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第三章 :癒し特級? 知らないの〜! 転生したわたし、後衛じゃなくて前衛回復役として世界を殴り倒したいの〜!  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第十三話:絆回復、二人の呼吸が合うよ〜

 迷宮下層の通路には、さっきまでの激しい戦闘の余韻が、まだ薄く漂っていた。石床にはシャドウ・ウルフの黒い残滓が煙のように溶けていき、湿った冷気だけが静かに残る。


その場に、二人だけが取り残されていた。


ステファニーは刺メイスを握りしめたまま、まるで石像のように俯いている。肩は小さく震え、さっきまでの強気な顔はどこにもない。


「……ごめんなさいなの……」


声は、本当に消え入りそうだった。

いつもの語尾の伸ばしも弱々しくて、どこか泣き声に近い。


シエラは大盾を静かに立て掛け、息を整える。

怒りは既に収まっていたが、その顔には別の疲労と、まだ抜けきらない恐怖が残っている。


「調子に乗るとか、そんな軽い話じゃねえんだ」


シエラの声は低く、落ち着いているのに、耳に刺さるほど重い。


「下層での一瞬の判断ミスは、パーティそのものが死ぬ。全滅だ。……俺も、お前も」


ステファニーはびくりと肩を揺らす。


「うん……。わたし、分かってなかったの……。お姉さんが、あんなに怒るなんて初めてで……。すごく、怖かったの……」


「……怖かったのは、俺も同じだ」


静かに告げたその一言で、ステファニーは顔を上げる。

シエラの手が、微かに震えていることに気づいた。


怒りではなく、


――失うかもしれなかった恐怖で震えているのだ。


シエラはステファニーの隣に腰を下ろす。鎧が石床に触れる鈍い音が響いた。


「いいか、ステファニー」


「……はいなの」


「お前は、このギルドで唯一無二の特級回復士だ。お前の魔法は、俺の盾より信頼できる」


ステファニーの目が大きくなる。

褒めてもらえた喜びより、その後に続く言葉を恐れて身を縮める。


シエラは続けた。


「……だがな。回復士がお荷物になってどうすんだ。前に出て簡単に死にかけるなんて、言語道断だ。俺が守らなきゃ、誰がお前を守るんだよ!」


声は強いが、その奥に焦りと必死さが混じっている。


ステファニーは、ぽつりと呟く。


「お姉さん……そんなに、わたしのこと……」


「言わせんな、恥ずかしい」


シエラはそっぽを向いた。けれど耳は真っ赤になっている。


「俺が大盾を持ったのはな。……お前が二度とバカな真似をして死なないようにするためだ。俺が“絶対にお前を前に出させない壁”になるためなんだよ」


ステファニーの胸に、熱いものがじんわり広がっていく。


自分のために、ここまで言ってくれる人がいた。

叱ったのは怒りじゃなくて、心配だった。

怒鳴ったのは嫌いだからじゃなくて、守るためだった。


そう気づいた瞬間――


「お姉さん……ありがとなの……!」


堪えきれず、涙が溢れそうになる。


「わたし、もう分かったの。わたしは、お姉さんを守るための専用武器なの! 回復でお姉さんを動かせる、最強のサポートなんだよ〜!」


「……武器って表現は違う気がするが……まあいい」


「殴りたいってワガママ、もう言わないの。前に出ないの。ずっと、お姉さんの背中にくっついてるの〜!」


「……それはそれで邪魔だから距離感は考えろ」


「はいなの〜!」


ステファニーは勢いよく立ち上がった。涙の跡を拭い、力強く笑う。


その笑顔は、いつもの「前に出たい回復士の暴走スマイル」ではなかった。

シエラを信じ、支える覚悟を帯びた、強い笑顔だった。


シエラはその横顔を見て、小さく呟いた。


「……そういう顔してくれりゃ、俺も本気出せるってもんだ」


大盾を握り直し、シエラは前方を見据える。


「行くぞ。迷宮下層はまだ続く。今度は俺の呼吸を感じろ。俺が攻撃に移るタイミング、防御に入るタイミング――全部、お前が合わせろ」


「もちろんだよ〜! お姉さんの呼吸、ぜーんぶ感じ取るの〜!」


「変な言い方すんな」


「照れてるの〜?」


「照れてねぇ!」


さっきまでの重苦しさは完全に消え、二人の呼吸はぴたりと重なっていた。


シエラが前に出る。

ステファニーが後ろで準備する。

鋼の壁と即時の回復という、常識外れの連携。


二人だけの、新しい“呼吸”。


その一歩目が、静かな迷宮の奥へと踏み出されたのだった。

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