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第三章 :癒し特級? 知らないの〜! 転生したわたし、後衛じゃなくて前衛回復役として世界を殴り倒したいの〜!  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第十四話:中型魔獣との初戦なの〜

 迷宮下層の空気はいつもと同じひんやりとした冷気を含んでいるはずなのに、今の二人には熱を帯びているように感じられた。

……いや、熱そのものだ。

昨日までぎくしゃくしていた空気が嘘みたいに、シエラとステファニーの間には、妙にピタッとした“連動した空気”が生まれていた。


シエラが左に重心を移せば、後ろのステファニーも自然と左に体重を預ける。

シエラが息を吸えば、背後でステファニーの刺メイスの宝玉がふわっと光を帯びる。


「おい、ステファニー。今、同じタイミングで呼吸してただろ」


「えへへ〜。お姉さんの呼吸、全部感じるの〜」


「変なこと言うな。なんか照れるだろ……」


そんな会話をしながらも、二人の足取りは静かに迷宮通路の奥へと進んでいった。


突然、シエラが低く囁いた。


「来るぞ。前方に……アイアン・ボア。中型だ。突進が厄介だぞ」


ステファニーも同じ方向を見る。

暗闇の向こう、獣独特の荒い呼吸と、蹄を鳴らす重々しい音が響いている。


「了解なの〜。突進に備えて、お姉さんはしっかり受けてね〜」


「お前……ほんとに後ろで落ち着いてるな。前は絶対に出るなよ」


「もう出ないの〜。お姉さんの背中は、わたしの前線なの〜」


シエラの口元が微かに緩む。

怒っていたころの険しい表情は、もうどこにもない。


そんな二人の前に、通路を塞ぐようにして巨体が現れた。


アイアン・ボア。

鉄の皮膚を持ち、突進一撃が下位冒険者を粉砕する危険生物だ。


「ブモォォォォォッ!!」


轟音とともに、地面が揺れるほどの突進が迫る。


シエラはすかさず大盾を構えた。


「受ける! ステファニー、衝撃に備えろ!」


「はいなの〜!」


シエラの体が後方へ押し飛ばされるほどの衝撃が走る。


ゴオオオオッ!!!


迷宮全体が揺れるほどの衝撃。

シエラは必死に足を踏ん張るが、右腕の筋が悲鳴をあげ、鎧の下で皮膚が裂けて血がにじむ。


「ぐっ……くそ……ステファニー!」


だが――その悲鳴を聞く前から、ステファニーの魔法は発動していた。


「光が見えるの〜! 《聖癒ディヴァイン・ヒーリング》なの〜!」


シエラが体勢を立て直すより早く、右腕の傷が一瞬で塞がる。

皮膚は滑らかに戻り、痛みも残っていない。


シエラは笑いながら叫んだ。


「ははっ! 助かった!」


「任せてなの〜!」


アイアン・ボアは突進を防がれて激怒している。

頭を振り上げ、シエラの盾を噛み砕かんと突進し直す。


だがその瞬間――


シエラの盾の横から、小さな刺メイスがぴょこんと突き出た。


「ツンッ! なの〜!」


「ブヒィィッ!!?」


アイアン・ボアの鼻先に“ちょい刺し”が突き刺さる。

硬い皮膚には通らないが、柔らかい鼻の付け根なら話は別だ。


予想以上の痛みに、魔獣は大きくのけぞる。


だがその反動で、シエラの腹にステファニーのメイスが軽くヒットした。


「ぐっ!」


「ごめんなさいなの〜! でもすぐ治すの〜!」


「わざとじゃないって分かってるからいいけど……!!」


ステファニーはシエラに誤って当てたダメージを、同じ動作で即座に治療する。


癒しと殴りを同時に行うという、回復士としては完全にアウトなのだが、結果的には最強ムーブだった。


シエラは痛みを恐れず、完全に攻撃に専念できる。


「ステファニー! 次、いくぞ!」


「任せて〜! 鼻先なら刺さるの〜!」


シエラの大剣が煌めき、アイアン・ボアの注意を一手に集める。

その影から、ステファニーがちょい刺し、回復、ちょい刺し、回復を繰り返す。


「ブヒィ! ブヒィィィィ!」


アイアン・ボアは理解不能だった。


攻撃しても即座に治る。

逆に小さな痛みだけが連打され、集中を保てない。


シエラが吠える。


「決めるぞ!」


「がんばるの〜!」


大盾でアイアン・ボアの正面を弾き返し、隙を作った瞬間――


「終わりだッ!」


シエラの大剣が首元へ深々と切り込んだ。

アイアン・ボアは呻き声をあげ、ついにその場に崩れ落ちる。


「やったの〜! 完璧な勝利なの〜!」


シエラは息を整えながら、後ろのステファニーを振り返る。


「……これが、お前の真価だ、ステファニー」


「えへへ〜?」


「癒しと殴りを同時にこなし、俺の命を限界以上に引き上げる。お前は……もうお荷物じゃない。俺の最高の相棒だ」


ステファニーはその言葉に、ぱぁっと花が咲くような笑顔を見せた。


「わたし、本当に……前衛回復士になれたの〜!」


「いや、前衛には出てくんな。ただ背中に貼りついてろ」


「はーいなの〜!」


こうして、二人の“鉄壁と即時回復”による異端戦法は、迷宮下層で確固たる形を成したのだった。

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