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第三章 :癒し特級? 知らないの〜! 転生したわたし、後衛じゃなくて前衛回復役として世界を殴り倒したいの〜!  作者: ぃぃぃぃぃぃ


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第十二話:暴走ステファニー、シエラ激怒〜、迷宮下層の修羅場〜

 迷宮下層は、上層とは比べ物にならないほど空気が重かった。

湿った空気が肌に貼り付き、ひとつ踏み込むごとに視界が陰り、どこか遠くで獣の唸り声が響く。

普通のパーティなら、ここに来るだけで緊張で足がすくむ場所だ。


だが――


「お姉さん! ロックベア倒せたの〜! わたし達すっごいの〜!」


ステファニーはテンションMAXで跳ねていた。

剛腕のロックベアを撃破し、自分たちの連携が“下層でも通用する”と分かったのがよほど嬉しいらしい。


シエラは汗を拭いながら、厳しい声を出す。


「ステファニー、喜ぶのは後だ。下層は上とは桁が違う。

 今の連携、絶対に崩すな。盾から離れれば即死だぞ」


「は、はいなの〜! 今日はちゃんと離れないの〜! わたし、もう前衛として完璧なの〜!」


“前衛として完璧”というフレーズに、シエラはピクッと眉を動かした。


(……嫌な予感しかしないな)


だが、今のところは本当に完璧だった。

ロックベア戦も、ステファニーはシエラの背に貼り付き、回復も支援もタイミングぴったりだった。


この調子なら、下層のある程度まで一気に行ける――

そう、思っていた。


迷宮を進むと、奥から影が揺れた。


「シャドウ・ウルフか。来るぞ!」


黒い影が床を滑るように現れ、その身を実体化させた。

狼のような姿だが、体毛は影そのもののように揺れ、瞳は赤い光を帯びている。


「速いぞステファニー! 絶対に張り付いていろ!」


「は、はいなの〜!」


その瞬間、シャドウ・ウルフの爪が閃き、シエラの大盾を叩いた。


ガキィィッ!!


「重っ……!」


シエラの足が後ろに下がる。

速いだけでなく、力もある。

上層のオークとは格が違う。


シエラは防御に徹するが、シャドウ・ウルフは影に分身を作り、死角から攻撃を仕掛けてくる。


「くっ、厄介だな……!」


ステファニーは後ろでプルプル震えていた。


「お、お姉さん……攻撃が当たらないの〜! どうしようなの〜!」


「俺が動きを止めるまで絶対動くな! いいな!」


「は、はいなの……けど……けど……!」


ステファニーの中に、非常に危険な考えが芽生える。


(わたし、ロックベアも“ツンッ”できたし……

 ちょっとくらい前に出ても……すぐ治せば大丈夫なの〜……)


ギルドの職員ならその思考だけで気絶しそうな危険思想だ。


シエラが分身の一つに気を取られた瞬間――

ステファニーは決断した。


「わたしが刺せばいいの〜!」


「おい馬鹿やめろステファニー!!!」


だが遅かった。


ステファニーは盾の横をスルッと抜け、

まるで昨日の大惨事を思い出したくないほどの“突撃姿勢”で駆けていく。


「どっせいなのーーー!!」


「言ってる場合かあああ!!」


シャドウ・ウルフは影のような動きでヒュッと避け、

逆にステファニーの腕に爪を走らせた。


バシュッ!!


「ひゃぁぁあ!!」


薄く切れた腕から血が飛び、ステファニーは慌てて回復魔法を発動する。


「《光滴リジェネレート・ドロップ》なの〜!!」


ポトリ、と光が落ち、傷は瞬時に塞がる。


問題は違う。


――その数秒、ステファニーが完全に無防備だったことだ。


背後で、影が膨れ上がる。


「ステファニーッ!!!」


シエラが大盾でステファニーを突き飛ばし、

次の瞬間、背後から迫っていたシャドウ・ウルフ本体の攻撃を正面から受けた。


ガギィンッッ!!


ただの一撃とは思えない衝撃音が響く。

シエラの足がズザザッと後退した。


だが、問題はシエラの顔だった。


真っ青だった。


「お、お姉さん……?」


戦闘を強引に終わらせ、シエラは大剣を振り、

シャドウ・ウルフの影と本体を無理やり両断した。


倒れた瞬間――

シエラは、崩れ落ちそうなステファニーの胸倉を掴んだ。


「テメェ、何をしてる!!!」


洞窟が揺れるほどの怒声だった。


ステファニーは涙目で震える。


「ご、ごめんなさいなの……でも、わたしが刺せば隙が――」


「隙なんて作らなくていいッ!!」


シエラの叫びに、ステファニーはビクッと震える。


「一度成功したくらいで調子に乗るな!

 ここは下層だぞ! 一秒の油断が命取りなんだ!

 なんで指示を無視した!!」


「だ、だって……お姉さんが攻撃できなかったから……わたしが……」


「違うだろ!!!」


シエラの手が震えているのを、ステファニーは初めて気づいた。


「お前が死んだら、誰が俺を治すんだ……!!

 お前は、俺が絶対に死なせないために、後ろに立たせてる相棒なんだ……!

 もし、お前が死んだら――俺も終わりなんだよ……!」


その声は怒りだけでなく、

むしろ“恐怖”の色が濃かった。


ステファニーの喉がキュッと詰まる。


「……お姉さん……」


「次に同じことをしたら、もう連れて行かない。

 二度とだ。絶対にだ」


シエラの声は震えていた。

怒りよりも、心からの悲痛が滲んでいた。


ステファニーはようやく理解した。


自分が死ぬことが怖いのではない。

シエラにとって、“自分が死ぬ=シエラも死ぬ”ということなのだ。


ステファニーは涙をこぼし、深く頭を下げた。


「ごめんなさいなの……絶対にもうしないの……

 お姉さんを……危ない目にあわせたくないの……」


シエラは大きく息を吐き、手を離した。


「分かればいい。生き残れステファニー。

 俺の隣に立ちたいなら、それが最低条件だ」


涙目のステファニーは必死に頷いた。


「う、うん……生きるの〜……! 絶対なの〜……!」


迷宮の冷たい空気の中で、

二人はようやく、“本当の前衛と回復士の関係”を理解し始めたのだった。

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