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第三章 :癒し特級? 知らないの〜! 転生したわたし、後衛じゃなくて前衛回復役として世界を殴り倒したいの〜!  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第二十九話:最終決戦(前編)始まるの〜!

 夜明け前の空気は、冷たいというより「刺す」という表現が近かった。

迷宮入口に近づくほど、魔力汚染が濃くなるのが肌でわかる。

視界に映る全員の顔が強張っている。

緊張と恐怖と、ほんの少しの覚悟が混ざった表情だ。


討伐部隊の先頭を、白銀の大盾を携えたシエラが歩く。

背筋が真っ直ぐで、まるで戦場そのものが「道を譲ります」と避けていきそうな存在感を放っていた。


そしてその真後ろに、ちょこちょこと歩幅を合わせるステファニーの姿があった。

真剣な目をしているが、眠気と緊張のせいでときどきふらふらする。


「ステファニー、つまづくな。今こけるなよ」


振り返りもせずにシエラが声を掛ける。


「うん……大丈夫なの……寝てないけど大丈夫なの〜……」


「寝てないのか」


「お姉さんが盾磨いてたから……付き合って起きてたの〜……」


「そんな理由で?」


「相棒なの〜!」


シエラは小さく息をつく。

その表情は呆れと、うっすらとした嬉しさの入り混じったものだった。


迷宮入口が見えてきた。


……そして。


黒い“山”が、ゆらりと揺れた。

次の瞬間、それは立ち上がった。


タイラント・アームドベア。

その巨大な二足歩行の姿は、もはや魔物というより“要塞”だった。

全身を覆う黒甲冑のような毛皮と、両腕の巨大な爪は、まさしく討伐ランク最上位級の名にふさわしい。


咆哮が地面を震わせる。


「グオオオオオオオオォォォォッ!!」


Aランク戦士長が思わず声を漏らす。


「お、おい……あれ、情報より……でかくないか……?」


「縮んだことはないだろう。覚悟しろ。来るぞ」


シエラが盾を構えた、その直後。


地響きとともに、タイラントが突進してきた。


「は、速いッ!?」


「全員散開!」


だが、警告より早く巨腕が振り下ろされた。


”ズガァアン!!!”


シエラの盾がタイラントの一撃を受け止め、その衝撃で地面が陥没する。

砂煙が舞い、周囲の木々の枝が折れた。


「ぐっ……っ!!」


足元がめり込み、シエラの両腕に血管が浮き出る。

常人なら体が粉々に砕けている衝撃だ。


ステファニーが悲鳴を上げる。


「お姉さん!? 大回復なの〜っ!! 《聖癒ディヴァイン・ヒーリング》!!」


黄金の光が迸り、シエラの全身を包む。

だが――


「……回復が、半分しか通ってない……!」


魔力汚染の濃度が高すぎるのだ。

普通の上級回復では浄化しきれない。


シエラの盾には細かな亀裂が走り、本来なら完全に塞がるはずの体内のダメージも、一部残っていた。


「……これで半分か」


シエラが低く呟く。

ステファニーは焦りながら魔力の流れを確認した。


「上級は……効率悪いの〜……! お姉さん、早く離れるの〜!」


「離れれば部隊が死ぬ。俺が囮だ。奴の視線を俺に釘付けにする」


シエラはタイラントの攻撃を受け止めながら、後退せず前に踏み込み、巨体の注意を引き続けていた。


その間に、Aランク部隊が左右から駆け込む。


「側面を狙え! 装甲が薄いのはそこだ!」


「魔導士隊、全員、範囲術式発動準備!」


だが――


「グウッ……!!」


タイラントが突如、体をひねり魔力を圧縮し、周囲に衝撃波を放った。


”ドォンッ!!!”


爆風が横へ広がり、側面に回り込んでいた魔導士たちが吹き飛ばされる。


「ぐあっ!?」


「くっ……身体が動かん……!」


戦士長も歯を食いしばる。


「くそ……回復が追いつかんぞ! このままでは戦線が崩壊する!」


ステファニーが青ざめた。


「上級回復じゃ……全然追いつかないの……! タイラントさんの汚染、濃すぎなの〜っ!」


そんな中でも、タイラントは執拗にシエラだけを狙う。

まるで“脅威の中心”を理解しているかのように。


「……ステファニー」


シエラが、巨腕を受け止めながら叫んだ。


「《廻生》を使え! 今だ!」


「えっ、でも〜……っ」


「躊躇するな! ここで使わねば全員死ぬ!」


言われた瞬間、ステファニーの胃がぎゅるぎゅる鳴った。

特級回復は魔力消費が凄まじく、使うたびに腹が減る。

そして終わったあと、シエラにご飯を奢ってもらうのだ。


(お姉さんのお財布が死んじゃうの……! でも、ここで使わないと……みんな死んじゃうの……!)


ステファニーは覚悟を決め、杖を掲げた。


「……無駄にしないの〜……! お姉さんのお財布のためにも〜!!」


「違う動機で頑張るな!」


「いっくの〜!! 特級全体大回復!! 《廻生アポカリプス・リバース》!!」


世界が一瞬、白金色に染まった。

光が迷宮入口に押し寄せ、タイラントが発していた魔力汚染を強引に押し返す。


吹き飛んだ者たちの傷は完全に塞がれ、折れた骨が瞬時に元に戻る。

魔力の枯渇すら完全に回復し、戦士たちが息を吹き返した。


「凄まじい……! これが特級……!」


「全身が軽い……!!」


「よし、まだ戦える!!」


全員が復活し、士気が一気に最高潮まで戻る。


タイラントもまた、強烈な浄化光の逆流に一瞬怯み、その巨体が揺れた。


そのわずかな隙を、シエラは見逃さない。


「今だ! 全員、側面と背面へ集中砲火!!」


「応ッ!!」


戦士たちが一斉に駆け、魔導士たちが詠唱に入る。


だが――タイラントはそれでもシエラを殺すためだけに動いた。

巨体をぶんまわし、シエラを押し潰そうと回り込む。


「お姉さんに手を出しちゃ駄目なの〜!!」


ステファニーが咄嗟に走り、刺メイスをぶん回す。


「邪魔なの〜!!」


メイスがタイラントの顔面にクリーンヒットした。


「ギャァッ!?」


威力は低い。

だが予想外すぎて、タイラントの動きが完全に止まった。


「お、止まった!? あの怪物が……!?」


シエラが後ろで叫ぶ。


「ナイス牽制だ、ステファニー!」


「えへへ〜! わたしだって戦えるの〜!!」


戦場全体が、ステファニーの特級回復と牽制で持ち直している。

彼女がいなければ、すでに全滅していたのは間違いない。


だが、これでまだ“前編”。

タイラントはまだまだ本気ではない。


その赤い瞳がぎらぎらと光り、次の咆哮が戦場を揺らした。


「グオオオオオオォォォォッ!!」


シエラが盾を構え直し、歯を食いしばる。


「ここからが本当の勝負だ……! 全員、気を抜くな!!」


そして、最終決戦はさらに激化していく。

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