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君が見た、太陽の色。  作者: 輝嬉
プロローグ
1/6

見つけた、春。踏み出す、秋。

 季節は春。今日は天気がいい、快晴だ。桃色の雨が降り注ぐ道を、自分のペースで歩む学生たち。その一人、僕も少し足早に進んでいく。いよいよ今日から高校生活が始まる。新しい場所で3年間過ごす不安、すでに学校面倒だ、帰りたいというだるさ、これらを混ぜた主にマイナスな気持ちを引きずって登校することになるだろう、そう思っていた。しかし、入学式の日に出逢ったあの人の影響でそれは変わった。

 入学式の日は堅苦しいため、あまり好きじゃない。それに、色々話が長すぎて眠くなってくる。そして、初めての教室では、もはや慣れた一番前の端。名字のおかげでこの場所は毎年ほぼ確定しているためだ。なんやかんやで話が終わり、解散になる。先ほどまでの静かさが嘘のように賑やかになる。今日仲良くなったのか、前からの知り合いなのか、やたらみんな仲良さそうだ。正直、羨ましいけど、話しかける勇気はないため、スッと教室を出て、一直線に外へ向かった。そのまま帰ろうとしたが、校舎前の木の下に落とし物なのか白い布らしき物体を見つけてしまった。無視できない性格の僕は、吸い寄せられるように近づき確認する。案の定ハンカチだ。風に飛ばされて運が良いのか悪いのか、ここで止まっていたようだ。結構目立っていたのに、誰も拾ってあげなかったのだろうか...。綺麗な白いハンカチなのに、汚れてしまっている。可哀そうだ。付いている土を払った後、持ち主の手掛かりがないか確認すると、名前の刺繍が入っている。

「SAYU...?」

筆記体の凝った刺繍のためおしゃれだけど、ちょっと読みにくい。こんな大切なもの落とさないように気をつけてほしい。そう思いながら入口へと引き返す。クラスと名前が書いてある紙を順に見て、”さゆ”と読めそうな名前の人を探す。何人居るかもわからないため一通り確認すると、ラッキーなことに一人だけだった上、同じクラスの”牧紗由”さんという人が判明した。教室からは1番に出ていたはず。ということで、早くも二回目の教室。靴を履き替える時に、先ほど覚えておいた番号の下駄箱を見て、まだ帰っていないことを確認する。しかし、ここで気が付く。顔を見たところで誰がだれかわからない。頭を抱えながら教室へと向かう。

「...…。」

覗いてみたところでわからない。番号の席に行ってみてもいなかった。仕方がないため、近くにいた女子集団に聞いてみる。

「あの、牧さんってどの人かわかります...?」

「牧さんってそこの席の子だよね?」

「そうそう、あのちっちゃい子じゃない?」

「うーん、今教室にいなさそう」

「そっか。ごめん急に、ありがと。」

「全然だよ~」

「見かけたら探してたって言っとくよ!えっと、名前なんだっけ?」

「あ―」

「秋元くん、だよね?」

「あ、はい。」

「おっけー。」

軽く会釈して、その場を後にする。とりあえず、小さい女子という情報はゲットしたため、それを頼りに探すことにいた。教室で待っているのもいいと思ったが、これは大切なもののはず。今も必死に探していたら申し訳ないし、はやく届けてあげたいため探す方を選んだ。

 今日行った教室、体育館、そして廊下を一通り見回ったが見当たらなかった。途中、すれ違った可能性もあったが、やっぱりわからなかった。もう一度、体育館を覗きに行ったが、入学式の片付けをしている数人しかいなかった。牧さんの荷物も机に置いたままだったし、こんなことなら、教室で待っていた方が確実だったなと少し後悔する。

「はぁ...。」

どうしようか考えながら教室に戻っていると、階段に座り込んでいる女子を発見した。俯いててよくわからないが、小さいしすごい落ち込んでそうな顔をしてそう。僕が探していた牧さんなのだろうか?違っても流石に心配になるから声を掛けることにする。

「あの…どうしたの?」

「ぁ…」

彼女は驚いたように顔を上げ、こちらを見た。今言うのはだいぶ不謹慎だが、とても可愛い子だ。

「えっと、大丈夫?具合悪いの?」

そう聞くと、彼女は横に首を振る。

「その...ハンカチ落としちゃって...見つかんなくて...」

今にも泣きそうな声で言う。どうやらこの人が牧さんらしい。それなら、と言ってハンカチを取り出す。

「そのハンカチってこれだったりする?」

ハンカチを見た牧さんは大きく頷いた。ハンカチを渡すと、心底安心していた。

「見つけてくれてありがと!ほんとにありがと!いっぱい探したのに見つからなくて、もうダメかと...思って...」

そう言って急に泣き始める牧さん。...それほど大切なものだったのか。なんだかこっちも嬉しくて泣けてくる。受け取ったハンカチで涙を拭こうとしていたため、慌てて止めてポケットティッシュを渡す。

「それ、学校出てすぐの木の下に落ちてて。せっかく綺麗なハンカチなのに汚れちゃってて...。」

「そっか...」

...どうしよう。こういう時なんて言えばいいのかわからなくて、少し気まずい。

「まあ、見つかってよかった。」

「うん…!」

「じゃ、じゃあ、僕はこれで...。」

そうして、逃げるように退散しようとする僕を牧さんは立ち上がって引き留めた。

「秋元くん!」

「は、はい?」

振り返ったその時、牧さんとばっちり目が合った。

「ハンカチ、見つけてくれてありがと!!」

それはまるで、直視し続けると焼けてしまうほど眩しく、だけど目が離せないほど綺麗な笑顔だった。僕は初めて知った。心を奪われたという感覚。一目惚れするという感覚。人を好きになるという感覚を。

 翌日の朝、いつもより早く目が覚めた。昨日のことを思い出すと、まだ少し落ち着かない自分がいた。牧さんともう一度話してみたいと自然に考えてしまっている。昨日までとは別の世界にいる気分だ。世界が明るく見える気もする。そんな僕はいつもより高いテンションで家を出てきたが、教室の前に来ると何故かいつも通りに戻り、こそこそと自分の席へと向かっていた。…こうなることは知っていた。人はそう簡単には変われない。昨日はやらなければいけないことだったため、行動出来ていた。しかし、話しかけたいとなると、別だ。やけに緊張する。話しかけに行く勇気が一切湧いてこない。そうして何もしないまま一日が終わっていく。また、一日、一日...。気が付けば夏休み。結局、一度も話せずに学期が終わった。そして、夏休みもあっという間に終わり、秋が始まる9月になった。

 夏休みが明け、変わらない日常が始まる予定だったが、僕の気持ちに変化があった。きっかけは単純なものだった。気分的に、今年はずっと引きこもっていた去年までの夏休みから脱却し、外に出てみようと思っていた。見ていたアニメや漫画に影響されたのもある。外に出て散歩したり、少し旅に出たりしたのだ。新しいものに触れ、新しい景色を見る。こうしているうちに、もっと新しい世界を見てみたいという気持ちが生まれていた。今を無駄にしないよう即行動に移そう、そう思える考え方と行動力も少しだけ付いていた。もちろん、これがいつまで続くかはわからない。わからないなら、今やれること、気持ちが続く限りやってみよう。そして、その気持ちのまま学校が始まった今、僕は一歩でも前に踏み出そうと、そう決意を固めていた。

 休み時間、彼女は一人で本を読んでいる。珍しいことだった。いつもはお友達と楽しそうに話しているが、今日はまじまじと本を読んでいる。正直、邪魔したくないと思い躊躇ったが、ここで逃げたら終わる気がした。覚悟を決め、立ち上がる。立ち上がった瞬間から急に緊張感が増す。うるさいほどの鼓動を無視し、冷たい手で拳を握り、小刻みに震える脚をゆっくり進め始めた。なんて声を掛けよう。そう考えることを忘れていたが、もう足は止まらない。

「なん、なに読んでるの?」

…噛んだ。ちょー恥ずかしい。耳が熱くなるのを感じる。何も考えてなかった僕の口から出た言葉に、本を閉じ振り向く彼女。

「えーっと、あっ!秋元くんだっけ?どうしたの?」

「いや...あの、その本なに読んでるのかなーって。」

「小説だよ!友達からね、これ、面白いから読んでみてって!でも、字ばっかりで読む気になれないんだよ...」

「へー。どんなやつなの?」

「んー、ミステリー?らしいんだけど...難しい字も多いし内容よくわかんないかも~?」

「そうなんだ。」

そうなんだ。って。会話広げる気がない自分に腹が立つ。自分から声掛けといてその反応はないだろ。

「そういえば、どうしたの?」

やばい。話しかけたはいいものの、ここからどうしよう。このまま「いや~特になんもないよ~ん」って帰るのも不自然だし、堂々と「君と話したかったんだ!」とか言う勇気もない。そんなこと出来るならとっくの昔にしている。とりあえず何か言おうと口を動かす。

「ぇ...えー、んーっとあの、友達に...。」

「友達?あっ!もしかしてしーちゃんに用あったの?それなら私から伝えとくよ!」

なんていい子なんだ。とか思って感動したが今は違う、そういう場合じゃない。

「んー.........」

「どうしたの?」

「あ、いや。その...牧さんと...そのー...友達になりたいなぁ...みたいな。」

「突然だね⁉いいよ!」

驚いた牧さんは笑いながら、即答した。あっさりとしすぎて少し混乱する。

「でもなんで私なの?」

「んー...な、なんとなく?」

「なんとなくなんだ〜?」

「うん...。」

「うんって!ほんとになんとなくなの⁈」

「そう。友達になったら楽しいかなって。」

「ちゃんと理由あるじゃん!そっか〜。じゃあ今からお友達ってことで!よろしく秋元くん!」

「はい、よろしくお願いします。」

お友達感ないじゃん!と、笑う牧さんを見て少しホッとした。

「...。」

「他に何かあった?」

「いや…。それだけだった。友達になってくれてありがとう。これからよろしく。」

この後なにを言えばいいのか、どうすればいいのかわからなくなった僕は、逃げるためのセリフを早口で唱えた。

「秋元くん、ちょっと変わってておもしろいね!こっちこそよろしくね~」

「じゃあまた。」

「うん、またねー!」

軽く手を振る彼女に小さく会釈して風のように席へ戻る。机に顔を伏せた僕の中には色んな感情が湧き出ていた。初めて会話出来た嬉しさで飛び跳ねたい気持ち。ちゃんと会話出来なかった後悔と反省。あまりにもスムーズに友達なった故の実感の湧かなさ。他諸々。全てが混ざって、人生で今まで感じたことのない気分を今味わっている。手足から熱を奪っているかの如く、熱くなる顔と耳。でも、悪くない感じだ。形はどうであれ、逃げずに、やっと一歩踏み出せた。まずはそんな自分を褒めよう。

 放課後、9月なのにまだ続く、蒸し暑さを加速させるような西日が射す帰路。眩しく、焼けるような不快な光が道路も建物も、町全体を染め上げる。でも、今日はやけに綺麗に輝いて見える。嬉しさと達成感は見慣れた風景でさえ、新しいものへと変化させるのか。

「まずは一歩。」

改めて気合を入れ直した僕は、ここからスタートを切った。

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