表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
第三章 :癒し特級? 知らないの〜! 転生したわたし、後衛じゃなくて前衛回復役として世界を殴り倒したいの〜!  作者: ぃぃぃぃぃぃ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/36

第二話:前衛志望の回復士は困るの〜

 冒険者ギルド裏の訓練場は、今日も見習いたちの声で賑わっていた。


 木製ダミーがずらりと並び、砂地を踏みしめる靴音が響く。

 そこへ、ひらひらとスカートを揺らしながら、ステファニーがやってきた。


「えへへ〜。今日もいっぱい殴るの〜!」


 右手には、例の“初心者用剣ロッド”。

 どう考えても扱いにくそうな形状のその剣を、ステファニーは嬉しそうに撫でている。


「よし、集まれ新人ども!」


 野太い声が響く。

 教官B――筋骨隆々、モヒカン気味の髪型で、見た目だけなら完全に悪役。

 しかしギルドからの指示で、特級回復士ステファニーを“絶対に怪我させない”という難題を背負った男である。


(はぁ……よりによって俺の訓練日に来やがるとはな……)

(あの娘、本当に特級《廻生》の使い手なんだよな……絶対に死なせられん……!)


 心の声とは裏腹に、表情はいつもの厳つい怒り顔だ。


「いいか! 初級冒険者の基本は役割分担だ!

 剣士は前衛! 術師と回復士は後衛! これは絶対だ!」


「はーいなの〜」


 笑顔で手を挙げるステファニー。

 だがその手には、すでに前衛に飛び出す気満々の初心者用剣が握られていた。


(いやな予感しかしない……)


 教官Bの胃がきゅっと痛む。


「では、訓練用の木製ダミーを相手に模擬戦を――」


「いっくの〜!」


「おい待てえええええぇッ!!!」


 開始宣言の前に、ステファニーは前衛へ全力ダッシュ。

 誰よりも早く木製ダミーの目の前に立ち、剣を振りかぶる。


「まずは一発斬りたいの〜!」


「斬るなぁぁぁ!! お前は後衛だと何度言えば分かる!!」


 教官Bが飛びついて、ステファニーの襟首をつかんで後ろへ引っ張る。


「えぇ〜? せっかくのチャンスなのに〜!」


「チャンスじゃない! お前が前衛に出るたびに俺の寿命が削れるんだよ!!」


 訓練場の見習いたちは口を開けてそのやり取りを見守っていた。


「な、なんだあの女……」

「特級回復士らしいぜ……」

「前衛志望って聞いたことねぇよ……!」


 ざわざわと空気が揺れる。


 教官Bは気を取り直して怒鳴った。


「いいかステファニー! お前の剣さばきは素人以下だ! いや、素人の方がマシだ!」


「え〜? でも転生したから、筋力はそれなりにあるの〜」


「そういう問題じゃねぇんだよ!!」


 またしても前に飛び出そうとするステファニーを、教官Bが抱えて止める。

 その度に訓練は中断され、見習いたちは半ば笑い出しながら見守っていた。


「なんで前衛にそんなにこだわるんだ!」


「だって〜……攻撃できる距離にいないと、わたしが役に立ってる気がしないの〜」


 唇を尖らせるステファニー。


「はぁ!? 特級回復スキルの時点で大貢献だ!

 お前一人で十人分働けるんだよ!!」


「え〜、ほんと〜?」


「ほんとだ!!」


 教官Bが何度も頭を抱え始めた頃。


「仕方ない……こうなったら能力を見せてやるしかない」


 彼は訓練中に手をすりむいた新米剣士を呼んだ。


「よし、ステファニー。こいつの傷を治してみろ。

 中級回復《活泉ライフ・ストリーム》を使え」


「はーい! 任せて〜!」


 ステファニーはポニーテールを揺らして立ち上がると、

 初心者用剣ロッドを鞘に収め――なぜか上下逆さまに構えた。


 柄の先端、埋め込まれた宝玉がきらりと光る。


「中級回復《活泉ライフ・ストリーム》!」


 宝玉から迸った光が、ふんわりと広がり――

 傷は一瞬で消えた。


「な……なんだこれ……!」

「速ぇ……!」

「今の、剣の柄から出たのか……!?」


 新米たちのどよめきが走る。


 教官Bは胸を張って叫んだ。


「見たかこれが特級回復士の力だ!

 こんな逸材を前衛で死なせるわけにはいかんだろうが!!」


「えへへ〜。治すのは得意なの〜」


「得意すぎるんだよ!!」


 教官の怒号が空に響いた。


 そんな大騒ぎの午前訓練が終わり、休憩時間。


 ステファニーは訓練場の隅で、一人ぽつんと剣を見つめていた。


「うう〜……治すのは嬉しいけど……やっぱり殴りたいの〜……」


 剣を地面に突き立て、両手で頬を挟み、むすっとする。


「攻撃スキル……ゼロなの……わたし……」


 あからさまに落ち込んでいた。


 近くでそれを見ていた新米冒険者たちは、なんとも言えない顔になる。


「攻撃スキルゼロで前衛希望って……どういう思考なんだ……」

「でも本人、すごく楽しそうなんだよな……」

「教官の心労、ヤバそう……」


 皆がひそひそ声で話す横で、ステファニーは剣をぽんぽん叩きながら呟いた。


「いいの〜……わたし……前で殴って……後ろで治して……全部やりたいの〜……」


「無茶苦茶なんだよなぁ……」


 そんなツッコミがどこからか聞こえたが、

 ステファニーは気づかない。


 こうして――

 “前衛志望の特級回復士”という前代未聞の存在は、

 ギルドの訓練場に、今日も混乱と笑いを振りまいていたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ