お姉さん……今どこにいるの〜? ちゃんと食べてる? みかんばっか食べてない? 回復魔法使えなくて苦しんでない?)


思考がどんどん悪い方向へ転がりそうになり、ステファニーは頬をむにっと押した。


「もーっ、心配かけないって約束したのに〜! 約束破ったら絶交って言ったのに〜!」


言いながら自分でも「絶交なんてできるわけないのに」と分かっている。

シエラを前にしたら、どうせ“ぎゅーっ”って抱きついて終わる未来しか見えない。


気持ちを落ち着けるため、ステファニーは立ち上がり、窓へと歩いた。


外は満月。

月明かりが街道を銀色に照らし、静かな夜をさらに静かにしていた。


ステファニーは窓枠に手を置き、いつものように街道を眺める。

もはや日課だった。

お姉さんが帰ってくるかもしれないと、毎晩のようにこうして遠くを眺め続けてきた。


「早く帰ってこないと、わたし、本当にお姉さんを追い越しちゃうの〜。……そしたら、お姉さんが恥ずかしくて泣いちゃうの〜!」


半分冗談、半分本気である。

シエラが泣く姿は全く想像できない。……できないけれど、泣いたら泣いたで絶対可愛い。


そんなふうに、ぼんやりと光の道を眺めていたときだった。


遠い街道の端に、小さな影が二つ……揺れているのを見つけた。


「……ん?」


目を凝らす。

一人は背が高く、もう一人は少し小柄。

月の光を浴びて、影が細長く引き伸びている。


「こんな時間に旅をしてるなんて、元気なの〜……」


冒険者か、旅商人か。

珍しくもないのに、視線が自然と吸い寄せられる。


(……あれ、お姉さんの背の高さに似てる……?)


ふと胸が跳ねたが、すぐに自分で否定する。


「違うの。お姉さんじゃないの〜……」


決定的な理由がある。

シエラの後ろには必ず“巨大な盾の影”がつきまとう。

地面にまで届きそうなあの圧迫感。

あれがない時点で違う。


それに、シエラは一人で行った。

帰ってくるときもきっと一人だ――そう思っている。


だからステファニーは、その影を深く追わなかった。


(きっと普通の旅人なの〜……)


視線を少しだけ逸らし、背伸びをすると、ふわっと眠気が襲ってきた。

この一年、ほぼ毎日鍛錬漬けだった。

今日もギルドで自慢しまくって全力を使ってきたところだ。


「眠いの〜……。お姉さん、おやすみなの……。明日もバックラーの練習、いっぱいするの〜……」


ベッドに戻り、バックラーを抱きしめたまま、すとんと眠りに落ちた。


寝息がすぐに規則的になる。

幸せそうに頬を緩めて眠る姿は、誰がどう見ても“妹”そのものだった。


――だが。


窓の外。

街道の向こうでは、二つの影が確実に街へ近づきつつあった。

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