表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第三章 :癒し特級? 知らないの〜! 転生したわたし、後衛じゃなくて前衛回復役として世界を殴り倒したいの〜!  作者: ぃぃぃぃぃぃ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

35/36

第三十五話:独り立ちから一年が過ぎたよ〜

 シエラが「俺にはやることがある」とだけ言い残し、姿を消してから──今日でちょうど一年が経つ。

その一年の間、ステファニーは泣きながら依頼へ行き、泣きながら魔物を倒し、泣きながらご飯を食べ、そして泣きながら眠った。

……最初の三日間だけは。

四日目には、彼女はすっかり森を駆け回る元気な前衛回復士に戻っていた。

「だって、お姉さんの言った『絶対死ぬな』を守るためには、まず死なない強さが必要なの〜!」

言い訳ではなく、本音である。

その結果、一年後の今──

「ステファニーさんだ……」 「今日もバックラー持ってる……」 「ていうか、あの可愛い盾を構えたらAランク魔物が泣くって噂、ホントなんか?」

ギルドに入るだけで視線が集まるようになった。

しかも、なんか怖がられている。

ステファニーは首をかしげながら受付に向かう。

受付嬢はすっかり慣れた笑みを浮かべた。

「おはようございます、ステファニーさん。今日も依頼を確認されますか?」

「するの〜! 今日の運勢は『バックラーの調子良し!』って感じなの〜!」

「そんな占い聞いたことないですよ……」

受付嬢は苦笑しながら掲示板を指差した。

そこには、最近になって追加された中級依頼がずらりと並んでいる。

「今回は難易度Cの依頼が多いですね。……あ、ジャガー系の魔物の討伐もありますよ。とても危険なので、複数パーティを──」

「それなの〜!!」

即決だった。

受付嬢は思わず紙を落としそうになった。

「い、いや、危険って言ったばかりなんですけど……?」

「だってあの子、動きが速いから、バックラーのいなし練習に最適なの〜!」

「何のための危険依頼なんですか、それ……」

本来、ジャガー系魔物の討伐はCランク冒険者が数人で挑む内容だ。

だが、ステファニーは──

「今日は動きのキレがいいの! いなすの〜っ!」

森に入った直後、猛スピードで襲いかかるジャガーをひょいと受け流し、ぺちんとメイスで殴った。

ジャガーは「なんで?」みたいな顔で倒れた。

「はい、おつかれなの〜!」

その後も、森で次々と現れる魔物をいなし、倒し、時々いなした瞬間に自分で感心していた。

「おお〜、今の角度、完璧だったの! お姉さん見たら褒めてくれるの〜!」

魔物たちが逃げていく。

「え? 逃げるの? ちょっと待つの〜! 今日のわたし、練習したいの〜!」

逃げられた。

……一年の成果は、森の魔物がステファニーの足音で解散するレベルになっていた。

依頼を終えてギルドへ戻ると、案の定、ざわめきが起きた。

「本当に無傷……」 「討伐三件、それも単独……」 「もっと怖がられていいと思う」

「誰が怖がられると嬉しいの〜!? わたしは可愛くて癒される回復士なの〜!」

周囲は目を逸らした。

癒される要素がどこに……? という空気だった。

ここで、受付の奥からギルド職員が声をかけてきた。

「ステファニー、そろそろ昇格試験を受けないか? お前の実績なら、昇格は確実だぞ?」

ステファニーは首を横に振る。

「いいんです。私、ランクなんてどうでもいいから。それより、シエラさんが帰ってきた時に、強くなった姿を見せたいんです」

職員は呆れたように笑う。

「お前、本当に変わってるな」

そんな中、白髪混じりのベテラン戦士が近づいてくる。

「あー、ステファニーよ。今日もご苦労じゃ」

「おじいちゃん戦士さん、ただいまなの〜!」

「儂らのパーティに入らんか? そろそろ本気で世界を目指すんじゃが……お主の技量は、もうSランク以上じゃろう」

彼の言葉に、ギルド全体が静まり返る。

ステファニーは、にこりと微笑んだ。

だが──即答だった。

「ごめんなの。わたし、誰ともパーティは組まないの」

「なっ……なぜじゃ!? お前の力で世界レベルに行けるんじゃぞ!?」

ステファニーはそっと胸のバックラーを抱いた。

その表情が、一瞬だけ寂しそうに揺れる。

「だって……わたしの隣に立つのは、お姉さんじゃないとダメなの」

静寂が落ちた。

「お姉さんが帰ってくるまで、わたしは一人で強くなるの。お姉さんに追いつくために。胸を張って隣に立つために。だから──誰とも組まないの」

ベテラン戦士は、口をぱくぱくさせたまま言葉を失った。

やがて、深々とうなずいた。

「……なら、儂らは応援するだけじゃな。無理はするなよ。お前さん、もう十分強いが……大切なのは心じゃ」

「うん! 心は強いの〜! お姉さんとの約束があるから!」

その日の夜。

宿の窓辺に座ったステファニーは、街道を眺めていた。

月明かりが、静かな道を照らしている。

「お姉さん、もう一年だよ……? 約束の焼肉、冷蔵庫ないから腐っちゃうの〜……」

小さく、不満顔で頬を膨らませる。

だが、その直後、小さく笑った。

「でもね、わたし、一年でこんなに強くなったの。バックラーもいなしも上手くなったの! 回復もいっぱい鍛えたの!」

ほんの少しだけ、胸を張る。

「だから……早く帰ってこないと、わたし、お姉さんのこと追い越しちゃうの〜? いいの〜? ふふん」

もちろん、実際に追い越せているとは思っていない。

シエラという存在は、未だにどこか遠くて、どこまでも強くて、自分の背中を押し続けてくれる大きな存在だ。

ステファニーは手のひらサイズのバックラーをぎゅっと抱く。

「お姉さん、待ってるの。ずっとずっと、待ってるからね」

窓の外は静かで、シエラの影は見えない。

それでも、彼女は信じていた。

シエラは必ず帰ってくる。

その時、自分は笑って隣に立てるように──

明日もまた、一人で依頼に向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ