表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第三章 :癒し特級? 知らないの〜! 転生したわたし、後衛じゃなくて前衛回復役として世界を殴り倒したいの〜!  作者: ぃぃぃぃぃぃ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

22/36

第二十二話:この状況の打破は二人じゃ無理なの〜

 森の静寂は、つい先ほどまでの激戦が嘘のように戻っていた。


「……ふう。これで、ひとまず片付いたな」


シエラは軽く汗を拭いながら、倒れ伏したワイルド・ベアの群れを見渡した。

すでにステファニーが次々と《光滴リジェネレート・ドロップ》を落とし、光の雫がぽとぽとと魔物の体へ染み込んでいく。


「うう……怒ってるベアさん、ちょっと怖かったの。お菓子で仲直りしようとしたけど、ぜんぜん受け取ってくれなかったの〜」


「そりゃ戦闘中にお菓子差し出されても怒りは収まらんだろう」


「えぇっ!? わたしなら収まるのに!」


シエラは肩を落とした。

(こいつはどれだけ甘いものに弱いんだ……?)


とりあえず、遺体の処理はステファニーが行ってくれるので問題はない。問題は——。


「……この目だ。完全に血走っていた」


シエラは倒れたベアの顔を軽く持ち上げ、鋭い視線で確認する。


「迷宮から漏れ出した魔力の影響だ。普通の凶暴化とは桁が違う」


「やっぱり、迷宮って怖いの……お菓子持ち込んだら怒られちゃうかな……」


「怒られるかどうかは知らんが、持ち込む気はあるんだな」


そんな冗談を交わしつつ、シエラはベアの周囲を見回った。

周囲の岩肌に、深い裂け目が走っているのが目に留まる。


「ステファニー、これを見ろ」


「ひえ……なにこれ、ベアさんの爪なの? こんな深く? え、これ鉄板削ってない?」


「鉄板どころか、鋼鉄の扉を一撃で切り裂くレベルだ」


「そんなの、わたしの胸に当たったらペチャンコになるの〜!!」


「いや、まず避けろよ」


冗談を返しながらも、シエラの表情は険しい。

ベアの爪痕にしては明らかに異常。サイズも深さも一致しない。


シエラは森の奥を見やり、痕跡を辿って歩き始めた。ステファニーは慌てて後を追う。


「お姉さん、勝手に行かないでー! 置いてかれたら、わたし森で迷って一週間ぐらい泣くの〜!」


「それはそれで村の迷惑だろうが」


しばらく歩くと、木々が広範囲にへし折られた開けた空間に出た。


そこには、巨大な足跡——

いや、もはや“地面の陥没”と言った方が正しいほどの跡があった。


「な、なにこれ!? 巨人!? 巨人族の湿気でぺちゃん……」


「いや、違う。……こいつは」


シエラの眉がぴくりと上がった。


「タイラント・アームドベアだ」


「たいらんと……?」


「最上位種のワイルド・ベア。普通のベアの三倍以上。常に直立で、重装騎士みたいに肩と胸と腕が硬質化している。天然の板金鎧だ。しかも凶暴で、統率能力まである」


「とう、統率って……ベアさん同士で“作戦会議”するのっ!?

『今日の戦略は包囲だ、モフモフ部隊は左から回れ!』みたいな!?」


「まあ……概ねそんな感じだ」


「ひえぇぇぇぇぇぇぇ!! ベアさんが軍隊持ってるの〜!!?」


シエラはさらに足跡を調べながら、小さく唸る。


「奴がこの群れを支配していたと考えるのが妥当だ。しかも……まだ群れが残っている。村の長から聞いた“残数”を思い出せ」


ステファニーの顔から血の気が引く。


「……あれ全部? 怒ってるベアさんたち? え、数……多すぎじゃないの……?」


「そうだ。俺たちが倒した分など、氷山の一角だ」


シエラは迷宮の入り口へ視線を向けた。


「俺とステファニーだけなら……

タイラント一体なら、持久戦で勝てる見込みはある」


「そ、そうだよね! わたしが《聖癒ディヴァイン・ヒーリング》で回復し続ければ、お姉さんは死なないの!」


「まあ、死にはしない。だが」


シエラは深く息を吐いた。


「周囲にまだ大量のワイルド・ベアがいる。

中ボス級の群れを相手にしながら、最上位種と戦うとなれば……」


「……」


ステファニーの表情がゆっくりと曇る。

自分が狙われれば、シエラの盾は機能しなくなる。


「二人じゃ……無理、なの?」


「無理だ」


シエラはきっぱりと言った。


「Sランクの仕事は、強さだけじゃない。

“撤退を判断する勇気”も含まれる」


「お姉さん……撤退、するの?」


「する。村に戻って報告書をまとめて、本隊に戻る。ギルド本体へ増援を要請だ」


ステファニーは小さく唇を噛んだが、すぐにぱっと笑った。


「……うん! お姉さんが無理しないなら、わたしも無理しないの!」


「お前は普段から無理してるだろうが」


「え? してる? お菓子食べてる時も?」


「それはただの自堕落だ」


「ひどいの〜!!」


二人は笑いながら、来た道を戻り始めた。

背後には、まだ見ぬ暴君——タイラント・アームドベアの気配が重く漂っている。


「それにしても……」


ステファニーがぽつりと言う。


「タイラントさん、怒ってる理由……お菓子嫌いだからだったりする?」


「そんな理由だったら世界はもう終わってるぞ」


「えぇぇぇ!? じゃあ理由教えてよ〜!」


「知らん!」


そんなやり取りを続けながら、二人は辺境の村へ戻っていった。


そしてこの日、ステファニーは悟る。

——Sランクのシエラがいても、二人で挑んではいけない戦いがある。


暴君ベアの気配だけが、森の奥に重く残るのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ