第一話:転生者ステファニー、ギルドへ行く〜
ここは冒険者の街、オルフェア
昼下がりの冒険者ギルドは、今日も活気に満ちていた。
依頼を受けに来た冒険者たちが行き交い、酒場の方からは威勢のいい笑い声が響き、掲示板には新しい依頼が貼られていく。外は爽やかな風が吹いているが、ギルド内はそれを押し返すほどの熱気に包まれていた。
そんな中――一人だけ、ゆったりとした雰囲気をまとった女性が受付へと歩いてくる。
ピンク色の髪を高い位置で結んだポニーテール。柔らかい笑みを浮かべ、妙に楽しそうに鼻歌を歌っている。胸元には初心者用プレート、腰には……剣。
いや、剣のようで剣ではない。柄の先端に、なぜか初心者ロッドに付いている宝玉が埋め込まれているという、妙に改造された形状の武器だ。
その名も――本人曰く「初心者用剣ロッド」。
「えへへ〜、冒険者ってどんな感じなんだろ〜。わくわくするの〜」
自然と周囲の視線を集めるその女性の名は、ステファニー。
二十八歳、転生者――本人以外、誰も知らない秘密?だ。
「こんにちは〜。冒険者になりたいの〜。登録をお願いします〜」
受付カウンターに到着したステファニーは、にこにこと笑顔を向けた。
「は、はい。では身分証を……初めての登録ですね? スキルボードで適性を確認します。手をこちらに置いてください」
「は〜いなの〜」
ステファニーがカウンターの魔力測定器に手を置くと、受付職員の男性は淡々と魔力を流し込む。
奥の壁に設置された巨大な水晶盤――スキルボードが反応し、淡い光を帯び始めた。
そして次の瞬間、ステータスが表示される。
職員は軽い気持ちで画面を覗いた……その直後、目を剥いた。
「……え?」
水晶盤には、明確にこう記されていた。
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名前:ステファニー
固有属性:癒し
スキルランク:特級
使用可能スキル:
癒し初級 小回復 《光滴》
癒し中級 中回復 《活泉》
癒し上級 大回復 《聖癒》
癒し中級 全体小回復 《和風》
癒し上級 全体中回復 《慈光》
癒し特級 全体大回復 《廻生》
攻撃適性:無し
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「とっ……特級……!? 特級癒し……!? し、しかも……《廻生》……!」
受付職員Aの声が裏返った。
ギルド内のざわめきが、一瞬で静まる。
そして次の瞬間――
「おい今、特級って聞こえなかったか?」
「特級癒しなんて、王都に一人いるかどうかだぞ!」
「しかも若いぞ!? 見た目は!」
ざわざわざわざわ……
ギルド中の視線がステファニーに集まった。
当の本人は、周囲が騒いでいる理由すらよく分かっていない様子で、ぽかんとしている。
「えへへ……な、なんかすごい注目されてるの〜?」
「すごいどころの話では……!」
受付職員は一瞬で態度を正し、丁寧すぎるほど深く頭を下げた。
「ステファニー様! 大変失礼いたしました! 特級癒しの持ち主など、我がギルドでも滅多にお迎えできません! あなたは我々の至宝です!」
「ええ〜? 至宝ってそんな、大げさなの〜」
ステファニーはくすくす笑う。
「と、とにかく! ステファニー様には最重要注意事項がございます!」
「なになに〜?」
受付職員Aは真剣な表情で告げた。
「あなたの特性は回復です。後方支援がメインになります。
その回復能力は何百人もの命を救える力なんです! 死なせるわけにはいきません!」
「……へ?」
ステファニーの目が丸くなる。
「えっと……でもね……」
「でも……?」
ステファニーは胸を張って宣言した。
「わたし、前で戦いたいの〜!」
「…………………………は?」
ギルドの喧騒が止まった。
受付職員Aは固まり、後ろの冒険者数名が椅子から落ちた。
その中の一人が叫ぶ。
「前衛!? 特級回復士が!? アホなのか!?」
「いやだって、転生したんだし〜。せっかくチートスキルあるなら、魔物とガンガン殴り合いたいじゃない〜?」
「殴り合いたい……?」
「うん! だって、わたし力は結構強いの〜。剣とか振ってると落ち着くし〜」
ステファニーは、腰の“初心者用剣ロッド”を誇らしげに掲げる。
丸い宝玉のついた、どう見ても扱いづらそうな武器を。
「ほら〜。これでバシバシ殴りたいの〜!」
「……ステファニー様」
受付職員Aは、震える声で言った。
「攻撃適性、無しと出ていますが……」
「え〜? そうなの〜? でも、殴るのは体力勝負なの〜」
「そういう問題ではありませんっ……!」
職員Aが頭を抱えた瞬間、ギルド内がざわつき始めた。
「やべえぞ……特級回復士が前衛志望って前代未聞だ……」
「いや、止めろよ職員……マジで死人が出るぞ……」
「いや……まあ通常よりかは筋肉あるか? なんで?」
「転生者かな……?」
ステファニーはきょとんとしていた。
「ねえ〜、そんなに変かな〜?」
「変です!!」
職員Aは深くため息をついた。
「と、とにかく……! まずは初級講習を受けてください! 前衛志望? そんなもの教官が全力で止めますから!」
「え〜、教官さんが止めるの〜?」
「止めますとも!!」
「ふふっ。でも、がんばるの〜」
にっこり笑うステファニー。
その天然っぷりに、職員Aは半ば泣きそうな顔で天を仰いだ。
「(お、お願いだから……頼むから……普通に後衛やってください……!)」
ギルドの空気は混乱の渦のまま。
こうして、特級回復士にして前衛志望という異例すぎる新米冒険者・ステファニーは、ギルドへ一歩を踏み出したのだった。
この時点では、彼女の“暴走”がどれだけギルドを振り回すか……
誰もまだ、知る由もなかった。




