表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

貴方を愛でる為ならば

掲載日:2025/11/07

 ああ、早く殿下にも、お伝えしたいわ。


 放課後。

 私は、同じ生徒会役員の皆様に要件を伝えた後、一人、生徒会室へ向かいました。

 はやる気持ちを抑え、静かに生徒会室へ入室します。

 室内には、生徒会長で、我が国の第一王子でもある王太子殿下が、一人、執務をされております。


 殿下は、机に高く積まれた書類を捌くことに、集中しているのでしょう。

 下を向いたままペンを走らせ、顔を上げる気配がありません。


 ああ、真面目な表情も凛々しくて素敵。


 殿下は集中すると、狩りをする動物のように、周りが見えなくなる傾向にあります。

 私の入室に、全く気づいていないと丸分かりですから、観察し放題です。


 絨毯で足音がしないのは、好都合ね。


 婚約者の端正な顔立ちを堪能しながら、こっそりと壁際を歩いて殿下の背後へ回り込みます。


「殿下、卒業パーティーで、私と婚約破棄、されようとしていますね?」

「うわっ!」


 ビクリと肩を揺らして、左耳を押さえながら振り向く、耳弱な殿下。

 目はまん丸に見開かれ、琥珀色の美しい瞳に、私が映っています。


 やりましたわ!殿下の貴重なビックリ顔、頂きました!

 実にお可愛らしい。こっそり近付いた甲斐がありましたわ!


「全く、驚かせないでくれ。急に出没したかと思えば、妙な事を」


 私の視線を避けるように、殿下の美しい琥珀色の瞳が揺れて、書類にサインしている右手が、少し震えています。


 動揺している時の癖が出ておりますね。

 バレバレですのに、必死に誤魔化そうとする姿もまた、お可愛らしい。


 現在、私と同じ十七歳の殿下は、婚約した十歳の時と変わらず、大層努力家で真面目ながら、少し抜けている所が可愛らしく、また、成長するに従って、男性としての格好良さや色気も加わり、益々愛で甲斐があります。


 とは言え、公爵令嬢の私は、王太子である殿下の婚約者らしく、淑女の手本となるよう、振る舞わなければなりません。


 婚約当初より芽生えた、殿下への恋焦がれる熱い気持ちで、脳内が大騒ぎしていたとしても、悟られないよう、グッと感情を押し隠して表情筋を制御しつつ、常に冷静で物静かな令嬢を装っております。


 ですから、殿下は私に愛でられているなんて、思いもしないでしょう。


「ふふ、申し訳ございません。私、そんなに妙な事を言いまして?」


 本当は、全てを存じ上げておりますが、知らないフリをして、わざとらしく小首を傾げます。


「言った。婚約破棄なんて発想が、どうして出る」


「そうですねぇ、最近殿下が親しくされている男爵令嬢。全く身に覚えはないのですが、『殿下の婚約者に様々な嫌がらせをされた』と皆様に吹聴しているようで、彼女と特に親しくしている生徒会役員の令息方は、碌に調べもせず、『彼女を虐めるな』と私に文句を言いに来たのです。その事は、殿下もご存知だと伺っておりますが?」


 なんて言いながら、近くにある椅子を引き寄せて、殿下の反応を間近で観察する為に、殿下の左隣に腰かけます。


「ああ、それは聞いた。酷い話だ。虐めなんて許せないな」


 殿下ったら、生徒会役員の令息と同様に、男爵令嬢の虚言を真に受けておりますのね。

 あらあら、敵意丸出しの鋭い目をされて。

 それもなかなか凛々しくて素敵ですわ。

 ただ、私をお疑いだとバレバレです。


 周囲に他の方がいれば、王太子らしく、もう少し冷静に取り繕ったでしょう。

 ただ、今は、十歳から付き合いのある私と、二人きりです。

 きっと、気持ちが緩んだのでしょう。


 例え敵意でも、誰にも見せない貴重な殿下の本性を見られるなんて、大歓迎ですわ。

 嬉しくて頬が緩みそうになりますが、悲しげな表情をしておきましょう。


「本当に酷いのです。複数の男性に囲まれて、私の言い分は何一つ聞いて頂けず、一方的に責められたのです。本当に恐ろしい思いをしましたわ。紳士としてあるまじき行為だと思いませんか?」


 ふるふると弱々しく震えつつ、殿下が卒業パーティーで私になさろうとしている事について、遠回しに責めているつもりです。

 伝わったでしょうか?


「……そう、だな」


 否定も肯定もされませんね。

 ですが、何か思ってはいるようです。

 その証拠に、殿下のペンを握る手が完全に止まって、集中力が切れています。

 お仕事の邪魔をするのは、私も申し訳なく思いますので、そろそろ本題に入りましょうか。


「それで思いましたの。皆様に納得して頂くには、男爵令嬢との関係が良好だと分かって頂くしかないと。それで、家を通して二人だけでお話させて頂きましたのよ」

「知らなかった。彼女から何も報告を受けていないぞ」


「でしょうね。彼女は隣国の第二王子殿下と婚約して、早々に学園を辞めましたから。今頃隣国で、盛大な結婚式を挙げているでしょう」

「は?結婚だと!?彼女は私との結婚を望んでいた。愛しているのは私だけだと……」

 

「あら、殿下と結婚したいと望む令嬢は、沢山いらっしゃいますのよ。彼女だけではございませんわ。おモテになる殿下なら、既に、ご存知かと思っておりました」


 再び小首を傾げて微笑めば、あらあら、珍しい。

 殿下のお顔が青ざめています。

 余程ショックだったのですね。

 お可哀想に……なんて、弱った殿下もこれはこれで可愛らしくて、癖になりそうです。


 それにしても、私に隠れて男爵令嬢と二人でいると思ったら、まんまと甘言と、大きなお胸の色仕掛にやられるなんて。

 殿下も案外チョロかったのですね。


 因みに彼女は、婚約者の有無に関係なく、地位が高く容姿が良い令息方に狙いを定めて、同じような手法で虜にしておりました。


 殿下はお気付きで無いようでしたが、私は男爵令嬢の性質をよく存じ上げておりました。

 ですから、彼女の邸を訪問した際、このように切り出したのです。


「私、貴女とは良い関係でいたいと思っておりますの。つきましては、限られた方しかお誘いしない、我が公爵家で開かれる夜会に、ご招待致しますわ。心配なさらなくても、ドレス一式を贈りますし、準備はお任せ下さいませ。きっと楽しんで頂けますわ」


 男爵令嬢が、公爵令嬢からの正式なお誘いを断れないと分かった上で、お誘い致しました。

 勿論、彼女と良い関係を築きたいと思っていましたし、楽しんで頂きたい気持ちも嘘ではありません。


 そして、約束の夜会当日。

 侍女達とドレス一式を持参して男爵家へ訪問しました。


 最初は警戒心剥き出しの男爵令嬢でしたが「こんなに素敵なドレス、着たことがない。これが私!?綺麗」なんて、鏡の前でうっとりして、私が用意したドレスや侍女達の仕事ぶりに、大変満足いただけたご様子。

 彼女の為に、準備した甲斐がありました。


 夜会は婚活の場でもありますから、婚約者の決まっていない彼女に楽しんで頂ければと、隣国から招待していた、見目麗しいと有名なのに、未だに婚約者のいない第二王子殿下を紹介致しました。


「こんなに素敵な王子様なのに、婚約者がいないのですか?え?結婚に身分は拘らない?嘘!?私とか、どう、ですか?あ、御免なさい、私みたいな女、好みじゃない、ですよね?」


 早速、男爵令嬢は、隣国の第二王子殿下に上目遣いでアピールし始めました。

 彼女の好みど真ん中だったようで、何よりです。


 大きなお胸と、小動物のような可愛らしさで庇護欲を誘い、数多の男を虜にしてきた男爵令嬢に、隣国の第二王子殿下は、秒で陥落。


 その場で跪き、男爵令嬢の手を取ってロマンチックに求婚するとは、流石に驚きました。

 余程切羽詰まっていたのでしょう。


「見目麗しいけれど、束縛が激し過ぎて無理」と婚約する度に令嬢に逃亡され、その全員が今も方不明だそうです。

 きっと、令嬢側から王家に婚約破棄なんて出来ませんから、内密に逃亡して、どこかに匿われているのでしょう。


「婚約者が相次いで行方不明になるので、第二王子と結婚すると死ぬ。なんて悪い噂が広がってしまい、国内での婚約者探しを断念して、他国で婚活する羽目になった」と隣国の第二王子殿下は、ぼやいていましたから。


 さて、隣国の第二王子殿下から求婚された男爵令嬢の返答は、私の予想通りでした。


「はい、喜んで。宜しくお願いします!」


 男爵令嬢が、今まで虜にしてきた男達を、全て捨てた瞬間でした。


 隣国の第二王子殿下は、手に入れた女を今度こそ逃さないとばかりに、流れるように男爵令嬢を客室へと誘導すると、そのまま熱い夜を過ごして既成事実を作り、翌朝から諸々の手続きを最速で終わらせて、午後には男爵令嬢を伴って、仲睦まじい様子で隣国へと旅立ちました。


 愛の重い束縛王子は、今度こそ手に入れた婚約者の逃亡を許さないでしょうから、きっと彼女は二度と、我が国を訪れる機会は来ないでしょう。

 もしかしたら、外にも出して貰えないかもしれませんね。


 そんな訳で私が責められる理由はもうありません。

 ですから、男爵令嬢に惚れて尽くしたにも拘わらず、秒で捨てられた生徒会役員の皆様に、その事実を突き付けたのでした。

 殿下にお伝えしたように。


「男爵令嬢は、とっても幸せそうでした。彼女には大変感謝され、関係は良好になりましたし、生徒会役員の皆様にも、やっと分かって頂けましたの」

「そう、か。それは何よりだ」


 あら、殿下が凹まれておりますわ。

 令嬢に言い寄られはしても、捨てられる経験は初めて、ですものね。

 これはお慰めしなければ。


「殿下だけではなく、皆様も寂しがっておられましたわ。彼女は他の方を選びましたが、私はずっと殿下一筋です。ですから、婚約破棄なんて考えないで下さい、ね?」


 殿下の頬にそっと手を添えて耳元で囁けば、ビクリと殿下の肩が揺れました。

 反応が素敵。


「っ、だから、私は、一言も婚約破棄するとは言っていない。君が一方的に言っているだけだ」

「あら、それは失礼致しました。てっきり殿下は男爵令嬢をお選びになるものと思っておりました。常に彼女の肩を持っているようでしたし?」


 殿下の顔を真っすぐ見つめると、明らかに目が泳いでいます。


「っ、そんなことはない」


 あらあら。全てを無かった事にしようとしていますね。

 良いでしょう、そういうことにしてあげます。

 その為にフラグを折ったのですから。


 それから、殿下は男爵令嬢に捨てられて懲りたのでしょう。

 令嬢に言い寄られても決して靡かず、「婚約者がいると知りながら、擦り寄る神経が知れない」と不快感をあらわにして、私だけを見て下さるようになりました。


 そして迎えた卒業パーティー。

 私は殿下に贈って頂いたドレス一式を纏い、予定通り殿下にエスコートされて会場入りしてからは、婚約破棄されることなく、無事に卒業パーティーを楽しく過ごしたのでした。


 卒業パーティーが終わり、王家の馬車で邸に送って頂いている時、突然、殿下が言うのです。


「思ったのだが、君は私の反応を見て楽しんでいるだろう」


 長年内緒にしていましたのに、とうとうバレてしまいました。


「あら、お気付きになったのですか?可愛らしい殿下をこっそりと愛でるのは、何よりも幸せでしたのに」

「かわ!?私が、か?」

「あら、照れていますの?最大級にお可愛らしいですわ」

「っ、止めてくれ。可愛らしいのは君だけで十分だ」


 殿下が初めて私を可愛らしいと、おっしゃったわ!

 殿下の顔を覗き込めば、ほんのり頬が赤くなっているではありませんか!

 私にそんな表情をしてくださるようになるなんて、感動です!


「まあ!殿下がデレていらっしゃる。これは貴重ですわ。もっとお顔をよく見せて下さいませ」


 殿下の顔に手を伸ばしたら、手首を掴まれて阻止されてしまいました。


「っ、ちょっと黙ろうか」

「!!」


 まさか唇で口を塞がれるとは思いませんでした。


 今後も、私達の幸せを邪魔するフラグは、早々に折って差し上げますわ。

 殿下の可愛らしい反応を愛でる、幸せな日々を守る為に。


最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

今回は、登場人物が少ないので、私とか殿下で成立してしまう。と思い、敢えて名前を出しませんでした。

お気づきになった方、流石です!

皆様にとって、少しでも良い暇つぶしになれたなら、幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ