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君が見た、太陽の色。  作者: 輝嬉
僕と君の、秋の色。
6/6

賑賑しい、食の秋。(3)

 時刻は18時過ぎ。先ほどまで明るかった空は、かなり暗くなってきている。

「牧さん、結構話しちゃったけど、時間大丈夫だった?」

「うん!大丈夫だよ~。てか!私より、秋元くん、予定あったんじゃなかった?」

「そうだった…!」

本来の目的を忘れていた。まあ、食事よりも牧さんと話せる時間のほうが僕にとっては大切だ。

「ちなみに、予定何か聞いてもいい?」

「いや、大したことじゃなくて、実は―」

牧さんに定食屋に行くことと、早く来すぎたからここにいたことを話した。

「あそこ知ってるよ!でも、行ったことないな~。私も行こうかな?」

「え?今から?」

「うん!」

「帰らなくていいの?時間大丈夫?家の人心配しない?」

「待ってて!ちょっと確認するから!」

牧さんはそう言うと、携帯を取り出し、電話を掛ける。

「OKだって!でも、帰ってから晩ご飯ちゃんと食べれるだけにしなさいって」

「それ以外は?」

「?特にないよ」

「そ、そっか。」

心配するところそこなの?と思いながら、僕らは一緒に定食屋に向かった。牧さんと話すようになって、1日くらいの間でかなり牧さんのイメージが変わった。思っていたよりマイペースで自由な人だ。それに大食いだ。絶対お腹にブラックホールがある。

 軽く話している内に定食屋に到着した。いつもより遅めに着いたため、店内からはすでににぎやかな様子が伝わってくる。いつも通り「こんばんわ‐」と言いながら店内に入ると、カウンターから見慣れた顔が出てくる。

「おぉ、アキちゃんいらっしゃい!今日は遅かったねぇ」

「まぁ、ちょっと、友達と話してて。」

「アンタ友達いたんけ?」

「そりゃいるよ!」

ガハハと笑うこのおばさんは幸子さん。店主の奥さんだ。とてもいい人で話しやすい。ほぼ週一とはいえ、そこそこ長く通っているので仲良くなっていた。あまり広いとは言えない店内を軽く見渡すと、テーブル席はすでにほとんど、埋まっている。カウンター席にも、見慣れた人がいつもの場所に座っている。僕もいつものようにカウンター席へ向かおうとしたが、足を止めて振り返る。

「牧さん、どこ座る?」

「んー、秋元くんはいつもどこに座ってるの?」

「えっと、自分はいつもそこのカウンター席なんだけど…。」

「じゃあそこでいいよ!」

僕より足早に移動し、席に座ると、牧さんは店内を物珍しそうに見渡していた。

「アキちゃん、いつもので―」

カウンター越しに立つ幸子さんは、そう言いかけて僕の隣に座る存在に気が付いた。

「どなた?その可愛らしい子?」

「友達だよ、さっき言ってた。」

「あら、そうだったの。何ちゃん?」

「あっ!初めまして、牧紗由です」

「これはご丁寧にどうも。よろしくね紗由ちゃん。あたしのことは幸子って気軽に呼んでね。幸子ちゃんって呼んでもいいのよ!それにしても綺麗な子ねぇ。」

と幸子さんは牧さんをまじまじと見る。牧さんは恥ずかしそうにエヘヘ~、ありがとうございます~と笑っている。幸子さんの勢いに若干、圧倒されていてちょっと面白い。

「アキちゃんと友達になってくれてありがとねぇ。この子いつも一人で...友達いるか心配で心配で...」「こちらこそ、まだお友達になって少しですけど、仲良くさせてもらってます!」

「まぁ…ありがとねぇほんとに。これからもアキちゃんと仲よしてあげて」

「...あなたは僕の親なのか...?」

「そんなもんじゃないの?」

「そうなの…。」

困惑していると、幸子さんがこちらに顔を寄せて僕にだけ聞こえるようにして言う。

「こんないい子そうそうおらんちゃ。迷惑かけられんよ?」

「わかってますよ...。それより幸子さん、そろそろ注文。」

そうだそうだ、と思い出したかのように手を合わせる。

「アキちゃんはいつもので...、紗由ちゃんはどーする?」

牧さんは手書きのメニューを手に取り、悩みながら見つめる。そして、悩んだ末こちらを見た。

「秋元くんはいつも何食べてるの?」

「このソースかつ丼定食かな。」

「いいね~。…じゃあ私もソースかつ丼!」

「はいよ。それじゃ、ちょっと待っててね」

歳を感じさせない軽やかな動きで仕事に戻っていった幸子さんを見送った後、ふと横を見ると牧さんと目が合った。

「え、どうしたの?」

と、思わず口にする。牧さんは特に何か言うわけでもなく、何故か楽しそうににやにやしながら見てくる。

「えへ…アキちゃん」

「なっ…」

「えへへ、アキちゃん。私もそう呼ぼうかな~」

「え、や、やめて…。」

「え~、いいじゃん、カワイイじゃん!」

恥ずかしくて耳が熱くなるのを感じる。恥ずかしがる僕を見て、牧さんはさらに楽しそうにしている。そんな牧さんも可愛いから、まあ…いいか。

「そんなことより、さっきあんなにお菓子食べてたのに食べれるの?」

「うん!たぶん大丈夫!お菓子は別腹、おいしいものも別腹、あとはママと…あっ!両親の作るごはんも別腹なんだよ!」

「そ、そうなんだ…?」

この方は一体、何個別腹を持っているのか。これで、太らないのがすごい。不思議そうに見ていると、牧さんは焦ったように口を開く。

「私が親のことママパパ呼びしてるの言わないでね!」

「うん。てか、気付かなかったというか…今知った。」

「はっ!…と、とりあえず!内緒ね!」

「うん。別に言いふらす趣味もないしね。」

言う相手も居ないし。一人、勝手にダメージを受けて悲しくなった。

 久しぶりにかなり喋った僕は少し疲れを感じてきていた。水を飲み一旦、一呼吸する。その間、牧さんは先ほどのように店内を観察していた。

「私、カフェとかレストランしか行ったことないから、こういうお店ってなんか新鮮でちょっとわくわくだ~」

「ちょっとわかるかも。なんか楽しいよね。」

「ね~」

「牧さんと逆で、自分は家族でたまにレストランはあるけど、カフェとか行ったことないかも。機会が無いのと、おしゃれすぎて緊張して入りづらくて…。」

「そっか~。なら今度一緒に行く~?」

「え⁈いいの…?」

「うん、おすすめのところ何個かあるからね!ここ教えてくれたお返し!」

「…楽しみにしてる。」

なんてことを話している内に幸子さんが定食を持ってきてくれた。牧さんは自分の目の前に現れたソースかつ丼に目をキラキラさせている。

「おいしそ~!いただきまーす!」

「いただきます。」

いつも通り食べ始める僕の隣で、牧さんは爆速で写真を撮って、その勢いで流れるように食べ始めた。食べている最中に嬉しそうな声で聞こえてくる食レポは、いつものソースかつ丼定食をさらに美味しく感じさせてくれた。食レポが聞こえていたのか、店主や幸子さんだけでなく、周りのおじさんたちもほほ笑んでいた。

 僕が食べ終わるころには、牧さんはアイスまで平らげていた。どうやら知らないうちに幸子さんがサービスでくれたらしい。

「ごめん、待たせちゃって。全然先帰ってもよかったのに。」

「え~。そんな寂しいこと言わないでよ~」

「...すいません。」

食事を済ませた僕たちは店を出る。またきてね、と手を振る幸子さんに牧さんは手を振り返しながら店を後にする。いいとこだね~、おいしかった~、と満足気に語りながら歩いていた牧さんは、何かを思い出したかのように突然、あたふたし始めた。

「そういえば!お金払ってない!」

「それなら牧さんの分もついでに出しといたから大丈夫。」

「え、いつの間に⁈ごめんね~、ありがと~!いくらだった?」

牧さんは頑張って財布を取り出そうとしていた。

「いや、いいよ。久しぶりに人とご飯食べれて楽しかったし。」

実際、家でも基本的に一人の食事が多い僕からしたら、いつもよりはるかに楽しい時間だった。夕食分の小遣いはほとんど丁度でもらっているため、オーバー分は自分の財布から出すことになったが、安いものだ。

「そっか~。じゃあ、今度は私が奢るからね!」

「そうさせていただきます。」

牧さんは「お姉さんにまかせろ~!」と意気軒昂に親指を立てている。...なんと微笑ましい姿なのだろうか。

 時刻は19時半過ぎ。先ほどまでとは打って変わって、大半が暗闇に包まれている公園まで戻ってきた。

「だいぶ暗いし近くまで送ってくよ。」

「ありがと~。でも、家近いからここで大丈夫だよ!」

「わかった。気を付けて帰ってね。」

「うん、秋元くんも気をつけてね!」

「うん。じゃあまた。」

「またね!ばいば~い」

大きく手を振る牧さんに軽く手を振り返し、僕も家を目指し歩き始める。しばらく歩いた後、急にどっと疲れが押し寄せてきた。牧さんといた時、ずっと緊張していたことを体の力が抜けた今、ようやく気が付いた。

「ははっ...。」

先ほどまで普通を装っていた僕の手足は情けなく震えていた。無理もない。昨日まで話しかけることすらできなかったのに、一日でこんな色々なことがあって、平然となんてしていられない。いられるはずがなかった。牧さんに頑張って普通を装ってたこと、バレてないか不安になってきた。特に問題はないけど、ただバレてたら恥ずかしい。

「はぁ......。」

歩き慣れたいつもの帰り道は、なんだかいつもより物静かで、より暗く感じた。先ほどまで別世界に居たような気分だ。少し寂しくなり、思わずため息がこぼれていた。

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