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君が見た、太陽の色。  作者: 輝嬉
僕と君の、秋の色。
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賑賑しい、食の秋。(2)

 午後になると、いつもやってくる眠さと戦いながら授業を受け、気が付けば放課後になっていた。この後どうするかを話す生徒や部活に行く生徒を横目に、一人そそくさと帰る。放課後ももしかしたら話せたりするかなと期待はしていたが、僕には予定があった。早歩きで人の間を抜け、外に出る。9月になったばかりのこの時間はまだまだ明るい。そんなことを思いながら一旦家を目指す。今日は水曜日。僕が高校に入ってから、親は水曜は帰りが遅くなるからとお金を渡してくれている。これで僕はほぼ毎週、定食屋に通っているのだ。4月からいろんな店に行ってみたが、今通っている定食屋が一番安く、量も多い。あとおいしい。この時間から行くと、開店してすぐくらいになるため、人があまりいない。少し遅れると、人が増えてきてしまうので早めに行くことにしている。

 公園のベンチでぼんやりと空を眺める。薄くなった青い空はオレンジに綺麗なグラデーションで変化し始めている。家に着き、着替えて準備をして再び家を飛び出したものの、早く帰りすぎて時間に余裕ができすぎていた。だから今はこうして定食屋の近くにある、少し広めの公園のベンチに一人座っている。

「暑い...。」

まだ夏の暑さが残っている。というより、まだ夏くらい暑い。綺麗な空、比較的静かな公園。この暑さが無ければずっと座っていられそうな場所だ。

「はぁ...。これならちょっとくらい話せたかな...。」

なんてことを呟きながら、時間が過ぎていくのをただ見つめる。色々と考えることをやめ、目を閉じ、ただ聞こえる音に耳を傾ける。かすかに聞こえてくる子供たちの声、公園の外をたまに通る車の音、元気な小型犬の鳴き声。そして、近づいてくる足音。それはまるで、気配を消して気付かれまいと獲物に近づく狩人のように。目を開き、顔を上げ、足音のする方を見る。そこには「わっ」と気付かれたことに口を開いて驚く、牧さんがいた。

「えへへ~、気付かれちゃったか~」

「...何してるの?」

「何って、こっちのセリフだよ!」

「んー。何だろう...。暇つぶし?」

「そっか~。でも、こんなところで寝てたら危ないよ!誘拐されるよ!」

「誘拐って...。ま、まあ、大丈夫だよ。...それより、牧さんはどうしてここに?その格好だと、今学校帰りだった?」

「そう!それで秋元くんいたから何してるのかな~って!」

「よくわかったね。服装違うのに。」

「雰囲気と姿勢かなぁ?それっぽかったからそうかなって!」

「...それで違ったらどうするの。そっちの方が危ないよ...。」

「でも、合ってたからいいじゃん!」

この人の方がよっぽど危なくて、誘拐されそうだ。ただでさえ可愛くて小さいのに。

「この後に予定でもあるの?」

「うん。ちょっとね。でも、早く来すぎて時間ができちゃって…。」

「そっか~。だからここで時間潰してたの?」

「そう。特にすることもないし座ってようかなって。」

そう言って気が付く。荷物を持たせたまま立話させていること。ナチュラルに牧さんと話していたこと。急に焦った僕は勢いよく立ち上がる。

「す、座る?」

「えっ!全然大丈夫だよ!座ってていいよ」

「ご、ごめん。」

なんだか恥ずかしく、耳が熱くなる。僕はベンチの端に小さくなって座りなおす。「じゃあわたしもすわろうかな」と言って、牧さんは手に持っていた荷物を僕と反対のベンチの端に置き、背負っていたリュックを下ろし、隣に座った。膝に置いたリュックから水筒を取り出し、一口飲む。そして、どこからか取り出したお菓子を食べ始める。あまりにも自然な動作だ。自然すぎて隣に座ったという衝撃がかすむ。学校で隣に座っていた時より近く、一緒にベンチに座るというのは全然別のものに感じる。でも、それ以上に今は、どれだけ食うの、どこから食べ物出してるの、ということの方が気になる。

「食べる?」

僕が見ていたことに気が付いた牧さんは、持っていたお菓子の箱をこちらに寄せる。

「あ、いや、大丈夫。」

「そう?もしかしてお菓子好きじゃない?」

「そうじゃないんだけど...。今食べたらこの後、食べれなくなるかなって。」

「たしかに~」

と言いながらパクパク食べ続ける牧さん。

「牧さんはお昼も結構食べてたけど、それで晩ご飯食べれるの...?」

「うん、甘いものとお菓子は別腹なんだよ~」

「ほどほどにね...。」

小さい体のどこに消えているのか、本当に不思議だ。その後、しばらくの間、食べながらそのお菓子を楽しそうに紹介し続けている牧さんを眺めていた。

「牧さんっていつも元気だよね。」

「それ、みんなに言われる!私、そんなに元気?」

「うん、かなり。」

そう言うと、牧さんはやけに嬉しそうに笑っていた。

「疲れたりしないの...?」

「うーん...私は普通にしてるだけだから、疲れるとかはないかな~」

「そうなんだ。今も学校と変わらなくてすごいなって思って。」

「別にすごくないよ~。そういう秋元くんも変わらず落ち着いてるよね!」

「それはただテンション低いだけかも。でも、牧さんが元気だから多少元気パワー貰って今はちょっと元気な気がする。」

なにそれ~、と笑う牧さん。こんなことで楽しそうに笑ってくれる彼女を見ると、元気がもらえるのは違いない。それに、ずっと賑やかで退屈しない。持っていたお菓子を食べ終わった牧さんは、満足した表情で空を見上げて「綺麗だねぇ」と呟いている。僕も空を見を見てみると、オレンジの綺麗なグラデーションを夜が飲み込み始めていた。

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