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鉄同盟-Iron Alliance-  作者: 無糖
第一章 人類襲来篇
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第6話 コーダの剣

 整備を終えたランデは校庭に集合した。

「ランデ、終わったか!すぐ行くぞ!」

 キースは腰に剣と拳銃を装備し、ランデを待っていた。

 G地区にはドルを小隊長として、ランデ、そしてキースが向かうこととなった。

 基本的には、自身が暮らす生活区に沿って出撃場所が決まっている。ドルも同郷、G地区出身だった。

 かつ、もっとも危険な区画であることも想定される。優秀な兵を送り込むのもまた道理であった。

 現地には既に正規の兵士部隊も向かっており、そこに合流する形となる。

「時間はマジでなさそうだぜ。見ろあれ」

 キースが指を指す。G地区の方面から、複数の落下傘が降りてきている様子は、中央区からでも確認できた。

 地上戦となれば、地下の避難所に逃げている国民たちも安全ではない。

「速攻で行くぞ。起動!」

 ドルの掛け声で、ランデとキースも起動、と声に出す。

 すると、彼らが全身に纏った黒のスーツは薄紫の輝きを仄かに放ち始める。

「機動開始!」

 指示と共に、キースの身体は大きく跳躍した。その様は、外から見れば紫の光線にしか見えない程に早い。

 これが、ザリア教国国軍標準装備、ビームスーツだ。

 生地は特殊なゴムを繊細に織り込んでおり、法術によって自在に伸縮させることで、起動力を飛躍的に向上させることができる。また、負傷により動かなくなった体も、ビームスーツの伸縮によって無理矢理動かすこともできる。

 さらに高性能なバイタルマシンを搭載しており、自身の残存パトス量や、負傷状況を確認できる。

「キース、前に出過ぎるな!」

 ドルが指示する。焦りから先行していたキースを追いかける形となっていた。

 全速力の移動となっていたため、本来電車を使ってようやく30分程度で到着するG地区まで、ものの10分で移動することができる。

 ビームスーツに搭載されている通信機で、ランデはキースにコールした。

「キース、それじゃもたなくなる」

「わかってるさ。けどあの爆煙を見ると…」

 パトスは心の表れだ。当然限界はある。移動にリソースを割き過ぎれば、いざ戦闘で使えるパトスが限られてしまう。

「だからこそだよ。あの様子じゃ地上戦が予想される。体力は温存しないと。それに、先生もいる」

「っ…そうだな。冷静に、ならなきゃだよな」

 キースは唇を噛む。徐々に空を裂く破裂音が聞こえるようになってきた。

「銃声だ…近いよ」

 ドルの声に小隊の緊張感が高まる。

 やがて中央区とG地区の界壁がドル小隊の視界に入った。

 非常時のみ界壁が展開し、中央区を防衛できるようになっているのだ。

 界壁の上には固定砲台と機銃が設置されており、万一の襲撃時の対空手段となっていた。

 G地区と隣接地区を中心とした攻撃は徐々にその範囲を広げており、中央区付近まで前線は広がっているようだ。

 今はまだ界壁とその上の固定砲台による応戦で、中央区への被害は少ないが、それにも限界がある。

 中央区での戦闘が始まれば、教国の損害はさらに多大なものとなり、それは反撃の機会を失うどころか、種が滅亡することにも直結しかねない致命傷となる。

 いち早く避難民の保護を終え、新兵たちも戦闘に参加する必要があった。

「フーバーニさん!」

「来たか新将校様!だが、あいにく歓迎してられそうにない!」

 キースが声をかける。両地区を繋げる界壁の門には小太りの門兵が立ち、界壁に開けられた狙撃口からライフルを撃っていた。G地区出身の兵士であり、ランデたちも顔見知りであるフーバーニ二等兵だ。

「向こう側は既に戦場だ。地上戦が始まってる。心して行けよ」

「はい!」

 階級はランデらの方が既に上ではあるが、幼い頃からの馴染みだ。その砕けた態度が、逆に新兵に安心感を与えていた。

「俺の友を、家族を、みんなを頼む。そして何より、死ぬんじゃねぇぞ!」

 フーバーは、拳を硬く握りしめていた。本当は自分の足で家族を助けに行きたい。しかし指揮系統から逸脱した行動を取るわけにはいかない上に、そもそも自身の戦闘力が低い事を理解していた。その無力さを、遥か年下の少年たちを死地へ送り込む情けなさを、彼は呪っていた。

「大丈夫さ、フーバーニさん。俺たちはきっとみんな助けて、そんでもって生きて帰ってくる。だから安心して、ここを守る責務を果たしてくれ!」

 キースはそんなフーバーニの肩を叩く。

「ふっ…大きくなりやがって」

 フーバーニはキースの肩を叩き返し、門を開けた。

「ドル。お前が行ってくれるなら安心だ。頼むぜ。お前のとこの母ちゃんには恩があるんだ」

「もちろんです」

 こうして激励を受けたドル達は、界壁を越えて戦場に踏み入った。


 ーーーーそれから10分後、ドル小隊は壊滅することとなる。



【20分前、G地区】

 コーダは避難所に到着していた。

 避難所は各所に設置されたハッチを開けることで入ることができ、最も大きな空間は学校の校庭地下にある。

 最初のセイレーン天井の崩落による犠牲を除けば、G地区におけるほとんどの生存者がこの避難所へ逃げ込んでいることになっている。

 避難所のハッチは事態発生から5分で自動的に校庭付近のものを除いてすべて閉鎖されるようにできている。

 よって、すでに襲撃から5分以上経過した今となっては、敵が居住層からの侵入であった場合、避難所にたどり着くには、この校庭を経由しなくてはならない。

 このシステムはセイレーンが人類のものであった時のものを流用しているため、システムは把握されている。その前提のもと、敵軍は校庭を目指していると予想できた。

 したがって、G地区の主戦場は、校庭のメインハッチ前となる。

 コーダが現着したころには、すでに多くの兵士がその場に到着しており、校舎を要塞として、激戦を繰り広げていた。

 銃撃は絶え間なく鳴り響き、爆弾による衝撃波が心臓を叩き続ける。

「ッ!!」

 流れてきたロケットランチャーを、コーダは腰に隠していた剣で弾き返し、空中で爆散させた。

 帝国の歩兵はセイレーンの端から押し寄せるように接近し、この初等学校に至っている。

 校舎はG地区中心部にあり、そのさらに内陸にコーダの教会はある。

 コーダにとっては残したクラメルのためにも、ここから先に進ませるわけにはいかなかった。

「好き勝手やってくれたな…!」

 コーダは剣を強く握り、校庭で陣形を取る帝国歩兵中隊に突っ込む。

「…?なんだあのおっさんは」

「パニックになったか?射殺しろ」

 校庭に単身で現れたボロボロの中年男性を目にし、帝国歩兵は油断した。

 だが、校庭からその様を見ていた兵士の一人は、既に彼が何者なのか気づいていた。

「コーダ中将!」

 銃を構える敵の本陣に、徒歩で挑むその姿はあまりに無謀。

 凶弾がコーダを襲うが、弾丸は彼の剣に弾き返された。

「なっ!?」

 恐るべき神業に、帝国兵は動揺する。

 侮る相手ではない。そう気づいたときはすでに遅かった。

 振りぬいたコーダの剣は、本来の刀身を遥かに超えた先にいる帝国歩兵前衛4人を、横なぎに引き裂いていた。

 その剣は、いくつもの小さな刃がワイヤーで繋がれ一本となっている蛇腹剣だったのだ。

 教国の標準装備の一つ。法術によって自らの手足のように動く剣から放たれる斬撃は、射程、威力、自由度ともに並みではない。

 とは言え、銃撃を防ぐまでに至る剣士はそういない。

 コーダは、特別強力なパトス量を持って生まれてきたわけではなかった。

 だが、天性の瞬発力、それを支える視力、そして繊細なパトスコントロールによって、強力な剣士として階級を上り詰めたのだ。

「相手は一人だ!物量で倒せ!」

 帝国兵はライフルにロケット弾などの兵器でコーダを集中して狙うが、無意味だ。

 足の負傷によって前線は退いたコーダではあったが、その剣技の神髄は、その圧倒的な防御力にあった。

 全ての弾から身を守るだけではなく、すべて撃ち手である帝国兵に弾き返して見せた。

 自陣に戻るロケット弾による爆破で大打撃を受けた帝国歩兵は後退を余儀なくされる。

 しかし、陸を制圧したところで、最大の問題である空軍の対処はできない。空中からの機銃掃射が絶えずコーダを襲う。

「くっ…龍神流、宝玉麟!」

 コーダは蛇腹剣を自身の周囲で高速回転させ、球体状の鉄のバリアを作り出す。

 攻撃自体をいなすことはできるが、流石の物量。刃の損耗も激しい。加えて歩兵も反撃ができない距離に下がっていくのを確認した。

 時が経てば経つほど状況は不利になっていく。

 そして最も深刻なのはパトスは損耗だった。残量が限界となり、コーダは膝を付いた。

 回転も遅くなり、宝玉麟に隙間が生まれる。

「死ねっ!!」

帝国兵の銃撃が、その綻びを的確に狙い撃った。

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