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第三章 :癒し特級? 知らないの〜! 転生したわたし、後衛じゃなくて前衛回復役として世界を殴り倒したいの〜!  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第十八話:群れとの戦闘、初めての即時範囲回復なの〜

 迷宮上層での新人護衛クエストは、順調そのものだった。シエラが大盾を構えて前線に立ち、ステファニーが岩陰から“ちょんちょん〜”と刺メイスを振り回しながら光を飛ばし、新人のアレンとリズはその安全圏で実戦経験を積む。二人にとってはこれ以上ない環境で、時折ステファニーが「ぴかぴか〜!」と無駄に眩しい光を放って新人たちの笑いを誘う余裕すらあった。


だが、そんな空気は長く続かなかった。


「……止まれ。空気が変わった」

前を歩くシエラが、ぴたりと足を止めた。


広めの通路に出た瞬間のことだった。薄暗い通路の奥から、複数の影が揺れ動く。


「来たぞ……ゴブリンだ。正面に五体。囲むように動くなよ」

シエラが低く指示を出す。


アレンが剣を握りしめる。「五体……! でも、シエラさんがいれば……!」


そのときだった。


ステファニーが、通路の横穴の奥を指して叫んだ。

「お姉さん! あっちからも来たの〜!」


「なに……?」

シエラがちらりと視線を向けた瞬間、通路の左右の隠し穴から、追加のゴブリンが飛び出した。


「ギギャッ!」

「ギャギャッ!」


三体。合計八体。


シエラが舌打ちした。「チッ、罠か! 数が多すぎる! 全員、俺の盾の後ろに!」


新人二人は慌ててシエラの後ろに回り、ステファニーはシエラの背中にぴたりと張り付く。


「お姉さんの後ろは安全地帯なの〜!」

「全然安全ではない!」

シエラが怒鳴りつつも、盾を高く掲げて突撃してきたゴブリンたちを受け止めた。


激しい金属音が通路に響く。


アレンが驚愕する。「すごい……シエラさん、正面の三体を全部受け止めてる……!」


リズも目を丸くしたまま呟く。「これが……鉄壁の大盾……!」


シエラは顔をしかめながら叫んだ。「ステファニー、いつものように!」


「任せてなの〜! 光が走るの〜!」


ステファニーが輝く光を放ち、シエラの背中にぴたっと張り付きながら回復する。同時に、刺メイスをひょこっと盾の脇から突き出し、“ツンッ”とゴブリンを牽制した。


「ギャッ!?」

ゴブリンの悲鳴が通路に響く。


だが、側面の二体は新人たちへ一直線に向かってきていた。


アレンが「来るッ……!」と身構えたが、慣れない動きで回避が遅れた。


「ぐっ……!」

剣を振り払ったが、代わりに腕に傷が走る。


リズも必死に避けようとしたが遅かった。

「きゃあっ!」

足にゴブリンの爪が食い込み、小さな悲鳴が漏れた。


「アレン! リズ!」

シエラが叫ぶ。

「ステファニー、前衛は俺が何とかする! 二人を治せ!」


「えっ!? 二人なの〜!? わたし、いつも一人ずつなの〜!」

ステファニーが大きく目を丸くする。


単体回復の上級スキル《聖癒ディヴァイン・ヒーリング》は強力だが、同時に二人を治す余裕はない。それどころか、シエラの盾が押されている。


「押し切られる……! くそっ!」

シエラの顔に焦りが浮かぶ。


アレンは動けず、リズは足の傷のせいで膝をついていた。二人とも、このままでは次の攻撃を避けられない。


「ステファニー! 俺のことは後でいい! 新人たちを助け——」


「だめなの〜!!」

ステファニーが叫んだ。

「お姉さんを治さないと、お姉さんが死んじゃうの〜!!」


それは、シエラがステファニーに教えた唯一の『絶対』だった。


“誰かを犠牲にしてまで治すな。全員で帰ること。それがパーティだ。”


だがその教えが、今、ステファニーを固まらせていた。


リズが震える声で叫ぶ。

「ステファニー様……アレン君が……アレン君が危ない……!」


アレンも歯を食いしばる。

「俺は……いい! シエラさんを守ってくれ……!」


ステファニーは頭を抱え、目に涙を浮かべた。


「やだの〜! 誰も傷ついてほしくないの〜! みんな痛いの痛いの、飛んでいけなの〜!!」


その瞬間、ステファニーの魔力が膨れ上がった。


今まで感じたことがないほどの濃密な光が、刺メイスの宝玉に集まっていく。宝玉が、ぼうっと黄金色に輝いた。


「ステファニー……!? その魔力は……!」

シエラが驚愕する。


ステファニーは涙を拭い、ぎゅっとメイスを握りしめた。

「わたし、みんなを治したいの〜! みんなでおうちに帰るの〜!!」


黄金の光が爆発した。


「《廻生アポカリプス・リバース》 なの〜!!」


轟音はなかった。ただ、暖かい風がふわりと広がっただけだった。


だが次の瞬間、通路すべてが眩い黄金に染まった。


シエラ、アレン、リズ。その体を包んだ光は、一瞬ですべての傷を消し去った。


アレンの腕の深い傷も、リズの足の裂けた痛みも、完全に。


「な、治った……!? 一瞬で……!?」

アレンが震える。


リズも同じく震えた声を絞り出す。

「これが……特級回復士の……本気……」


ゴブリンたちが光に怯え、動きを止めていた。


シエラはその一瞬を逃さなかった。

「今だ! 反撃するぞ!」


新人二人は復帰し、シエラの号令で戦列に並び立つ。


「うおおおおっ!」

アレンの剣がゴブリンの胸を裂く。


「ステファニー様……守ってください……!」

リズは震えながらも後衛から補助魔法を重ねる。


完全回復したシエラは盾を大きく振りかざし、ゴブリンを吹き飛ばした。

「道を開けろ!」


通路に倒れるゴブリンは、やがて一体も動かなくなった。


全てが終わったあと、ステファニーはふらふらとよろけながら、いつもの笑顔を見せた。


「えへへ〜……みんな、治ったの〜……よかったの〜……」


アレンは胸に手を当てながら呟いた。

「ステファニー様……今のは反則級だ……」


リズも涙を浮かべていた。

「心まで……包み込まれる光……。私、あんな魔法、初めて見ました……」


シエラはゆっくりステファニーの頭に手を置いた。

「見たな。これが……特級回復士の“本気”だ。そして、彼女が俺の背中にいる限り、俺たちは絶対に負けない」


新人たちは、その言葉の意味を深く理解した。


ステファニーの規格外の力。

シエラの鉄壁の戦術。

その両方があって初めて成り立つ最強の形。


アレンとリズは、二人の背中に、これ以上ない尊敬の眼差しを向けたのだった。


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