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第三章 :癒し特級? 知らないの〜! 転生したわたし、後衛じゃなくて前衛回復役として世界を殴り倒したいの〜!  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第二十四話:討伐作戦開始なの〜!

 森の奥から、地鳴りのような咆哮が響き渡った。

木々の間を揺らして現れたのは、凶暴化し赤黒い光をまとった《ワイルド・ベア》の群れ。二足で立てば三メートルを超える巨体が十数頭、森を押しつぶすように進んでくる。


しかし、その迫力の直前でシエラはわずかに眉一つ動かすだけだった。


「A部隊、西側に展開。囮役を引きつけろ。回復はステファニーが全て担当する。

B部隊はまだ動くな。タイラント・アームドベアが来る可能性は低い。だが、警戒態勢を維持しろ」


淡々とした指揮。

場慣れした戦場指揮官の声にしか聞こえない。


最初は彼女を「若い女の子」くらいにしか思っていなかったAランク冒険者たちは、今や姿勢を正し、息を呑み、ただ従う。


「来るぞ――構えろ!」


Aランク戦士が咆哮し、ワイルド・ベアたちが一斉に突っ込んでくる。大地が震え、木の幹が砕け、筋肉の塊のような巨体が戦士たちと激突した。


その戦線から少し下がった位置では、ステファニーが頬をぷくっと膨らませながらメイスを抱えていた。


「怪我しないでほしいの〜! いくの〜!」


ステファニーが胸の前で手を合わせ、一気に広げる。

淡い金色の風が舞い上がった瞬間、温かい息吹が戦場全体に広がる。


和風エリアス・ブレス


光の流れがAランク部隊を包み込み、切り傷、裂傷、骨の軋む痛みまで、すべてが瞬時に癒えていく。


「傷が……消えた!?」「何だこの回復速度は……魔力の濁りが無い……!」


驚愕の声が次々に上がった。


本来、討伐作戦中の回復は遅延し、魔力の乱れで効果が落ちるものだ。しかしステファニーの回復魔法は淀み一つなく、戦士たちの生命力はむしろ戦いの中で増していくほどだった。


シエラは視線を戦線に向けたまま、背後の少女に声を放つ。


「ステファニー、集中しろ。Aランク部隊の持久力はお前の腕にかかっている。止まった瞬間、前線が崩れる」


「任せるの〜! みんな元気になぁれ〜!」


次の瞬間、光が弾けるように強くなった。

戦士たちの動きがさらに鋭くなる。

その圧倒的支援で、Aランクさえ押されるワイルド・ベアとの持久戦が安定し始めた。


だがそこで、問題が発生した。


「おい、やべえぞ! ベアが回復役を狙ってる!」


一頭のワイルド・ベアがまるでステファニーの存在を察知したかのように、前衛を飛び越えるような奇跡のステップで突っ込んでくる。


「あっ……きたの〜!?」


ステファニーの顔色が青くなる。

しかしその一歩前に、シエラが彼女の腕を引き寄せながら叫んだ。


「ステファニー! 俺の後ろから出るな、密着してろ!」


「密着ってそんな急に言われても〜!? でもわかったの〜!」


ステファニーはシエラの背中にぴたりと張り付いた。

その直後、ベアの巨大な前脚が振り下ろされ――


ステファニーのメイスがぐるん、と勢いよく振り回され、偶然その軌道に衝突した。


「どけなの〜っ!!」


メイスの打撃がベアの顔面にクリーンヒットする。


「ギギャッ!?」


巨体が一瞬ぐらつき、ベアが後退した。


シエラは心の中で絶叫した。


(なんでこいつの『偶然のメイス振り回し』は全部クリティカルなんだ……!?)


事実、ステファニーのメイスは全て偶然の軌道なのに、なぜかベアの急所に当たりまくっていた。


ベアが回り込もうとするたび、ステファニーは同じようにバタバタとメイスを振り回し、それが見事に牽制になっていた。


「お姉さんの後ろは通さないの〜!!」


「よくわからんが助かってる! そのままやれ!」


シエラは必死に盾で防ぎつつ叫んだ。


回復支援+偶発的メイス=敵が近づけない。


結果的に、ステファニーは戦線の維持に大きく貢献していた。


やがて戦いが進むにつれ、ワイルド・ベアの群れは疲弊し始めた。

Aランク戦士たちは傷一つ負わず、むしろ元気になっている。

その歪んだ構図に、ベアたちの戦意が削がれていく。


「A部隊、攻撃を集中しろ! 群れのリーダーを仕留めろ!」


シエラが声を放つと、戦士たちが一斉に攻撃し、群れのリーダー格が地に倒れた。


その瞬間――


「逃げたぞ!」「あの暴れん坊どもが逃げてる!?」


残されたベアたちは戦意を失い、一転して森へと逃げ散っていく。


「全線、敵を撃退! 被害軽微!」

「なんてことだ……あの回復士のおかげで、これほど余裕が出るとは……!」


勝利の報告が上がると同時に、Aランク冒険者たちの視線が一斉にステファニーへ向けられた。


ステファニーは一瞬だけ、ドヤ顔した。


「みんな、元気になってよかったの〜!」


シエラは額を押さえながら呟く。


「まだだ。ここからが本番だ。……B部隊、警戒を続けろ。タイラント・アームドベアの出現に備えるぞ」


そして視線をステファニーに向ける。


「魔力の節約は忘れるなよ。次の敵は、今までの比じゃない」


「了解なの〜! お姉さんのためなら、がんばるの〜!」


――大規模討伐作戦の第一段階、成功。


だが、彼らの前に立ちふさがる“本命”は、まだ森の奥で息を潜めている。


ステファニーの回復魔法が、次にどこまで通じるのか。

そして、シエラの指揮が試されるのはこれからだった。

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