第十七話:新人たちとの同行依頼なの〜
ギルドの昼下がりは賑やかだ。受付前には冒険者たちが行き交い、依頼書が貼られた掲示板には常に人だかりができている。そんな中、妙に静かな一角だけがある。理由は単純。シエラとステファニーが並んで立っているからだ。二人がいるだけで、わいわいしていた冒険者たちが道を開けてしまう。その光景は、もう見慣れたものになりつつあった。
「本日の同行依頼はこちらになります!」
ギルド職員Aが、緊張した様子でシエラたちの前に書類を差し出す。
シエラは軽く眉を上げた。「新人の護衛か。迷宮上層とはいえ、私たちでいいのか?」
「むしろ、あなたたちが適任なのです!」
職員Aは力強くうなずく。
「シエラさんたちの“異端の最強戦術”は、新人冒険者にとって最高の教材です! 特にステファニー様は、回復士志望の子たちにとって身近な存在になりますし!」
ステファニーは嬉しそうに胸を張る。
「わたし、みんなを元気にするのが得意なの〜! シエラお姉さんの後ろから“ちょんっ”ってしたり、“ぴかーっ”って治すの〜!」
「その説明だと何が起きているのか分からなくなる……」
シエラが頭を押さえた。
紹介された新人は二人。剣士志望のアレンと、回復士志望の少女リズ。二人ともシエラとステファニーを前に、緊張で固まっている。
アレンが勇気を振りしぼって声を上げた。
「し、シエラさん! その盾さばき……近くで見られるなんて、本当に光栄です!」
「うむ、よろしく頼む」
シエラが軽く頷くと、アレンの顔が真っ赤になった。
リズは恐る恐るステファニーへ視線を向ける。
「あ、あの……ステファニー様って……本当に前衛なんですか?」
「そうなの〜!」
ステファニーは得意げだ。
「わたし、前衛で“ツンッ”てして、後ろでも“ぴかぴか〜”って治すの〜! いっぱい動くの〜!」
「可愛い……けど……あれ……? 回復士って、そんな働き方するんだっけ……?」
リズの思考が揺らいでいく。
シエラは肩をすくめた。
「まあ、見ればわかる。うちの戦い方は……確かに異端だ」
迷宮上層に到着すると、空気はひんやりと湿っている。新人たちは緊張で背筋を伸ばし、シエラの後ろを歩く。ステファニーは最後尾から「るんるん〜」と鼻歌混じりに続いていた。
「アレン、落ち着け。敵が出ても初撃を無理に取りに行くな」
「は、はい!」
その瞬間、背後の暗がりからゴブリンが躍り出た。
「ギギッ!」
「来たか……! アレン、下がれ!」
シエラが前に躍り出て盾を構える。
だが、なぜかシエラはゴブリンの攻撃をわざと軽く受けた。
「えっ!? シエラさん! い、今の……被弾……?」
「問題ない。ステファニー!」
「は〜い! 光が見えるの〜!」
ステファニーがひょこっとシエラの背後から顔を出すと、刺メイスで“ツンッ”とゴブリンの腹をつつく。その直後、シエラの体が淡い光に包まれ、傷が瞬時に消えた。
リズは衝撃で声を失う。
「あ、あんな……攻撃と回復を同時に……?」
アレンも唖然とする。
(シエラさん、全然ためらわない……! 回復される前提だから、あんなに強気に立ち回れるのか……!)
ステファニーは岩陰に半身を隠しながら、また“ツンッ”。ゴブリンは完全に怯えて後退している。
「ほらほら〜! 逃げちゃダメなの〜!」
「ギギィッ!?」
ゴブリンの悲鳴が迷宮にこだまする。
新人たちが混乱している間に、シエラが大盾で強烈に弾き飛ばし、ゴブリンは地面につっぷした。
「終わったか」
シエラが息を整える。
リズが震えながら呟く。
「きょ、教科書と違いすぎます……!」
ステファニーがニコッと笑った。
「教科書に載せる〜? わたしたちの戦い方、載せちゃう〜?」
「い、いや……載せたら混乱する気がします……!」
戦闘が終わったあと、緊張が一気に押し寄せたのか、新人の二人は擦り傷をつけていた。アレンの腕に赤い線が走っている。
「待っててアレン君! すぐ治すから……!」
リズは震える手で回復魔法を試みるが、魔力が安定しない。
「ご、ごめん……私、焦って……!」
リズが目を伏せた瞬間、ステファニーがそっと手を重ねた。
「焦らなくていいの〜。回復はね、心がぽかぽかだと上手くいくの〜」
「ぽかぽか……?」
「そうなの〜! “痛いの痛いの、飛んでいくの〜!”って気持ちを込めるの〜!」
ステファニーの魔力が優しく流れ込み、リズの魔力の形が整っていく。
リズは驚きながらも、再びアレンに手をかざした。
光が溢れ、傷がゆっくりと消えていく。
「あ……治った……!」
アレンが嬉しそうに腕を動かす。
リズは感動のあまり涙目になった。
「ステファニー様……ありがとうございます……!」
「えへへ〜! みんな治って嬉しいの〜!」
帰り道、新人二人の表情は明るい。
アレンが拳を握りしめる。
「シエラさん! 俺……必ず強くなります! いつか、あんな風に仲間を守れる前衛に!」
「うむ。その意気だ」
リズもまた、胸に手を当てながら言った。
「ステファニー様……魔法だけじゃなくて……心まで治せるんですね。私、ステファニー様みたいな回復士になりたいです!」
ステファニーは嬉しそうにくるりと回った。
「みんなで一緒に強くなるの〜! 迷宮でも街でも、元気いっぱいなの〜!」
こうして、新人たちはシエラの鉄壁とステファニーの規格外の優しさに魅了され、二人の背中を目指すようになったのだった。




