18.輪廻の果てに
季節外れの風が吹く、静かな朝。
七海は、カーテン越しに差し込む光で目を覚ました。
隣には、眠そうに目をこする蓮の姿。
その寝癖すら愛しく思えたのは、もうすっかり“日常”の証だった。
長い旅路の果てに、二人はやっとお互いを見つけ出したのだ。
「おはよう、蓮」
眠そうな声で囁くと、蓮はぱっと目を開けて笑う。
「七海……やっと、君に会えたね」
二人の指が絡み合い、離れることのないようにぎゅっと握り合う。
どんな転生も、どんな時代も超えて、今ここにいるこの奇跡を噛み締めながら。
「何度も何度も、生まれ変わって探し続けて……やっと見つけたよ」
蓮の声は、嬉し涙で震えていた。
「私も。もう離さない」
七海も涙をこぼし、笑顔で答える。
言葉は少なくても、全身で伝わる確かな想い。
運命に翻弄されながらも、今度こそ逃げずに繋がった絆。
七海は夜勤を辞めて昼間の仕事に就き、蓮の画室は日の光が差し込む明るい空間に変わった。
二人で選んだ小さな家は、庭に彼岸花が咲く。
毎朝の朝食のテーブル、笑い合う日々の会話、買い物の帰り道に手をつなぐ。
そんな些細な日々が
かつて何度も失われてきた“願い”だったことを、二人は知っている。
「こんな日常が、ずっと続けばいいね」
蓮が絵筆を置き、七海の手を握りながら言った。
七海は笑顔でうなずく。
「うん、ずっと一緒にいようね」
二人は新しい朝食を一緒に作り、蓮は七海のために描いた小さな彼岸花の絵をそっとテーブルに置く。
「この花みたいに、君と僕の幸せもずっと咲き続ける」
七海は笑いながら、その手を包み込んだ。
庭の白い彼岸花が風に揺れ、二人の未来を優しく祝福しているようだった。
*
夜、星空の下で寄り添いながら話す。
「またいつか、違う時間や場所で会えたらいいね」
七海がぽつりと呟くと、
蓮は真剣な眼差しで答える。
「どんな時も、どこにいても、必ず君のそばにいるよ」
それはもはや願いではなく、固い約束だった。
二人の距離は決して離れない。
世界が終わっても、心はずっと繋がっている。
「君がいるから、僕は強くなれる」
蓮が静かに呟く。
「私も、蓮とならどんな未来でも歩いていける」
七海も微笑みを返す。
その言葉は重くもありながら、軽やかで、まるで愛そのものの温度を宿しているかのようだった。
二人は手を取り合い、愛を確かめ合う甘く穏やかな時間を味わった。
そして――
「ありがとう、蓮」
「ありがとう、七海」
何度も巡り会い、紡いできた物語はここで一つの幸せな結末を迎えた。
でも、それは終わりではなく、新しい「始まり」だった。
白い彼岸花が静かに揺れる庭の下、二人は未来を信じて歩み出す。
《終》
これまで、お付き合いいただきありがとうございました!