9.忘れられた地へ
蓮が描いた一枚のスケッチ。
赤く染まる丘、古びた祠、そして一面に咲き誇る彼岸花――
「この場所……見覚えがあるんだ。でも、どこかは分からない。描いているときも、ただ“手が動いた”だけだった」
蓮がぽつりと言ったその絵に、七海は心臓が跳ねるのを感じた。
「ここ、夢の中で見た。巫女の姿の私が、ひとりで祈っていた場所……」
それが、“始まりの場所”なのかもしれない――
ふたりは絵の風景を手がかりに、調査を始めることにした。
*
地元の郷土資料館。
分厚い文献をめくるなかで、七海がふと目をとめた。
「火の神を祀る祠、秋焔の丘。
かつて巫女が生贄として捧げられたという記録あり。
季節外れに彼岸花が咲くとき、扉が開くとされる」
「秋焔の丘……」
蓮がスケッチを取り出す。そこに描かれていたのは、まさにその地形だった。
*
二人は、風に吹かれながら小道を登った。
小高い丘の上、忘れ去られたような祠がぽつんと佇んでいる。
祠の周りには、一面の彼岸花。
その色は、夢で見たものとまったく同じだった。
七海は無意識に歩み寄り、祠の前に立った。
「この場所で……“選ばれた”んだ」
どこからともなく、そんな感覚が押し寄せてくる。
そのとき――
風が強く吹き、祠の扉が軋みながら開いた。
中には、古びた巻物のような文書が一つ。
蓮が手に取り、慎重に開くと、そこには異様な文字列と共に、一枚の絵があった。
そこに描かれていたのは
白衣をまとい、赤い花に囲まれて炎の中に立つ巫女
――まさに、七海の夢そのものだった。
「やっぱり……全部、現実にあったことなんだ。夢なんかじゃない」
七海の目に、また涙が浮かぶ。
「じゃあ、ここに答えがあるかもしれない。
どうすれば、この輪廻の輪から抜けられるか」
蓮が強くそう言ったとき、
七海の耳元で、誰かの声がした。
「封を解けば、罰も終わる。だが――代償を払えぬ者は、再び命を落とす」
ふたりは互いを見つめ合う。
呪いは確かに存在している。
だが、それを終わらせるための道も、今まさに目の前に現れようとしていた。