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05狂気の乱舞

 都市ジギタリス

 王国に属し人口三十万人を越える城塞都市。近隣では最大であり、ここより西には国などの文明が確認されていない。流れ者が多く貧富の差が特に激しい。過去に大戦があり石壁を築き激戦の後撃退したという話があるが、それを経験したものはすでにこの世を去っている。伝承も真実味が薄れ、戦いがあったということだけが確かというのが民衆の認識だ。

 王国から伝播した宗教があり女神を信仰している。信者数は年々増加しており比率は王国よりも多い。献金により教会の慈善事業も行われる。弱者救済を名目とし入信者には炊き出しや毛布提供などを行っている。都市には幾つか教会が点在するが信者数自体はそこまで多くなく、数十人に一人程度であり、割合は貧民層が高い。また、熱心な教徒も多くなく、一部を除き信仰心はあまり高いとはいえない。




 フォリスとマギアを乗せた漆黒の馬は都市に近づく。マギアは依然フォリスにしがみついて離れない。手の中に伝わる他人の横腹それも女性の。マギアはこんなに異性に触れたのは人生で片手の指で数えるほどしかなかった。


 都市は近い、すぐそこにある。今いる場所は検問所というところで、全部で五つあるうちの一つ西門である。つまりマギアは未知の文明から来たということになる。ここの門は比較的列がつくられないらしいが、数十人が並んでいる。馬車を牽いている者もいれば、徒歩の者もいる。服装は小綺麗な者がちらほら馬車に乗るぐらいで他は解れや土の汚れシミなどがありお世辞にも綺麗とは言えない。


 検問では様子を窺うに所持品の確認、都市での目的、どこから来たか、などなどを訊いている。安全面を重視する一般的な検問所だ。

 馬がほぼ停止したが、フォリスからは手を放さずというよりはどのタイミングで放せばいいのか分からないので、ずっと掴まっている。

 順番に並び、フォリスに都市ジギタリスのことを訊きながら待つこと数十分。前の馬車が通り抜け順番が回ってきた。

 面接を受けるかのような緊張を抱き、脳内で完璧な受け答えを反復する。ここで怪しまれて連行されれば嫌な結末が待ち受けるだろうし、フォリスに迷惑をかけるのは避けたい。手に汗握る。


 マギアは内気であり人前に目立つ注目されることが苦手で、メンタルの浮き沈みが激しく過度の不安や焦りを感じる体質を持っている。これは彼が幼少期に受けたトラウマや親の親の愛情不足に起因するものであることは本人も薄々分かっている。精神状態の不安定さを有しているため人間関係の構築には難があり出来たとしても、表面上の付き合いや上辺だけの友人しかできず関係性は希薄でしかない。


 予定されたことほど緊張が生まれる。何の前触れもなく唐突に起こる出来事のほうが対処できるほうで、圧迫感もない。だが、明確に計画されたことはそれ相応の準備をしなくてはならない。失敗するというリスクを考えると不安が募り焦りと葛藤が襲う。鳥肌が現れ、脚は震え腹痛で終わればまだましなほうで、頭痛や吐き気もついてくる。自分一人のミスで終わればいいが、連帯責任などで迷惑をかけるのは一番苦しい。マギアがそんなことを考えている間に馬は移動を終える。


 マギアは小さく深呼吸をする。


 フォリスが武装した兵と顔を合わせる。


 すると――


 衛兵はフォリスの顔を見るや否や


「その男性は誰ですか?」


 と訊いてきた。フォリスはただ一言、


「例の難民です」


 と。兵数名がこちらを訝し気に眺めていたがこちらは注意を向けない。衛兵はそれ以外何も訊かずにその門を潜らせた。数秒ほどのやり取りだけで終える。フォリスは顔パスで通れるほど信頼があるようだ。


 検問所を抜けた場所は石畳であり、煉瓦造りの住宅が無数に広がっていた。検問所から中心部に向かう一路は幅広で多くの馬車が往来している。マギアは異国情緒に心を震わせた。都市を覆い囲む壮大な石壁も息を呑むほど圧巻であったが、こうしたかけ離れた人間の日常というのを生で見れて新鮮さも相まって胸が高揚した。


 市街ではこれまでと違いスピードを出さずに比較的ゆっくりと馬を進める。


「バルサミナさんにはこれから教会に行ってもらいます。

 後のことは教会の方々が助けてくれるはずです」


 フォリスが肩越しに振り返り言葉を放つ。マギアはそれに肯定的に返事をする。


 大通りを挟んだ左右には食品・装飾品など様々な露店が並ぶ。一つ一つじっくり見ていきたいほど興味を注がれる。やたら周囲の人間から妙に視線を感じる。裸足なのは置いといて着ているこのスウェットが気になるのだろうか。人種というのもあるだろう。日本にいた頃は多少顔に自信はあったが、こちらでは分からない。顔の彫がそこまで深くないため目立つといえば目立つ。


 周囲の目線に気づきはじめ不安を感じる。無骨な表情、まるで睨んでいるかと錯覚するほど。

 マギアは無意識に掴まっていた手に力が入り、フォリスにしがみつく。まるで、子供が母親に抱き着くように。視界を狭めて背に隠れる。情けなく、男らしさがない。二十代半ばの大人がやるべきことではない。


「バルサミナさん?……」


「あっ!すいません……」


 マギアは我に返り、恥を紛らわすため猛省する。こっちに来てから落ち着けない。気を引き締める。


 通りを一度右折して、進むと雰囲気が変わった。家屋は崩れそうで、住人は薄汚れて皮脂で黄ばんだ解れきった服を着ている。顔に生気がなく、その場にただ留まる者や意味もなく徘徊する者が多い。怪我をしているものも珍しくなく、治療せず放置しているような跡が見られる。嫌なのが、臭いだ。腐卵臭や下水のような汚臭がじんわりと臭う。ここが貧民街だと断定するのは早計ではないと思うほど。衛生環境が劣悪なのだろう。ここで生活しているものが移民なら、覚悟した方がいいだろう。時折、鋭い眼光でこちらを見られている気がする。治安が悪い場所では何をされるか分からない。良くて追い剥ぎ。


 貧民街を真っ直ぐ進み、目的の場所に着いた。教会だ。

 ここらでは、一際大きい建物だ。大部分がパールホワイトを基調とした色合いをしており、年季の入った壁を見るに建立の深さを物語っている。壁の中央上部には十字架が飾られている。

 手を借りながら先に馬から降りる。フォリスは馬を留めに行ってる。それが終わり、教会の入り口に歩を進める。後に続き、フォリスが教会の両開きのドアを開く。

 中は想像と違く、手の行き届いた清掃をしているようで綺麗だった。一人を除いて礼拝堂には誰もいない。


 修道服を着た女性がいた。こちらに気づき歩み寄る。修道服が体のラインを強調する。バストとヒップが豊満で、ウエストや腕は細い。下半部はくるぶし丈で深いサイドスレットが入っている。歩くたびに太腿から白い肌が露出し下に黒ストッキングを履いているのが見える。十字架のネックレスが胸元にぶら下がっており、浅く被った白色のウィンプルからは金髪のロングヘアが出ている。


 フォリスに続いてこちらもその女性に近づく。

 フォリスが先に口を開く。


「アズラム森林で会いました。後のことは任せます。」


 そして、フォリスはこちらに振り返り、微笑を浮かべ告げる。


「バルサミナさん、私とはここでお別れです。また会えるといいですね。ではまた。」


 こちらの反応を待つことなくフォリスは来た道を戻る。傍を抜けるときフォリスの整った横顔が目に映る。

 ここまで、親切にしてくれた人と別れるのは心苦しいがフォリスに頼りすぎるのもよくない。まずは、衣食住を整えて最低限の生活はできるようになろう。この都市にいるんだから、また会えるだろう。


 別れの言葉に何と返せばいいか分からなかったが、言いたいことは一つ。


「助けてくださってありがとうございました」


 後ろ姿しか見えないフォリスにそう告げる。表情は分からないが、受け取ってもらったと思う。


 ドアが閉まる音が教会に響く。静かな空間だ。


 背の修道女のほうに振り返る。


「――あとのことは私に任せてください。私はシスター、クレイ・アルメリアと申します。

 あんたは……」


「マギア・バルサミナです」


「バルサミナさんですね。事務室にてお尋ねしたいことがあるのでついて着てください。」


 穏やかで優しさが籠った口調だ。


 クレイと名乗る女性についていく。フォリスよりは年齢は上そうだが、どうだろう。それにしても若い。多分年下だろうな。


 事務室と呼ばれる場所に入る。中はそこまで大きくなく机を挟み対面するように椅子が二脚だけ置かれていた。クレイがドアを抑えているため先に席に着かなくてはいけない。クレイがドアをしめ、鍵を閉めたのが見えた。上座下座概念があるかは不明だが、とりあえず下座についておこう。クレイがこちらの席に着こうとしたのか微妙に顔を顰めた。正面の席に着き机を挟み対面する。

 近くで顔を見てみて分かったが、かなりの美女だ。フォリスとは別の系統だ。大きく丸い目。カールのかかった長い睫毛。苺色の柔らかそうな唇。抱擁感のある優しい外見だ。それに胸が大きい。服の上からでも強調されたものがハッキリ見える。服装も下着が見えるんじゃないかってくらい刺激が強すぎる。目のやり場が困るな。彼女の奥の壁でも見ていよう。


「――ではバルサミナさん、いくつか質問させていただきます。」


「はい」


「見たところここらの人ではないと思いますが、どこの国から来たのでしょうか?」


「私はここより西から逃げてきました」


「何も持たずに?」


 疑いの目を向けられたような気もしたが、気のせいだろう。フォリスも信じたのだ。きっと大丈夫なはず。


「はい。とにかく逃げることだけ考えて、森に行き着きアルガイナさんに会いました。」


「なるほど……わかりました。難民ということですね。字は読めますか?魔法は使えますか?」


 言いながら、どっから出したのか分厚い聖書を見せてくる。


 読めない……まあそりゃそうだよな。


 そもそも魔法って当たり前に存在してるのか。

 魔法については隠したほうがいいかもしれないが、識字と同列に問いかけてくるということは使えた方が有利なのか?

 魔法が使える有無を調べることが出来るかもしれないから一応、使えると答えておこう。

 ファイアボールだけと答え、ヒールはあやふやにしておこう。


「母国の文字なら読み書きできましたが、ここに書かれた文字は読めません。

 魔法は火球を飛ばす魔法なら使えます。」


「魔法が使えるんですね。基礎魔術はどこまで使えますか?」


 基礎魔術?専門用語かなにかか?


「基礎魔術とはなんでしょうか?」


 無知のあまり意表を突かれたようだ。


「そうですか……

 なら、少し強引なことをしましょう。」


「えっ?」


 突然過ぎて、何をされるのか全く予想がつかない。


 雰囲気が変わった。優しさに包まれた彼女の態度が冷たいものへと豹変していく。



「――『ダウン』」



 瞬間、体の自由が失われた。動かない。逃げれない。意識が遠のく。


 マギアの意識が完全に途絶える。肉体は椅子から零れ落ち、地面に伏せる。完全に気を失った。





 ――硬い地面を感じる。瞼を開き、腹這いで周囲を見渡す。

 視線を動かす度に、首に違和感を覚えた。圧迫感があり、触って確認してみると分厚い首輪のようなものが装着されていた。


「ここは……?」


 薄暗く閉塞感のある空間、蝋燭の火が部屋を照らしている。自然光はなく、同質の石造りで囲まれており狭い。



「目が覚めましたか」


 知っている声を聴き、記憶が蘇る。シスターが何か呟いた後に意識を失ったということまで覚えている。体を起こし膝立ちし声のする方に振り返る。すぐそこには、妖艶な修道服に身を包みこちらを見下ろす彼女がいた。覗くつもりはなかったが、サイドスレットからはガーターベルトがちらりと見えた。ガーターストッキングを履いている。右手には鞘に収まった剣が握られていた。


「……ここはどこですか?」



「教会の地下。あなたの嘘はもうわかっている」


「……タカハシ・ナイト」



 その一言を聴いてマギアは心を震わせる。


 なんで知ってる。誰にも話していないはずだ。高橋梛絃とは本名だ。どこまでバレてる?それになぜ、教会の地下なんだ。


 マギアが口を開くよりも先に――


 クレイが鞘に収まったままのブレードソードをマギア目掛け、振り抜く。

 破裂音が部屋全体に響く。マギアの体は勢いよく吹き飛び地面に顔面を強打する。血が飛び散り、数本の歯が床に落ちた。


 何をされたか理解できなかったが、強烈な痛みがそれを理解させる。呼吸が荒ぶり殴打された頬を手で押さえ体を縮こませる。


「口で言うよりこっちの方が早いでしょ」


 膝を抱え蹲る姿など関係なしに背中目掛け追撃する。片手だけで頭上まで振り上げた剣を真下に振り下ろす。骨がしてはいけない音を上げる。


「――あ˝、あ˝あ˝」


 衝撃で苦痛が声になる。聞こえていないように再び振り下ろされる。


「――ぁ˝あ˝、」


「私に嘘をつき、騙した。この都市唯一の英雄に嘘をつき騙した。」


 嘘は確かについたが、ここまでのことをされるほどの嘘ではない。酷すぎる……


 打撃を与えるごとに悲鳴も連なりそれは幾度も繰り返される。



 何度目だろうか、いずれ悲鳴が絶えた。それに気づき、クレイは振り下ろすのをやめた。


「おっと、これでは殺してしまいます。方法を変えましょう。」


 クレイは剣を乱雑に放り投げ蹲るマギアの首根っこを掴み、壁まで引きずる。


 マギアは足を揃えて真っ直ぐ伸ばしたまま壁に浅く寄りかかる。頭は壁に支えられ正面を向いている。


 クレイはマギアに馬乗りのような形で上に乗る。体が密接に重なる。息が交わるほど至近距離で顔を合わせる。


 体はもう動かない。起き上がることもできないだろう。それでも、やるべきだ。


「……ファイアボール」


 隙を見て唯一の武器である魔法を唱える。防ぎようなどない。


 それが発動――しない。


 驚愕がマギアの顔に現れる。


 気にもせず、クレイがマギアの両手を後方壁側に回し、指を絡めて手を繋ぎ自由を奪う。


「反撃のつもりですか。哀れですね。答えを教えてあげましょう。あなたがしているその首輪は火属性を完全に無効にするアイテム。」


 なんでもありか。


「無駄な抵抗はやめておいた方がいい。あなたの記憶は一通り覗かせてもらいました。さあ、答えてもらいましょう。

 どこから来ましたか?」


 記憶を覗く?それができるのなら質問の必要がないはずだ。何の意味がある。


「荒れた峡谷、気づいたら転移してました」


「それは知ってます。どこにあるかを聞いています。」


「ここより西、森を抜けた場所です」


「アズラム森林一帯付近に、そのような場所はない。」


 動揺が隠せない。そんな訳がない。歩いてきたのだ。それを否定されれば自分はどこから来たのか。


「わかりました、口を割ってもらいましょう」


 そう言って、絡めていた指と手を緩め、マギアの首元へと移す。


 マギアは首を絞めているクレイの手をどかそうとその上から覆う。


 ビクともしない。


 苦しい。息ができない。頭が爆発する。苦しい。


 足をばたつかせる。焦点が合わず、明後日の方を向くが視界には女の顔が映る。


 苦しい。苦しい。


 力を振り絞って、どかそうとするが少しも動かない。


 視界が滲んできた。体が動かない。暗くなってきた。


 マギアが失神する前にクレイは力を緩めた。


「その表情いいですね。私好み、かわいいです。」


 今まで見せなかった魅惑的で狂気的な笑みを浮かべている。


「答える気がないみたいですね」


 クレイは普通のものよりも短く細い短剣を取り出し、マギアの右胸に突き刺した。


 朦朧としたマギアの意識が鋭い痛みで引き戻される。


「あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝」


 容赦なく引き抜く、絶叫も共に。

 続けて、右脇腹――刺す。

 左胸、左脇腹――刺す。

 右肩、左肩、左腕、右腕――刺す。


「話す?」


「何も知りません!わかりません!」


「そう」


 数十回を優に超える行為は休みなく続けられる。飛び散る流血、肉片、悲鳴。肉体は原型をとどめてはいない。


 辺りは血の海、返り血でクレイは汚れている。


 マギアは出血の酷さから死を覚悟し、ヒールを使うことを決心する。


「ヒール」


 唱えた瞬間。時が止まる。時間がゆっくりと流れる、強烈な痛みの渦がやってくる。涙が枯れるほど流れる。口が震える。のたうち回る。


「あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ˝あ」


 開いた傷は修復される。全ての箇所が同時に治る。全身の状況が手に取るように分かる。余韻は放心状態他ならない。


 今ので完全に魔力が底をついた。


 クレイは終始、魅惑と狂気が両立した笑顔をしていた。


「わざわざ治療したんですね。意味ないのに。」


 短剣が体を引き裂く。悲鳴は小さい。声が出なくなってきた。表情は依然、苦痛を浮かべる。


「いい顔ですね。折角です、あなたが私のペットになるというのなら殺さないで上げましょう。というのも、情報は大して欲しいとも思いませんし。あなたは知っていなさそうですし。」


 手が一時止まる。


 クレイはマギアに聞こえない声で魔法を唱え、一言告げる。


「私クレイ・アルメリアと、タカハシ・ナイトとで奴隷契約を結ぶ」


 ただ、死にたくない。マギアは声を振り絞り答える。


「――ペットに、なり、ます」


 承認すると、意識が鎖で繋がれた感覚を感じる。クレイとの繋がりを感じる。


 笑顔が増し、クレイは短剣を仕舞う。


 血が滴り落ちる。マギアのヒールでは失った血液は元には戻らない。このまま流れ続ければ長くはない。



「『リジェネレーション』」


 クレイがそう告げた瞬間。マギアは激痛を覚悟したが――


 ――それは痛みはなく、逆に体がポカポカと温められる癒しの感覚になった。極楽、痛みからの解放。穏やかに回復する。気力も体力も回復していく。気持ちのいい時間が流れる。何事もなかったかのように心身ともに全快する。


 救いの手がさし伸ばされたことに感激し、涙が流れる。


 無意識に目の前にいるクレイに抱き着く。赤子のように。クレイは避けることなく受け入れ、マギアを抱擁し背をさする。優しさの籠った慈愛の腕の中に包まれる。

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