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君が見た、太陽の色。  作者: 輝嬉
僕と君の、秋の色。
3/6

歩み出す、秋。(2)

「おはよ!!!」

「うん、おはよ...。」

反射的に挨拶をしてからはっとした僕は、自分の周りや後ろを確認する。ほかの人に言っていたが、反応してしまったパターンの、たまにある恥ずかしいやつかもしれない。

「秋元くんであってるよ!」

そう聞いてほっとする。

「ごめん、自分に言ってると思わなくて。」

「こっちこそ、寝てたのに起こしてごめんね。もしかしたら、体調悪いのかと思って...大丈夫?」

そう心配する声を掛けながら、牧さんはまだ来ていない岡崎さんの席に腰かけた。

「いや、全然大丈夫。ちょっと眠たかっただけだから。」

「わかる!朝眠いよね~。私、全然朝起きれないもん、眠すぎて」

「それにしては元気だね。」

「そうかなー?」

「うん。...。」

会話が続かない。いつも、いつもこうだ。今までの学校生活でも班やグループになった人たちから話しかけられたことは何度もある。話題を振ってくれたり、質問してくれたりしたけど、僕は最低限のことを答えて後は黙ってしまう。勇気を出して、何か聞いてみたりすることもある。しかし、その後どういえばいいのか、何を言うのが正しいのか考え続けて、結局「うん」以外の返事以外、言葉が何も出てこない。本当はもっと会話したいし、話したいことだってたくさんある。僕みたいなのをコミュニケーション能力が低いというのだろう。こんな感じで頭の中でべらべら独り言を連ねることいかできない自分に嫌気がさす。だけど、今日の僕は違う。昨日、変わろうと決めたんだ。自信をもて。ちゃんと考えて頭も口も動かすんだ。心の中で自分を鼓舞した僕は小さく一呼吸してから口を開いた。

「あ、あの牧さん。聞きたいことあったんだけど、いい?」

「うん、どうしたの?」

「えっと...いつも違うカチューシャ?とかつけてるよね。」

「そうなんだよー。毎日気分で変えてるんだー」

牧さんはそう言いながら、窓にうっすら反射する自分を見ながらカチューシャに触れ、位置を微調整する。結局、僕はまた「へぇー」とだけ言って、その姿を眺めることしかできていなかった。納得のいく出来になったのか、にこにこしながら窓に映る自分を見ている牧さんはとても可愛かった。

「てか!よく知ってたね!いつも変えてるってこと」

にこにこしていた牧さんがふと思い出したかのようにそう言う。これは一体、どう答えるべきなのか、僕は焦って目が泳ぐ。

「えっ...えー、まぁなんとなく...?視界に入った時いつも違ったなぁ、みたいな感じで...。」

「そっか~。流石にいつも変えてたら気付くよね~」

牧さんはうんうんと小さく頷く。

「...それでその、どのくらい持ってるんだろう?って思って...。」

「それ、うちも気になるわ」

いつの間にか牧さんの後ろに立っていたその人は、自分の席に座る牧さんの頭を撫でながら、少し眠そうな声でそう言った。その声を聞いた牧さんは「あっ!」と、頭を撫でる腕を両手で掴み、持ち上げてから真上を見る。

「しーちゃんおはよ!」

「よっ、おはよう。」

「今日来るのおそかったね~」

「あぁ、ただ寝坊した。あと天気悪くて外出んのだるくてさぁ。」

そんな会話を続けながら岡崎さんは牧さんのほっぺたを引っ張ったり、突いたりして楽しそうにしている。いつものことなのか抵抗する素振りもなく牧さんはただ「エヘヘ~」と笑っていた。二人の会話を聞きながら、目の前のほのぼの空間を邪魔しないよう、静かに外を眺めていた僕に岡崎さんが視線を向ける。

「んで、そうだよ紗由。これいっぱい持ってんのは知ってるけど、今どのくらい持ってんだ?」

はっ!と思い出したかのように牧さんもこちらを見る。

「そうだ!その話してたんだ!ごめん!秋元くん」

「い、いや!ただちょっと興味あったってだけだから全然謝らなくていいよ。」

それよりも今は、この間もずっと牧さんの頬をノールックでもちもちしながらこちらをガン見している岡崎さんの方が気になる。すごい見てくる。ちょっと、いやかなり怖い。岡崎さんは身長が高めだ。見下ろされているこの状況は、座っている僕からするとさらに大きく見え、圧が増して余計怖い。別に悪い、怖い人じゃないのは知っている。ただ、すごい見てくるのが怖い。

「そうだな~...数えたことないからわかんないかも‐?でもいっぱいある!」

「そ、そうなんだ。」

「これ以外のヘアアクセもいっぱいあるから合わせたらもっと多いかも!今度暇な時に数えてみようかなぁ?」

へぇー...どれだけあるんだ一体...?

「ヘアアクセ集めるの好きなの...?」

「うん!」

元気に頷く彼女の笑顔を見ているだけで、こちらも元気を貰える。

「この前行った時からまた増えたのか?」

「うーん...ちょっとだけ!」

「ちょっとって...。あんたのちょっとはいつもちょっとじゃないでしょ...。」

「そんなことないよ!」

「じゃあ何個くらい買ったんだ?」

牧さんは必死に思い出そうとしていた。僕は二人の会話ただ聞いてるだけの人になっていたが、いろいろ知れて少し楽しい。

「3個...。多分3個!」

「え、あれから1週間くらいしか経ってないだろ?」

「えへへ~、そうだっけ?」

1週間で3個って多いのかな...?と、自分の知らない世界の話を聞いて、わからないことを考える。もちろん、多いのか少ないのか知らないけど。

「...」

その後もなんとなく二人の話が聞こえてくる中、僕はぼーっと机を眺めていた。そして、なんとなく顔を上げると今度は2人ともこちらを見ていた。

「...ん?」

「全く動かずに俯いてたから、やっぱり体調良くなかったのかなぁ?って思って!本当に大丈夫?」

牧さんがかなり心配そうに言う。

「!いや全然大丈夫!これでいつも通りだから気にしないで。」

「そっか~」と言ってホッとする牧さんをまた撫でていた岡崎さんが今度は口を開いた。

「そういや紗由。いつの間に秋元と仲良くなったんだ?」

「仲良いっていうか...そう!私たち昨日、お友達になんだよ!ねっ!」

「は、はい、牧さんに御友人として認めて頂きました。」

「なんでそんなかしこまるってるのっ!」

「そうでしたか。紗由お嬢様が御友人にしてくださったのですね」

「ちょっと!しーちゃんまで!私が友達にしてあげたみたいになってるじゃん!対等にお友達になったの!」

くすくすと笑う二人とは対照的に牧さんは可愛く頬を膨らませ怒っているように振舞っている。「ごめんごめん」と笑いながら岡崎さんは牧さんをなだめていた。

「そうか。で、どういう経緯なんだ?」

「昨日ね、しーちゃんが居ない時に秋元くんがお友達になりたいって言ってきてくれて、お友達になったんだよ!」

「あー、あん時か」

「そう!」

「...」

「...」

「えぇ、そんだけ?他になんかあったでもなく?」

「そうだよ~」

「ふーん。変わってんな。てか、な―」

何か言おうとした岡崎さんは言いとどまり、僕を見た。

「―んでもないわやっぱ」

「そう?」

「なぁ秋元、今からうちとも友達ってことで。」

「え...。」

「おい、えってなんだよ。しばき上げてやろうか?」

「い、いや違う!ただ驚いたというか。むしろ、友達が増えて光栄です。」

「まぁあれだよ。紗由の友達はみんなうちの友達ってことよ。これからよろしくな」

「こっちこそ、よろしく...!」

二人の会話を真ん中で聞いていた、僕の視界の端に映る牧さんの顔は嬉しそうにニコニコしていたように見えた。

「さてと、そろそろお時間ですよお嬢様」

岡崎さんはそう言うと、自分の席を占領する牧お嬢様を持ち上げ椅子から退かした。少し抵抗して机に張り付こうとしていたが軽々と持ち上げられていた。牧さんは一瞬、悔しそうにしゅんとしていた。岡崎さんと僕に「ばいばーい」と手を振りながら自分の席へと戻っていった。

 チャイムが鳴り先生が教室にやってくる。さっきとはまるで別の空間のように静かだ。その教室に一人声を響かせる先生の話に耳を傾けながらさっきのことを思い出す。たった数分の出来事だったが、いろんな楽しさと嬉しさがあった。とても長く、同時に短くも感じた時間だった。しかも、昨日に引き続き友達がまた増えた。この先どうなるかまだまだ分からないが、今日も一歩、進むことができた。だけど、まだ今日は始まったばかりだ。この一歩を無駄にしないよう、今日も一日、頑張っていこう。ふと外を見ると、色のない暗い空の隙間から、光が差し込み始めていた。

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