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第三章 :癒し特級? 知らないの〜! 転生したわたし、後衛じゃなくて前衛回復役として世界を殴り倒したいの〜!  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第二十話:シエラの厳しすぎる特訓なの〜

 翌日の朝。

冒険者ギルドの訓練場に、シエラとステファニーの姿があった。


「お姉さん! 今日からBランクの依頼なんだよね!? どんな依頼なの〜!? 魔王退治? 世界救う? それとも、お姉さんのかわいい弟子を甘やかす依頼なの〜?」


ステファニーが全力でテンションを上げてきた。


「最後のはない。あと、浮かれすぎだ」


シエラが淡々と返す。


「Bランクがどうとかじゃない。俺が今からやるのは……お前の命を守り抜くための訓練だ」


「わたしの命!? 守る!? お姉さん、やさしいの〜!」


ステファニーがぱあっと笑顔になる。


即座にシエラが眉間を押さえた。


「違う。お前の命は軽い。死にやすい。防御0だ。Fランクだ」


「Fランクなの〜!」


「誇るな。問題はそこだ。お前は俺が守る前提で行動している。それはいい。だがな――俺が守りきれなかった時、お前は自分一人で逃げ切る能力がない」


シエラが険しい目つきになる。


「だから今日のテーマは生存だ。お前の戦闘能力は上げるな。生存能力を上げろ」


「せ、せいぞん……っ!? 生きるの大事なの〜!!」


「お前の反応が軽すぎて不安になる」


訓練場の中央には、大盾、小盾、木材の束、大小の岩が不規則に散らばっている。


ステファニーは疑問顔だ。


「お姉さん、このゴチャゴチャは何なの〜? 障害物レースなの〜?」


「これは盾だ」


「木と石が……盾?」


「盾とは板のことだ。木材も岩も衝立になる。防御とは“面積”と“角度”の勝負だ」


シエラが静かに説明する。


「魔物の攻撃は大半が直線的だ。だから、体を隠す面積を増やし、攻撃を受ける角度を消せば、Fランクでも生き残れる」


ステファニーが目を輝かせた。


「お姉さんすごいの〜! やっぱり頭いいの〜!」


「知ってる」


シエラは平然と頷く。


「では実践だ。動け」


「えっ、今から!? 準備体操は!? アップは!? お姉さんの応援は!? 甘やかしは!?」


「全部ない」


ステファニーの叫びを無視し、シエラは大盾を構えず腕を組んだ。


「まずは、障害物を使って私の位置から“見えない”場所へ逃げろ。合図したら動け」


「は、はいなの〜!」


「行け」


「早いの〜!!?」


ステファニーは慌てて木材の束へ走った。

足をもつれさせながらも、なんとか陰に滑り込む。


「ステファニー。お前の体、三割出ている」


「三割も!? もうちょっと隠すの〜!」


「今ので死んだ。はい次」


「死んだの〜!? 冥界行きなの〜!? まだ死にたくないの〜!!」


独特な悲鳴をあげながら、ステファニーは別の岩陰に転がり込む。


「五割出ている」


「増えてるの〜!?」


「はい死んだ。次」


「お姉さん鬼なの〜!? スパルタなの〜!!」


何度も死んだことにされるステファニー。

しかし徐々に、露出面積は減ってきた。


「……ふむ。今ので一割だ。良い」


「い、いきてるの〜……っ!」


ステファニーがへたり込むと、シエラは小さく頷いた。


「では次は夜だ」


「次!? まだ続くの〜!?」


もちろん続いた。


夜。

訓練場には冷たい風が吹き、月明かりだけが照らしていた。


ステファニーは木剣を持たされている。


「いいかステファニー」


シエラの声はいつもより低い。


「お前には“前衛になりたい”という願望がある」


「ありますの〜!」


「だが今のお前では無理だ。だが……覚悟を見せるなら、話は別だ」


シエラが木剣を構えた。


「今から俺が魔物だ。俺の攻撃を、お前の頭の良さと生存能力だけで避けきれ」


「お、お姉さん……鬼なの〜……!」


「いくぞ」


木剣が空気を切った。


ステファニーは悲鳴をあげながら半歩横にずれる。


「遅い」


木剣が肩を掠めた。


「ひゃああああ!!?」


「その半歩じゃ死ぬ。もっと速く、もっと小さく動け」


「せ、世界が厳しいの〜!!」


「俺が厳しいんだ」


木剣が再び振り下ろされる。


ステファニーは昼に教わった「岩陰へ隠れる」動きを思い出し、必死に岩の後ろへ転がり込んだ。


「その動きは悪くない」


「ほ、ほめられたの〜……!」


「調子に乗るな。まだ死ぬレベルだ。生存を、もっと強く意識しろ」


ステファニーは荒い息を整えながらも、必死にシエラの重心移動を見る。


「お姉さん……攻撃の前に重心が……動くの〜……!」


「気づいたか。それを読むんだ。Fランクならなおさらな」


再び木剣。

ステファニーは素早く横へ跳ぶ。

次の瞬間、昼にシエラがばらまいていた木材の束の陰へ滑り込んだ。


木剣はかすめすらしない。


「ッ……! 今の……避けたの〜!?」


「……賢い動きだ」


シエラがわずかに頷く。


「スキルがなくとも、知識と経験で防御力は上げられる。お前が生きてこそ、俺は全力で敵に突っ込める」


「お、お姉さん……わたしのFランクに合わせた訓練……してくれたのね……!」


ステファニーの目が潤む。


「当たり前だ。俺は、お前の後衛だ」


「お姉さん……ッ! 大好きなの〜!!!」


「うるさい。訓練中だ」


夜の訓練はその後も続いた。

木剣が掠めるたびに叫び、転び、それでも立ち上がる。


気づけばステファニーの動きは、確かに研ぎ澄まされていた。


翌朝。

汗と砂まみれのステファニーは、ぎゅっと拳を握った。


「わたし……わかったの〜。Fランクでも……ちゃんと戦えるやり方があるの〜!」


「そうだ。お前は俺の戦術の要だ。生存を極めろ。そして――」

シエラがそっとステファニーの頭を撫でた。


「俺の背中を任せるに値する“相棒”になれ」


「なるの〜!! わたし、お姉さんの隣に立つの〜!!」


ステファニーの叫びは、朝の訓練場によく響いた。


こうして、

前衛回復士ステファニーの基礎は、Sランク・シエラの鬼のような特訓によって完成していくのだった。

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